妖怪村の異類婚姻譚


 ……どれだけ時間が経ったのだろうか。

 暗闇に走った光に刺激され、小姫はゆっくりと目を開けた。

「――お嬢さん!?」

 光源に目が慣れるよりも早く、駆け付けた青峰に抱き起こされる。

「……青峰さん? どうしてここに……」
「いつまでも帰って来ないから、探しに来たんですよ! 近所の人が、お嬢さんが山に入ったのを見かけたって……。それで、なんとなく地面の濡れているところを辿ってきたら、ここに着いたんです」

 青峰は懐中電灯を下ろし、心底ほっとしたように大きく息をついた。

(地面の、濡れているところ……?)

  そんなところあっただろうか。
 ぼうっと考えていると、青峰が左腕を引っ張って、小姫を立たせてくれる。

「さあ、雨が降る前に帰りましょう!」
「――あっ……。待って! まだ、乙彦が――」

 促されて数歩歩きかけてから、小姫は立ち止まった。

 彼をおいていくわけにはいかない。花の力がちゃんと作用したのか、確かめられていないのだ。もし乙彦の怪我が治っていなければ、急いで治療する必要がある。

 しかし、青峰は怪訝そうに眉をしかめた。

「乙彦? ってあの、河童の? ……いえ、ここにはお嬢さん以外誰もいませんでしたよ」
「そんなはず……」

(そんなはず、ない。だって、さっきまで、一緒に――)

 乙彦に抱き寄せられた感覚まで、しっかり背中に残っている。

 小姫はそう言いかけたが、最後まで口にすることはできなかった。

 乙彦がいたはずの場所を振りかえってみると――……。


 ……青峰の言う通り、洞窟にはもう、誰の姿も無かったのだ。