禁曲の真実を知り、楽譜を取り戻した葵は、それを持って始音家に戻った。
「おお、葵!」
「お嬢様が怪盗から楽譜を取り戻しなさった!」
家族、使用人が諸手を上げて葵を出迎え、口々にお礼を言う。
怪盗の手引をしたという疑いをかけられたのが、まるで手のひら返しで英雄扱いだ。
一人だけ不満そうなふくれっ面をしている妹に、葵は声を掛ける。
「ここからは正々堂々、舞姫同士、舞で戦いましょう」
それは宣戦布告だった。
彼女は茜と最後の対決――決闘を申し込んだのだ。
「ハッ、踊れない舞姫のくせに、勝算でもあるの?」
せせら笑う茜は気付いていない。
葵が足を引きずらず、立っていることに。
こうして、舞姫同士の決闘が演舞場で行われることになり、舞台の客席は満員御礼。
葵と茜はお互い優美な舞を披露した。
決闘の勝敗は単純で、観客の投票で決まる。
茜に誤算があるとすれば、葵が万全の状態で踊れないと油断していたことだ。
葵は見事に踊りきり、茜よりも票を得た。
「なんで足が治ってるの!?あのとき、きちんと足を潰すように言ったはずよ!」
舞台で悔しそうに地団駄踏んだ茜の叫びに、観客は騒然とする。
「やっぱり、あなたが私に暴漢を差し向けたと、認めるのね?」
「そ、そんなの知らないもん!」
そこへ、観客席から黒い羽織の男がのぼってくる。黒田だ。
「俺は探偵の黒田……まあ、元警察官でね。警察署で調書も入手済みだ。暴漢がアンタに雇われたっていう証拠だな」
さらに、彼は始音家にお金を握らされて証拠を握りつぶした警察官も逮捕されたと舞台上で言ってのけた。始音家の人々が真っ青になったのは言うまでもない。
「私は、始音家との縁を切らせていただきます」
葵は深々とお辞儀をして別れを告げるが、始音家当主が泣いて引き留めようとする。
茜が逮捕され、葵まで失えば、舞姫がいなくなってしまうからだ。
しかし、葵はきっぱりとした口調で拒絶する。
「私が踊れなくなったときに、だれか私を救ってくれた人はいた? あなたたちは『舞姫』にしか興味がないんでしょう。そんな家、こっちから願い下げよ!」
葵はそのまま舞台を降り、黒田に伴われて演舞場を去った。
茜と始音家の人々も警察に事情聴取のため、連行されていく。
その後、始音家は没落した。
禁曲の楽譜は、天候の神の祀られた神社に奉納され、誰も手を出せないように管理されることになる。
葵は黒田と結婚し、紅鴉にお礼を伝えるために、今日も二人で怪盗を追い続けているのだった。
〈了〉
「おお、葵!」
「お嬢様が怪盗から楽譜を取り戻しなさった!」
家族、使用人が諸手を上げて葵を出迎え、口々にお礼を言う。
怪盗の手引をしたという疑いをかけられたのが、まるで手のひら返しで英雄扱いだ。
一人だけ不満そうなふくれっ面をしている妹に、葵は声を掛ける。
「ここからは正々堂々、舞姫同士、舞で戦いましょう」
それは宣戦布告だった。
彼女は茜と最後の対決――決闘を申し込んだのだ。
「ハッ、踊れない舞姫のくせに、勝算でもあるの?」
せせら笑う茜は気付いていない。
葵が足を引きずらず、立っていることに。
こうして、舞姫同士の決闘が演舞場で行われることになり、舞台の客席は満員御礼。
葵と茜はお互い優美な舞を披露した。
決闘の勝敗は単純で、観客の投票で決まる。
茜に誤算があるとすれば、葵が万全の状態で踊れないと油断していたことだ。
葵は見事に踊りきり、茜よりも票を得た。
「なんで足が治ってるの!?あのとき、きちんと足を潰すように言ったはずよ!」
舞台で悔しそうに地団駄踏んだ茜の叫びに、観客は騒然とする。
「やっぱり、あなたが私に暴漢を差し向けたと、認めるのね?」
「そ、そんなの知らないもん!」
そこへ、観客席から黒い羽織の男がのぼってくる。黒田だ。
「俺は探偵の黒田……まあ、元警察官でね。警察署で調書も入手済みだ。暴漢がアンタに雇われたっていう証拠だな」
さらに、彼は始音家にお金を握らされて証拠を握りつぶした警察官も逮捕されたと舞台上で言ってのけた。始音家の人々が真っ青になったのは言うまでもない。
「私は、始音家との縁を切らせていただきます」
葵は深々とお辞儀をして別れを告げるが、始音家当主が泣いて引き留めようとする。
茜が逮捕され、葵まで失えば、舞姫がいなくなってしまうからだ。
しかし、葵はきっぱりとした口調で拒絶する。
「私が踊れなくなったときに、だれか私を救ってくれた人はいた? あなたたちは『舞姫』にしか興味がないんでしょう。そんな家、こっちから願い下げよ!」
葵はそのまま舞台を降り、黒田に伴われて演舞場を去った。
茜と始音家の人々も警察に事情聴取のため、連行されていく。
その後、始音家は没落した。
禁曲の楽譜は、天候の神の祀られた神社に奉納され、誰も手を出せないように管理されることになる。
葵は黒田と結婚し、紅鴉にお礼を伝えるために、今日も二人で怪盗を追い続けているのだった。
〈了〉