聖夜の日が訪れた。前々からこの日は一緒に過ごそうと約束をしていたから、マリアローズは大切そうにプレゼントを持ち、己が婚姻後に使う部屋へと向かった。ここで二人で話そうと、ハロルドと約束していたからだ。僅かな緊張と胸の疼きの両方を感じながらマリアローズが扉を開けると、既にハロルドの姿があった。
刺繍の美しい長椅子に座っているハロルドは、マリアローズを見るとどこか苦笑するように笑った。いつもより、その表情が硬く見え、瞳に迷いが見て取れる。そう分かるくらいには、長い時間、共にいた。主に仕事だが。
「座ってくれ」
「ここは私のお部屋よ」
マリアローズは微笑して、ハロルドの隣に座す。そうして横に顔を向けた。そこにいる白雪王は、まるで精密な人形のように美しい。だが、マリアローズは彼の顔に惚れたわけではない。惚れた結果、顔も好きになっただけだ。
「マリアローズ、聞いて欲しいことがある」
「なに?」
「俺は……――サテリッテを極刑に処すように命じた。今、彼女の遺体は墓地にある」
「っ」
その声に、マリアローズは息を呑む。冷や汗が伝ってきた。
「お前が庇った彼女を、俺は助けなかった。俺は、そういう人間だ。俺は、俺にとっての敵や悪には容赦をしない。それが俺だ」
平坦な声音でハロルドが述べた。その声がとても悲しそうに、マリアローズには聞こえた。心に、辛さが響いてくる。ハロルドは、本当はそうしたいわけではないと分かる。けれど、国王として決断したのだろう。
「そう。貴方が決めたのならば、私に異論はありません」
「っ、本音か?」
「ええ。それよりハロルド、どうしてそんなに偽悪的にものを言うの? 決めたのならば、自信を持つべきですわ」
きっぱりと断言し、強い眼差しを、マリアローズはハロルドへと向ける。
その瞳の力強さを受け止めると、泣きそうな笑顔で、小さくハロルドが息を吐いた。
「俺は、お前が弱いと誤解をしていたようだ。マリアローズは、俺の想像よりも、ずっと強かったらしい」
「当たり前じゃない。私は貴方の隣に立つのよ? 強くなければ務まらないわ。それは今までだってそうだった。どれだけ私が嫉妬されたと思っているのよ」
はぁと息を吐いたマリアローズは、それからハロルドの腕を引いた。そしてハロルドの手を両手でギュッと覆うように握る。
「冷酷な選択をする俺が、怖くないのか?」
「それは必要なことなのでしょう? 私は貴方の決断を信じます」
「マリアローズは、いつも俺の欲しい言葉をくれるんだな」
そう言うと、マリアローズの手を解き、横からハロルドはマリアローズの体を抱き寄せた。そしてマリアローズの髪を自分の肩に押しつけるようにし、天井を見上げる。涙を乾かす事に必死なハロルドには気づかず、マリアローズは心地の良い体温に浸っていた。
「ねぇ、ハロルド。これを開けて」
マリアローズはプレゼントの事を思い出し、微笑してハロルドへと渡した。
「ああ、悪いな、俺は何も用意していないんだ」
「いいの。私が渡したかっただけだから」
彼女の声に、素直にハロルドが開封する。そして目を瞠った。中に入っていたのは、銀細工の繊細な腕輪だった。銀色の細い鎖で出来ている。そして一カ所にだけ、青い魔石が嵌まっていた。
「侍女に聞いたの。街で流行しているお守りだと。瞳と同じ色の魔石を、この鎖につけると、悲しい時に、明るい気分になれるそうよ。誰でも落ち込む時はあるけれど、ハロルドには笑っていて欲しいから」
温かなマリアローズの声音が、室内に響く。柔和に笑って頷いたハロルドが、早速手首にそれを身につける。それからハロルドは、より強くマリアローズを抱き寄せて、彼女の額に口づけを落とした。
刺繍の美しい長椅子に座っているハロルドは、マリアローズを見るとどこか苦笑するように笑った。いつもより、その表情が硬く見え、瞳に迷いが見て取れる。そう分かるくらいには、長い時間、共にいた。主に仕事だが。
「座ってくれ」
「ここは私のお部屋よ」
マリアローズは微笑して、ハロルドの隣に座す。そうして横に顔を向けた。そこにいる白雪王は、まるで精密な人形のように美しい。だが、マリアローズは彼の顔に惚れたわけではない。惚れた結果、顔も好きになっただけだ。
「マリアローズ、聞いて欲しいことがある」
「なに?」
「俺は……――サテリッテを極刑に処すように命じた。今、彼女の遺体は墓地にある」
「っ」
その声に、マリアローズは息を呑む。冷や汗が伝ってきた。
「お前が庇った彼女を、俺は助けなかった。俺は、そういう人間だ。俺は、俺にとっての敵や悪には容赦をしない。それが俺だ」
平坦な声音でハロルドが述べた。その声がとても悲しそうに、マリアローズには聞こえた。心に、辛さが響いてくる。ハロルドは、本当はそうしたいわけではないと分かる。けれど、国王として決断したのだろう。
「そう。貴方が決めたのならば、私に異論はありません」
「っ、本音か?」
「ええ。それよりハロルド、どうしてそんなに偽悪的にものを言うの? 決めたのならば、自信を持つべきですわ」
きっぱりと断言し、強い眼差しを、マリアローズはハロルドへと向ける。
その瞳の力強さを受け止めると、泣きそうな笑顔で、小さくハロルドが息を吐いた。
「俺は、お前が弱いと誤解をしていたようだ。マリアローズは、俺の想像よりも、ずっと強かったらしい」
「当たり前じゃない。私は貴方の隣に立つのよ? 強くなければ務まらないわ。それは今までだってそうだった。どれだけ私が嫉妬されたと思っているのよ」
はぁと息を吐いたマリアローズは、それからハロルドの腕を引いた。そしてハロルドの手を両手でギュッと覆うように握る。
「冷酷な選択をする俺が、怖くないのか?」
「それは必要なことなのでしょう? 私は貴方の決断を信じます」
「マリアローズは、いつも俺の欲しい言葉をくれるんだな」
そう言うと、マリアローズの手を解き、横からハロルドはマリアローズの体を抱き寄せた。そしてマリアローズの髪を自分の肩に押しつけるようにし、天井を見上げる。涙を乾かす事に必死なハロルドには気づかず、マリアローズは心地の良い体温に浸っていた。
「ねぇ、ハロルド。これを開けて」
マリアローズはプレゼントの事を思い出し、微笑してハロルドへと渡した。
「ああ、悪いな、俺は何も用意していないんだ」
「いいの。私が渡したかっただけだから」
彼女の声に、素直にハロルドが開封する。そして目を瞠った。中に入っていたのは、銀細工の繊細な腕輪だった。銀色の細い鎖で出来ている。そして一カ所にだけ、青い魔石が嵌まっていた。
「侍女に聞いたの。街で流行しているお守りだと。瞳と同じ色の魔石を、この鎖につけると、悲しい時に、明るい気分になれるそうよ。誰でも落ち込む時はあるけれど、ハロルドには笑っていて欲しいから」
温かなマリアローズの声音が、室内に響く。柔和に笑って頷いたハロルドが、早速手首にそれを身につける。それからハロルドは、より強くマリアローズを抱き寄せて、彼女の額に口づけを落とした。