それは、急に起こった。

私が中学生最後の陸上競技大会を終えた、残暑の厳しい日のことだった。

その日、私は疲れと達成感を抱えて帰ってきた。

陸上大会のリレー部門で準優勝したのだ。

1年生のときに先輩たちが表彰台に乗った光景を見てそこを目指してから2年、私の念願が叶った日である。

優勝は出来ず、全国大会には進めなかったため、悔し涙も流した。

だが、私の中学では歴代最高成績であり、本番では今までの練習よりも速く走れたため、時間の経過と共に達成感が押し寄せてきた。

家に着き、玄関のドアを思いっきり開け放つ。

「お母さん!今日ね、私達、準優……」

でも、その言葉はお母さんのヒステリックな声に遮られてしまった。

「みちるっ!っああ、なんてこと……」

お母さんは電話機の側で涙を流しており、私の姿を見るなり床に膝をついた。

何が言いたいのかは分からなかったが、それが悪いことだというのだけ分かる。

その先を聞くのが怖くて、でも聞かなきゃいけないと思った。

「……っなに?どうしたの……?」

お母さんはこちらを濡れた目で見上げ、1回口を噤んだ。

しかし、意を決したように口を開く。

「…………。落ち着いて聞いてね……。今、山西さんから連絡があって。その、瞬くんが……」

その言葉に、ドクンと胸が音を立てた。

その名前は、私の大切な人のもの。

お願い、やめて。

聞きたくない。

彼に何かあったなんて、嫌だよ⎯⎯



「瞬君が亡くなったって……」



そう聞こえた瞬間、目の前が真っ黒に染まった。

私の横を突風が吹き荒れているみたいに、頭の中でガンガンと音が鳴って周囲の音が何も聞こえなくなる。

お母さんが泣き顔でこちらを見上げる様子も、私のバッグが落ちていくのも、全てがコマ送りの映像で、スローモーションに見えた。

「や、やだなー。冗談はやめてよ……」

必死に出した声は掠れていて、情けなくも震えていた。

漏らした言葉は、私の願望だ。

そんな訳ないと思いながらも、現実を受け止めきれない。

「みちる……。冗談なら、よかったのにっ……」

悲痛な声を洩らしたお母さんの声に耐えきれず、
私は二階にある自分の部屋に駆け込んだ。

嬉しかったはずの準優勝のことなんて、頭からすっぽり抜けていた。

夕日は沈み、暗くなった空が開け放たれたドアから覗いていた。