展望デッキからは、市街地が一望できる。視界を遮るもののない景色を眺めていると心ものびのびと開放されていくような気がするので、彼はこの場所が気に入っていた。

 景色を眺めながらチャイを飲み、すっかりリラックスモードになった彼は何気なくズボンのポケットへ片手を入れた。すると、カサっと何かが手に触れた。取り出してみると、チャイを買った際にサービスで貰った小袋だった。中身はフォーチュン・クッキーだと店員は言っていた。店の宣伝になればと、試作品をサービスで配っているということだった。

 ちょうど小腹が減っていた彼は、袋を開けてみる。途端にバターのほのかな香りに鼻腔をくすぐられた。クッキーの窪んだ部分に少し力を加え、2つに割る。中の紙を取り出してから、彼は一かけらを口に入れた。それほど甘くなく、ちょっとパサつくような気がする。しかしその後にチャイを口に含むと、チャイのミルクとクッキーのバターの香りが口の中で程よく混ざり合い、とても美味しかった。

(これは、商品化されたら買ってしまうかもしれないな)

 そんなことを思いながら、残りの一かけらも口へ入れる。口の中の甘さに浸りながら、彼は手の中に残った小さな紙片を見る。

『おはようは 距離を縮める 合言葉』

 小さな文字でそう書かれていた。

 彼は占いなどの類は信じない主義だった。そもそも、この紙片の言葉はカフェの店員が考えているのだろうから、神社などのおみくじのように有難いお言葉ということでもない。そうは思っても、彼はどうしても心の中で突っ込まずにはいられなかった。

(これは、おみくじじゃない! 標語だよ、これは!)

 彼は紙片を見つめ、込み上げてくる笑いに堪える。