愛してくれるなら誰でも良かった。
好きとか大好きとか会いたいとか、言ってくれるそんな素敵な恋人がほしかった。
二人きりの帰り道、さりげなく歩道側に寄せてくれる、そんな優しい恋人と手を繋いで、抱き締め合ってキスをする。
そんな恋愛をしてみたかった。

そう……求めていたのはそういう恋愛。

汚れた感情も、相手の嫌いなところ直してほしいところも、言いたいこと全部言い合って、
すべてをさらけ出す恋人を求めていた。

どんな私も愛してくれて、ずっと好きだという感情を育んでくれる恋人をずっと夢見てきた。

そう……そんな恋人を今日失った。


「ごめん。世那(せな)のこともう好きじゃない。だから俺と別れてほしい」

息ができなる感覚。
初めて味わったとてつもない絶望感。

「好きじゃないって、どういうこと?」

声を振り絞る。声が震えているのは怒りのせいではない。
怒るという感情よりは今は、予期しないことに信じられずにいる。

「そのまんまの意味だよ。もう世那のことを好きでいられない。
他に好きな人ができたわけじゃないよ。そんな理由で世那を振ったんじゃなくて……」


"ただ”と彼は続ける。

「世那からの愛を感じられなかったから。
そんなの、いつの間にか俺の気持ちも冷めるに決まってる」

「なに、それ」

その言葉に一気に怒りが沸々と湧いてきた。

「私はちゃんと愁斗(しゅうと)のこと好きだったよ。今も好き。
私が愛情表現苦手なこと知ってるでしょう?ねぇ、お願いだから別れようなんてやめて」

「知ってるよ、世那が自分から愛情表現するの苦手なことくらい。
でも、知ってるけど…それを受け止められない自分がいるんだよ。やっぱり恋人にはたくさん愛情表現してほしい」

人は愛されないと愛してくれない生き物なのだろうか。
だとしたら、そんなの……私だってそうだ。
愛されていないことを知った瞬間、私はあなたを愛せないと思った。



「……好きだよ」

「うん」

「大好きだよ……」

「……うん」

「愛して、るよ」

だからもう一度、私のことを――

「世那、もういいよ」

彼は言った。

「もう終わりにしよう」

終わりだ。もう戻れないのね。
愛は儚くも消えてしまうものだ。

片方の愛が薄れてしまえば、もう片方の愛も薄れてしまう。

人は誰しも愛されたい生き物だ。
愛してくれるなら私も愛すわ。そんな考え方でいいのだろうか。
私はまだ未熟者だから本当の愛をまだ見つけられてないの。
だから正解なんて分からない。
それでもいつしか、心の底からこの人を愛したいと思える人に出会えることを信じて、今を生きる。