最初は、ああ、いいなって。蜜蜂が花の香りに誘われるように、それはもう、心地よくて。
 気づけば音楽室へと引き寄せられてしまったカラダは、なんの抵抗も躊躇もなくその扉を押し開けた。


 優しい音だな、と思った。それから、きれいな音を出すひとだな、と思った。
 弾いているのはどんなひとなんだろう、とも思った。

 扉を開けて、中へ入る。ピアノと重なっていた人影が、鮮明になる。




 知りたくなかった。


 こんなに優しい音を紡いでいるのが、

────まさか、きみだったなんて。