妖怪村の異類婚姻譚

 ――だが、小姫の宣言もむなしく、次の日には左足が消えていた。

「な……、なんで……!」

 絶望し、真っ青になった小姫を見て弥恵がつぶやいた。

「あらあ。腕だけじゃなかったのね。この調子だと、左側全部が消えちゃうかもしれないわ。そうしたらどうなるのかしら。右半身だけで生活できるのかしら。物とか食べたら落ちちゃうのかしら?」

 小姫とは対照的に、弥恵の口調はこの期に及んでも能天気だ。小姫は弥恵の言葉を想像し、体の真ん中から縦に真っ二つにされた自分を思い浮かべた。本当にそんなことになったら……ショックで気絶する自信がある。

 固まってしまった小姫に向かって、弥恵はしかつめらしい顔をする。

「小姫。こうなったら観念しなさい。握手なんて場当たり的な対処法じゃ、いつまでたっても解決しないわ」
「……、で、でも……」

 やはり結婚しろというのか。しかし、王子様が河童になるなんてあんまりだ。それに、十六歳では法律的にも結婚はできないはず。

「……仕方ないわねえ。じゃあ、婚約ならどう? 結婚ほどの結びつきはないけど、多少は効果があると思うわ」

 小姫が必死に訴えると、弥恵はため息をついてそんな妥協案を提示した。

 なぜそんなに結婚させたいのか。母親として、そんな適当でいいのか。娘の将来が心配だとは思わないのか。

 いろいろ言いたいことはあったが、背に腹は代えられない。小姫はしぶしぶ了承した。婚約の方が、結婚よりは断然ましだ。籍も入れなくていいし、撤回もしやすいだろう。

 そう言うと、妖怪とは口約束だけで成立するのだと弥恵が言った。結婚も婚約も、言葉を交わすだけで意味があるのだと。

「だから、妖怪と話をするときは気をつけなさいね。今のなしとか、言い間違いだったとか、こっちが一方的に取り消そうとしても通用しないから」
「わ、わかった」

 とりあえず、合意があれば撤回は可能なのだろう。そこがわかれば十分だ。
 弥恵はすぐに乙彦を呼び、契約を交わした。

 これでとにかく、乙彦とつながりができ、接触しなくても妖力を補ってもらえることになる。
 おかげで嘘のようにすんなりと左足は元に戻ったが、初対面がアレなだけに、小姫はじとっとした目で彼を睨んだ。

「……言っとくけど、これ、ただの時間稼ぎだから。他の方法が見つかったら、すぐに婚約は解消だから!」
「私も、人間と婚姻なんてごめんなのです」

 乙彦の細められた目と、小姫との間で火花が散る。

 それを、弥恵が微笑みながら見つめていた。