お目覚めかい。
 
 ふいに、囁きが洩れてきた。わたしの微睡んだ心にやわらかく触れてくる、静かでいてやさしいあなたの声。
 
 やあね、ずっと起きていたわ。

 からかいを含んだ声色に、わざとそう言った。本当はいつもと変わらない目覚めの声に、ちょっぴりほっとしている。けれど不安になった。わたしはときどき、自分でも知らないうちに眠ってしまうようだから。
 あなたはほがらかに笑った。

 君はいつも眠っているよ。僕のかたわらであらゆる喜びを夢見ながら。そう、まるで生まれたての星のようにね。

 そんなことないわ。

 わたしはむきになって言い返した。いつも眠ってなんかいないわ。だって、あなたの姿をずっと見つめているのよ。ふかくて広い暗闇の底でまぶしくたたずむ美しい姿を。

 そうかな。

 あなたはおだやかに笑っている。いつもいつもあなたはおだやかだ。明けることのない全てを眺め、ゆったりとした静寂(しじま)のながれに揺られ、星々のきらめきを心から見守っている。わたしも一緒に寄りそって。あなたのいとしむような横顔を見つめながら……

 やれやれ、またお眠りだね。
 
 くすぐるような笑い声。
 
 君がいつ目覚めても、僕は必ずそばにいるよ。

 眠らないわ、とわたしは呟いた。大丈夫よ。わたしだってあなたのそばにいて、あなたの横顔を見つめている。
 あなたのそばにいるわ。
 わたしもずっと……



 宇宙の片隅で、二つの星が囁きあっている。
 互いに寄り添いあって。
 地球と月は、いつまでも……