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事務所まで呼び出してすみません。
ずいぶん近くにいたんですね。
あなたは僕の家族の一員だったはず。
隠し子として育てられた僕とは雲泥の差がある。
なぜ、あなたが罪を犯す必要があったのですか?
そうですか、あなたは気づくのが遅すぎましたね。
僕の名前は久本佐久真です。罪を償って出てきた久本亮廣ではありません。
何の情報も手元に置かないミニマリストで、機械に弱いのはあなたのミスでしたね。
僕を助けようとしたのですか?
ありがとうございます、嬉しいです。
でもね、なんと哀れなことをしたのですか?
たとえ話をしましょう。世の中に優しい人がいるとします。自分のことを蔑ろにしてまで誰かのために尽くす人。
そのせいで自分の人生がどんどん犠牲になっていく。なのに誰からも感謝されない。
どうしてだと思いますか?
誰かという存在を少し遠くを見つめてしまって一番身近な自分を蔑ろにしたからではないですか?
足元に花が咲いているのに見向きもしない。
そんな人に誰も話しかけたいと思わないのではないでしょうか?
あなたは僕を助けるために自分の兄を世間に差し出した。
自分を犠牲にしてまで僕を助けたというのなら、なぜあなたが無期懲役の刑をくらわなかったのですか?
あなたは人の自由を奪っておきながら、最後の最後に自分の自由を優先したのですね。
申し訳ありませんが、僕は自分の人生を受け入れています。
隠し子として生きているので不自由なことばかりですが、家族を焼き殺したところで不自由なことには変わりはないし、そもそも焼き殺して幸せになれるなんて到底思えない。
もともと不自由の身です。僕を救うつもりだったなんて同情の余地もない。
これ以上僕から自由を奪わないでください。
自首して、どうか無実の罪の久本亮廣を解放してください。
僕の大切な家族を返してください。火事によって家が全部燃えても、何も消えたりしないんです。
ここに一眼レフがあります。
最後に、写真を一枚撮っておきますね……あなたの。
僕のマイ・スクープ・ショットです。
あなたに差し上げます。
世間には公表いたしません。
あなたにこの写真を差し上げます。だから僕から受け取った理由を長い時間をかけてどうか考えてほしいです、俊哉。
罪にとらわれて逃げなかった家族。
あなたがどんなふうに脅してそうさせたのかは知りません。
けどずっと分からなかった父の真意を想像してあなたに話しておきますね。
「壊れてしまっても、家族の一員として一生を添い遂げたかった」
涙を流したということは、見つかりましたね。
あなたにとっての真実が。
他者は関係ありません。
これはあなたの事件です。
そして私の事件でもある。
報われることのない犯した罪に、きちんと償いを乞い、
そして情報提供してくださった全ての方に、心より御礼申し上げます。



