私が見たひとみは、木の上に立って、■■沼を見下ろして笑っていました。

それから私は鈴堂瞳さんのことを校長先生に聞いて、その後でまたひとみを見かけた木まで行ってみました。

見上げた木の上にひとみはいませんでした。

なんの変哲もない木を見上げる私が不可解だったのでしょう。通りかかった高齢の男性に声をかけられました。私が正直に「木の上に女の子がいたんです」と言うと、男性は、「ああ」と言いました。

それから少し考えた様子で、男性は再び口を開きます。

「俺も見たよ」

やっぱり見間違いではなかったと、その時は思いました。
男性は言葉を続けます。

「いやぁ、たまげたよ。学校にあったひとみの像ってのにそっくりでな」

やはりあれはひとみだったと、思ったのですが。

「それにしても、今時の子も木登りなんかするんだ。俺が見たのは大昔だけどよ」

私が見たのはひとみだったのでしょうか。鈴堂瞳さんだったのでしょうか。男性が見たのは誰だったのでしょうか。そちらもひとみだったのでしょうか。ひとみは鈴堂瞳さんなのでしょうか。

きっとそうだと思います。