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 初めまして。はい、そうです。ホームページ見て。
 火事現場の写真に成功した人を募っているんですよね。
 あります。なんなら僕は間近で見ていました。
 写真を見つめていた彼女を助けたかったです。え、誰かって?
 俺の名前は福田次郎。あ、俺の名前じゃなくて目撃した彼女の名前でしたか。彼女は山梨真弓です。なんで名前を知ってるかって? ああ、その、知り合いで。
 ……なんの? んー、その、バイト先で知り合って。あ、僕は弁当屋で働かせてもらってます。
 え? 正社員じゃないです。アルバイトです。運よく受かったので。今は不景気ですからね。アルバイトでも感謝しないと。
 僕がここを通りかかった理由ですか。
 んー、たまたまです。その散歩していて。
 スーツ姿で? なにいってるんですか。今日はたまたま仕事帰りでスーツなだけで、いつもは違います。
 いつもはどんな服装? んー……スウェットですかね。
 え、なんでスウェットで外を歩いてるのかって?
 んー……まあすぐに家に帰るしこのままの格好でいいかなって。
 散歩する予定だったやつがスーツ姿で散歩してすぐ帰る予定だったなんておかしいって?
 んー、僕はおかしいなんて思わないけどなあ。
 嘘なんてついていません。
 写真ですか、お渡ししますね。
 そうです、山梨真由美の写真です。
 写真たてを見て、炎の中に消えていく。
 本当は助けたかったけど、あの炎じゃ無理でしょうね。
 だから最後にこの光景を焼き付けておこうかと。
 彼女は美しい女性ですよね。そりゃ弁当屋でバイトしてるような子ですけど、出会った時は本当に普通の人だったけど。
 一緒に働いているうちに、冴えない僕にも優しくしてくれる本当に天使みたいな子だなって。
 だから告白したんです。でも旦那さんがいるからって断られてしまって。
 だから彼女に高価なプレゼントをあげ続けたんです。最初は遠慮して受け取ってくれなかったけど、彼女の好きなブランドとか聞いて猛烈にアタックしたんですよ。そうしたら、オッケーもらえて、しかも今の旦那と別れてあなたと一緒になるまでいってくれた。
 ほんとうにほんとうに嬉しかったです。
 彼女は最終的に僕を選んでくれた。証拠? ありますよ。
 火事の時、写真を眺めているでしょ? あれは間違いなく僕との写真なんです。
 部屋の中にある家族の写真は全て娘の月衣の部屋にあると伺っています。僕との写真を一枚だけ彼女はこっそり部屋に隠していたわけです。
 火事の時、彼女も僕のことを焼き付けていたんですよね。
 彼女の近くに子機が転がっている? ああ、本当ですね。なにか問題でも?
 どこかに電話をかけようとしていたとかですかね。どこにって……んー……聞かれると分かりませんけれども。
 なぜ子機で助けを求めなかったか、それがあなたの気になる点ですか?
 んー、あ、僕に分かりました。
 理由の一つ、子機が使用不可。
 二つ、浮気を隠すため。罪悪感から助けを求めなかった。
 そして三つ、火事を起こした張本人だから。
 ここまで僕を愛してくれた彼女に、僕は一生を捧げます。

ーquestionー
 福田次郎と山梨真弓の関係性と、山梨真弓の態度。

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 手紙が二通届いていた。
 まずは差出人が分かるものから開こうと思う。

 亮廣兄さんへ
 調査報告書
 山梨真由美は血のつながらない山梨月衣を児童養護施設に預ける気だったらしい。
 そして旦那と別れて親権を彼に渡しす予定だったようだ。
 表向きは育児ノイローゼ。でも裏では浮気相手と結婚する予定だったようだ。
 山梨月衣が逃げなかった理由は必要とされない自分を始末するためだったと考えられる。
 また第一目撃者の三船健司だが、学校の生徒から聞いた話しだが山梨月衣のストーカー説があり、高校を中退したあとも彼女を監視していた可能性があり、火事を目撃した理由は偶然だったわけではないようである。
 引き続き、山梨鳳翔の逃げなかった情報を調べる。

 弟からの手紙を静かにしまい、次は差出人不明の手紙を開ける。

 ・火事
 ・二人兄弟
 ・隠し子
 ・山梨一家火事事件

 キーワードのみが書かれたその手紙を僕は静かに封筒にしまった。
 ふと呟いてしまう。

 「ああ、せっかく調べてきたのに、またふりだしに戻ったということですか」

 この差出人の正体を僕は知っている。手紙から感じられる僕への異様な殺意。
 彼は今頃、工場の屋根上でいつものように見張りをしていることだろう。

「あなたはやはりまだ、あきらめていないということですね」

 山梨一家火事事件を。
 ……久本一家火事事件を。

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 図書館である記事を調べていた。
 
 久本一家火事事件

 父親、母親、兄、弟
 警察は殺人容疑として兄の久本亮廣を逮捕している。
 久本亮廣の名前を尋ねて、現れた人物は今のところ一名だ。
 なぜ、出てきているんですか? ……というのが、率直な彼の意見だった。
 僕は調べなくてはならない。
 あの日、火のもとは、   が原因だった。
 しかし、それが原因なんて考えられない。
 誰かが罪を擦り付けたと考えるのが正しい。
 あの日、一つの証拠品を手に入れている。
 証拠品といってもそれは物ではない。犯人のしぐさである。
 コンタクトをとろうと思う。
 もっとも、僕を敵視している人物に。