鐘が鳴り響く。荘厳なその音は、今から結婚式が行われる事を、都市中に伝える大きな音をしている。その音色はただの鐘にはとても思えない神聖さを内包している。
ハロルドには、既に両親は亡い。いつかマリアローズは、彼に入ると泣きながら叫んだ記憶をふと思い出し、胸が痛くなった。しかし現在、宰相閣下が代わりに、ハロルドの付添人をしている。自分達に氷の彫像展の招待状をくれて――今ならば分かる、後押ししてくれた温かい人だ。
マリアローズの隣には、帝国に嫁いでいたため、近い場所にいた姉のミーナが立っている。歳の離れた姉は、久方ぶりの再会に、涙を流して喜んでくれた。
それぞれ、付添人と共に歩き、祭壇まで進んでいく。
途中でマリアローズは、クラウドの姿を見つけた。クラウドは楽しそうな顔をして、マリアローズとハロルドを交互に見ると、口角を持ち上げてニッと笑った。マリアローズは知らんぷりをして、真っ直ぐに前を見る。
祭壇の向こうには、一段高い場所に、ヨシュア師が立っている。その顔には、柔らかな微笑が浮かんでいた。それに安心して、マリアローズは祭壇の前で立ち止まり、同じ速度で歩いてきたハロルドと向き合った。付添人は、そこで離れた。
燭台の焔が揺らめく中、ヨシュア師による、結婚式で唱えられる祝詞が読み上げられていく。その間、マリアローズはずっと、じっとハロルドのサファイアのような瞳を見ていた。ハロルドもまた、力強い瞳で、こちらを見ているのがマリアローズには分かった。
これから、一生をかけて大切にする相手。
義母となった前正妃様に言われるまでもない。マリアローズは、ハロルドを幸せにすると決意している。
「――それでは、誓いのキスを」
ヨシュア師の言葉で、マリアローズは我に返る。すると、一歩前に出たハロルドが、マリアローズのヴェールをゆっくりと持ち上げ、後ろに流した。そしてマリアローズの顎に触れると少しだけ持ち上げて、己は屈んで首を傾ける。
幸せに浸りながら、ゆっくりと目を伏せたマリアローズは、そのすぐ後に、柔らかな感触を覚えた。心と心が、改めて通じ合ったような気がした。