私が泣き止むまでにどれくらい時間を要したのか。

「……ねぇ、瞬は本当に、し、死んじゃったの?」

瞬がこの場にいるのが信じられず、ズズッと鼻をすすりながら恐る恐る聞く。

もしかしたら、瞬は死んでいないのではないか。

今までのは全部悪い夢で、瞬といつものように笑ってこれからも過ごせるのではないか。

そんな私の甘い期待は、続いた瞬の言葉に粉々に打ち砕かれた。

「残念だけど、まあ……。少し透けているし、思いきり浮いてるじゃん」

確かに瞬は半透明で、今にも消えそうな儚さがある。

それにいきなり目の前に現れたり、床から数十センチのところでプカプカ浮いているのだから、やっぱり生きてはいないのか。

「やっぱり、死んじゃったんだ……」

声が露骨に暗くなり、瞬が慌てたように手をバタバタさせる。

「あ、でもこうやって話せたからいいじゃん!みんなは、俺のことが全く見えてないし、声も聞こえてないんだから……」

「そうなの……?じゃあ、なんで私は瞬のことが見えて、声も聞こえるんだろう……」

「あー……。えっと、それは……。なんて言ったらいいのかな……」

そのとき、瞬の言葉を遮って階下からお母さんの声が気遣わしげに響いた。

「みちる……。悲しいのは分かるけど、もう遅いから風呂に入って寝なさい」

きっと私の泣き声が聞こえていたのだろう。

穏やかな声でそう言われる。

私は1階へ向かう前に、瞬に不安を込めて言う。

「今からお風呂入ってくるけど……。勝手に消えるなんてことないよね……?また会えるよね……?」

そんな私の不安が伝わったのか、瞬は安心させるように笑って頷いた。

それを見てホッと息をつき、階段を下りる。

1階にいくとすぐにお母さんとお父さんがいて、心配そうに私を見つめてくる。

その目には涙の跡が残っていて、一抹の悲しみが過ぎる。

当然、私の顔にも涙の跡が色濃く残っているのだろう。

何せ、さっきまで大号泣してたのだから。

お父さんは私に痛々し気な目を向け、優しく口を開いた。

「……みちる。瞬くんは大切な人だから、辛いよな、悲しよな。……今はそっとしておいて欲しいかもしれないが、これだけは聞いてくれ。父さんたちはみちるのことがすごく大切だ。だから、辛くてどうしようもなかったり、悲しみに耐えきれなかったりしたら頼ってくれ。……1人であまり抱え込みすぎるなよ」
 
「そうよ、みちる。お願いだから、あまり思いつめないでね」

2人が私のことを想ってくれているのがひしひしと伝わり、その優しさが心に染み渡る。

「うん……。ありがとう、お父さん、お母さん」

ありったけの感謝をこめて口を開く。

すると、横から突然声がした。

「……おじさんの言うとおり。みちるは笑顔が素敵なんだから。……笑ってね」

いつの間にか私の横にいた瞬と、心配してくれているお父さんとお母さんに向けて。

少し不自然な笑顔にはなってしまったかもしれないが、私は心からの笑みを浮かべた。