誰もいないはずの校舎。
 一つの部屋から漏れる光。
 用心深く懐中電灯で足元を照らしながら近づく。

「水、?」

 ドアの前に立った時、床が濡れていることに気づいた。浅い水溜りのようになっていたのだ。
 誰もいないはずの校舎。
 怯えながら開ける扉。
 五年この学校に勤務していて初めての出来事。

「なんだ、これ…………」

 声が上げられないほどに驚き、立ちすくんでしまった。虚ろな目をした男子生徒が水浸しとなった床に倒れていたのだ。
 誰もいないはずの校舎。
 優しく揺れるカーテン。
 窓が開いていた、普段は開いていないのに。

「何が起きたんだ……」

 ベランダの手すりに張り巡らされた有刺鉄線。そこに寄りかかっている制服を着た人間から血が流れていた。