STEが報道番組の出演を終え、通用口から外へ出ると、そこは黒山の人だかりだった。
「ゴールド!」
「クレイ!」
などなど、口々にSTEメンバーの名を呼ぶフェローたち。ちなみに、日本では本名の方で呼ばれる事の多い彼らだが、国外ではニックネームで呼ばれる。
名を呼ばれると、そちらへ振り向いて手を振る彼ら。その度に歓声奇声が上がる。
「キャー!!」
そして、STEは車に乗り込み、ホテルへ向かった。
「みんな、お疲れさん。英語頑張ったね。」
マネージャーの内海がみんなをねぎらった。
「緊張したっすよ。内容がセンシティブだし。」
篤が言った。
「俺たちの言いたい事、ちゃんと伝わったかな。」
碧央が言うと、
「伝わったと思うよ。みんな、ちゃんとしゃべれてたよ。」
流星がそう言って親指を立てた。
「流星くんにそう言ってもらえると、安心するよね。」
と、涼が言った。和やかな雰囲気になり、みんな笑っていた。
だが、ホテルに到着すると、思った以上に多くの警備員に誘導され、戸惑った。黒いスーツのボディーガードたち。1人のメンバーにつき2人ずつのガードが付き、車からホテルのエントランスまでギチギチになって歩いた。そこにはフェローはいないのに。
「何、この物々しい雰囲気は。」
光輝が言う。
「却って目立つよね。」
瑠偉がそう言って苦笑した。ロビーに全員入り、一安心と思った時、
「手を上げろ!」
いきなり男が叫んだ。ロビーに元々いたようで、銃を構え、STEのメンバーに照準を合わせている。すると、ガードマンたちが一斉に銃を抜いた。
「待って!待ってください!ガードマンの方たち、どうか銃を床に置いてください!」
碧央が叫んだ。そして、ガードマンたちの前に出た。
「碧央くん!」
さっと、瑠偉が碧央と一緒にガードマンの前へ出て、更に碧央を背中に隠すようにした。
「早く!銃を置け!」
碧央が更に叫んだので、静まり返ったロビー。そして、ゆっくりとガードマンたちが銃を床に置いた。
「ほら、もう誰もあなたを撃ちませんよ。安心でしょう?だから、あなたも銃を置いてください。何か僕たちに話があるのでしょう?それなら、銃を持たずに話し合いましょうよ。」
碧央がそう言って、瑠偉を横へ追いやり、ゆっくりと男の方へ歩いて行った。
「いや、ダメだ。俺は、これをしないと。俺は……。」
男は明らかに動揺していた。碧央はまっすぐ男の顔を見て、ゆっくりと進んだ。瑠偉は迷った。自分が動く事によって、男を刺激して発砲させてしまうかもしれない。だが、碧央が撃たれたらどうしよう、自分が守りたい、と。
男は、自分の目の前に来て、うっすら微笑む碧央の顔を見て、涙を浮かべた。そして、次の瞬間、自分のこめかみに向けて発砲した。
「碧央くん!」
銃声がした瞬間、瑠偉は走っていって碧央を捕まえ、碧央の頭を自分の肩口に付け、碧央が男を見ないようにした。次の瞬間、ガードマンたちが動き出し、STEのメンバーは部屋へ急いだのだった。
その晩はみな一様に無口だった。惨劇を目の前で見てしまった碧央の事を、特にみんなは心配した。だが、碧央は翌朝にはケロッとしていた。碧央にとって、これも銃を無くすべきだという事実を明確にする出来事の1つだった。やるべき事が分かっている者は強い。
この事件は、ホテル従業員が撮影していた動画と共にニュースで流れた。男は、Gunメーカーの元社員で、何かGunメーカーに弱みを握られていたのではないかと報道されていたが、真相は明らかにされなかった。今のSTEの活動を一番快く思っていないのは、Gunメーカーなのである。今の所、娘に勝手に銃を捨てられた父親などが新たに銃を購入してくれるのだが、あまりに銃のない社会を訴えられると、この先アメリカでも銃規制が厳しくなり、メーカーの存続が危ぶまれる事態になるのではないか、と危惧しているのである。
「人を使って俺たちを殺しに来るなんて、悪質もいいところだな。」
ニュースを観て流星がそう言った。
「いかにも大企業がやりそうな事だよ。」
涼もそれを受けて言う。大樹は、
「きっとさ、あの人が俺たちに向かって銃を向けたら、ガードマンたちに打ち殺されると思ってたんだろうな。俺たちを実際に殺すというよりは、警告というか、俺たちを怖がらせるのが目的だったんじゃないかな。」
と言った。
「ひどいね。あの人が可哀そうだよ。」
光輝が言った。
「あの人、どうして碧央を撃たずに自分を撃ったんだろう。」
篤が疑問を口にすると、涼が、
「碧央の顔が神々しくて、撃てなかったんじゃないのか?バチが当たりそうだなもんな。」
と言って笑った。すると瑠偉が、
「そんなの……分かんないじゃん、相手が悪かったら、撃たれてるよ。ねえ碧央くん、あんなの危ないじゃないか!もし本当に撃たれてたらどうするんだよ!また撃たれたいのか?」
と、語気を強めて言った。すると、
「あんな痛いの、もう嫌だよ。」
碧央が気楽に笑ってそう言ったので、瑠偉は青筋を立てた。
「俺が!どれだけ心配したか分かってんのか!?もし撃たれて、今度は命まで奪われたらどうすんだよ!もう、碧央くんが撃たれるのなんて、まっぴらなんだよ!」
なんと、瑠偉が碧央の胸倉を掴んで、襲い掛からんばかりの様子で詰め寄った。周りで見ていたメンバーは驚き、焦った。
「ま、まあ、瑠偉、落ち着けよ。」
「瑠偉、分かったから、ね。」
篤、光輝にそう言われ、みんなに手を振りほどかれて、瑠偉は不満げ。そのまま自分の部屋に戻ってしまった。
ここは、全室スイートルームの高級ホテルである。各寝室にはリビングが付いている。寝室は2人ずつで、同じ階にスタッフの部屋も含めた5部屋を取ってあるのだが、いつも7人で何となく過ごしているSTEは、こういう時にも1つの部屋に集まっているのだった。今回、ジャンケンに勝って流星が1人部屋になっていたのだが、その流星の部屋の続きの間(リビング)に、全員集まっていたのだった。
「瑠偉、ずいぶん怒ってるね。」
光輝が言った。
「まあ、前回の件があるからな。」
涼がそう言い、
「そうだよな。碧央が足を撃たれた事、ずいぶん気にしてたもんな。」
と、篤も言った。すると碧央が、
「え、そうなの?」
と驚いて言った。
「そりゃそうでしょうよ。自分だけ逃げたって事、気にしていたんじゃないのかな。だから、ずっと碧央に気を遣っていたじゃないか。毎日お見舞いに行ったり、退院してからは甲斐甲斐しく世話していたし。」
と、光輝が言ったので、
「あ……ああ、そういう事か。」
碧央は合点がいった。
「何?そういう事って?」
大樹が疑問を口にしたが、
「いや、何でもない。」
碧央はそう言うと、思わずニヤけた口元を手で隠した。なるほど、みんなはこういう風に誤解していたのか。
「碧央、瑠偉にちゃんと謝った方がいいんじゃないか?」
流星がそう言ったので、
「え?ああ、そうだね。うん、じゃあ行ってくる。」
碧央は瑠偉の部屋に向かった。
瑠偉は大樹と同室だった。碧央は光輝と同室。ここは、瑠偉と一緒がいいなどとわがままは言えない。碧央は瑠偉と大樹の部屋の前へ行き、ドアをノックした。
「瑠偉、俺。開けて。」
少し待つと、瑠偉がドアを開けた。愛しい顔がドアの隙間から覗いて、思わずニヤける碧央。だが、瑠偉はまだ怒っているようで、にこりともしない。碧央は部屋に入り、ドアを閉めた。瑠偉はぷいっとそっぽを向く。
「瑠偉、怒るなよ。」
そう言うと、碧央は瑠偉の首に両腕をかけた。そして首を傾け、下から目を覗き込む。
「俺が、守れない状況は嫌だ。碧央くんが撃たれるなら、俺が盾になる。」
「お前が撃たれるのは嫌だよ。」
「碧央くんはもう、1回撃たれてるからダメなの。次は俺でいいの。」
「どっちも撃たれたくねえよ。でも、そう簡単に世界から銃は無くならないだろうし、俺たち、思っていた以上に危険な事をしているのかもな。」
「危険な事?」
「ああいう歌を、アメリカで歌う事。」
「うん、そうかもね。」
「瑠偉、心配かけてごめん。」
碧央はそう言うと、瑠偉にそっとキスをした。すると、瑠偉は碧央の腰に腕を回した。そして、もう一度キスをしようとしたところで、ガチャっとドアが開いた。
大樹が戻って来たのである。この部屋のカードキーを持っているので、自分で勝手に入ってくるのである。
「あれ、何してんの、碧央?」
大樹が碧央を見て言った。
「いや、ちょっとブリッジの練習でもしようかと思ってね。」
碧央はのけぞって、ソファの背もたれに手をついていた。その腰を、瑠偉が持っているという状況。
「ああ、碧央はちょっと硬いからな。やった方がいいよ。」
大樹はそう言うと、自分のスペースへとスタスタ歩いて行った。
「ゴールド!」
「クレイ!」
などなど、口々にSTEメンバーの名を呼ぶフェローたち。ちなみに、日本では本名の方で呼ばれる事の多い彼らだが、国外ではニックネームで呼ばれる。
名を呼ばれると、そちらへ振り向いて手を振る彼ら。その度に歓声奇声が上がる。
「キャー!!」
そして、STEは車に乗り込み、ホテルへ向かった。
「みんな、お疲れさん。英語頑張ったね。」
マネージャーの内海がみんなをねぎらった。
「緊張したっすよ。内容がセンシティブだし。」
篤が言った。
「俺たちの言いたい事、ちゃんと伝わったかな。」
碧央が言うと、
「伝わったと思うよ。みんな、ちゃんとしゃべれてたよ。」
流星がそう言って親指を立てた。
「流星くんにそう言ってもらえると、安心するよね。」
と、涼が言った。和やかな雰囲気になり、みんな笑っていた。
だが、ホテルに到着すると、思った以上に多くの警備員に誘導され、戸惑った。黒いスーツのボディーガードたち。1人のメンバーにつき2人ずつのガードが付き、車からホテルのエントランスまでギチギチになって歩いた。そこにはフェローはいないのに。
「何、この物々しい雰囲気は。」
光輝が言う。
「却って目立つよね。」
瑠偉がそう言って苦笑した。ロビーに全員入り、一安心と思った時、
「手を上げろ!」
いきなり男が叫んだ。ロビーに元々いたようで、銃を構え、STEのメンバーに照準を合わせている。すると、ガードマンたちが一斉に銃を抜いた。
「待って!待ってください!ガードマンの方たち、どうか銃を床に置いてください!」
碧央が叫んだ。そして、ガードマンたちの前に出た。
「碧央くん!」
さっと、瑠偉が碧央と一緒にガードマンの前へ出て、更に碧央を背中に隠すようにした。
「早く!銃を置け!」
碧央が更に叫んだので、静まり返ったロビー。そして、ゆっくりとガードマンたちが銃を床に置いた。
「ほら、もう誰もあなたを撃ちませんよ。安心でしょう?だから、あなたも銃を置いてください。何か僕たちに話があるのでしょう?それなら、銃を持たずに話し合いましょうよ。」
碧央がそう言って、瑠偉を横へ追いやり、ゆっくりと男の方へ歩いて行った。
「いや、ダメだ。俺は、これをしないと。俺は……。」
男は明らかに動揺していた。碧央はまっすぐ男の顔を見て、ゆっくりと進んだ。瑠偉は迷った。自分が動く事によって、男を刺激して発砲させてしまうかもしれない。だが、碧央が撃たれたらどうしよう、自分が守りたい、と。
男は、自分の目の前に来て、うっすら微笑む碧央の顔を見て、涙を浮かべた。そして、次の瞬間、自分のこめかみに向けて発砲した。
「碧央くん!」
銃声がした瞬間、瑠偉は走っていって碧央を捕まえ、碧央の頭を自分の肩口に付け、碧央が男を見ないようにした。次の瞬間、ガードマンたちが動き出し、STEのメンバーは部屋へ急いだのだった。
その晩はみな一様に無口だった。惨劇を目の前で見てしまった碧央の事を、特にみんなは心配した。だが、碧央は翌朝にはケロッとしていた。碧央にとって、これも銃を無くすべきだという事実を明確にする出来事の1つだった。やるべき事が分かっている者は強い。
この事件は、ホテル従業員が撮影していた動画と共にニュースで流れた。男は、Gunメーカーの元社員で、何かGunメーカーに弱みを握られていたのではないかと報道されていたが、真相は明らかにされなかった。今のSTEの活動を一番快く思っていないのは、Gunメーカーなのである。今の所、娘に勝手に銃を捨てられた父親などが新たに銃を購入してくれるのだが、あまりに銃のない社会を訴えられると、この先アメリカでも銃規制が厳しくなり、メーカーの存続が危ぶまれる事態になるのではないか、と危惧しているのである。
「人を使って俺たちを殺しに来るなんて、悪質もいいところだな。」
ニュースを観て流星がそう言った。
「いかにも大企業がやりそうな事だよ。」
涼もそれを受けて言う。大樹は、
「きっとさ、あの人が俺たちに向かって銃を向けたら、ガードマンたちに打ち殺されると思ってたんだろうな。俺たちを実際に殺すというよりは、警告というか、俺たちを怖がらせるのが目的だったんじゃないかな。」
と言った。
「ひどいね。あの人が可哀そうだよ。」
光輝が言った。
「あの人、どうして碧央を撃たずに自分を撃ったんだろう。」
篤が疑問を口にすると、涼が、
「碧央の顔が神々しくて、撃てなかったんじゃないのか?バチが当たりそうだなもんな。」
と言って笑った。すると瑠偉が、
「そんなの……分かんないじゃん、相手が悪かったら、撃たれてるよ。ねえ碧央くん、あんなの危ないじゃないか!もし本当に撃たれてたらどうするんだよ!また撃たれたいのか?」
と、語気を強めて言った。すると、
「あんな痛いの、もう嫌だよ。」
碧央が気楽に笑ってそう言ったので、瑠偉は青筋を立てた。
「俺が!どれだけ心配したか分かってんのか!?もし撃たれて、今度は命まで奪われたらどうすんだよ!もう、碧央くんが撃たれるのなんて、まっぴらなんだよ!」
なんと、瑠偉が碧央の胸倉を掴んで、襲い掛からんばかりの様子で詰め寄った。周りで見ていたメンバーは驚き、焦った。
「ま、まあ、瑠偉、落ち着けよ。」
「瑠偉、分かったから、ね。」
篤、光輝にそう言われ、みんなに手を振りほどかれて、瑠偉は不満げ。そのまま自分の部屋に戻ってしまった。
ここは、全室スイートルームの高級ホテルである。各寝室にはリビングが付いている。寝室は2人ずつで、同じ階にスタッフの部屋も含めた5部屋を取ってあるのだが、いつも7人で何となく過ごしているSTEは、こういう時にも1つの部屋に集まっているのだった。今回、ジャンケンに勝って流星が1人部屋になっていたのだが、その流星の部屋の続きの間(リビング)に、全員集まっていたのだった。
「瑠偉、ずいぶん怒ってるね。」
光輝が言った。
「まあ、前回の件があるからな。」
涼がそう言い、
「そうだよな。碧央が足を撃たれた事、ずいぶん気にしてたもんな。」
と、篤も言った。すると碧央が、
「え、そうなの?」
と驚いて言った。
「そりゃそうでしょうよ。自分だけ逃げたって事、気にしていたんじゃないのかな。だから、ずっと碧央に気を遣っていたじゃないか。毎日お見舞いに行ったり、退院してからは甲斐甲斐しく世話していたし。」
と、光輝が言ったので、
「あ……ああ、そういう事か。」
碧央は合点がいった。
「何?そういう事って?」
大樹が疑問を口にしたが、
「いや、何でもない。」
碧央はそう言うと、思わずニヤけた口元を手で隠した。なるほど、みんなはこういう風に誤解していたのか。
「碧央、瑠偉にちゃんと謝った方がいいんじゃないか?」
流星がそう言ったので、
「え?ああ、そうだね。うん、じゃあ行ってくる。」
碧央は瑠偉の部屋に向かった。
瑠偉は大樹と同室だった。碧央は光輝と同室。ここは、瑠偉と一緒がいいなどとわがままは言えない。碧央は瑠偉と大樹の部屋の前へ行き、ドアをノックした。
「瑠偉、俺。開けて。」
少し待つと、瑠偉がドアを開けた。愛しい顔がドアの隙間から覗いて、思わずニヤける碧央。だが、瑠偉はまだ怒っているようで、にこりともしない。碧央は部屋に入り、ドアを閉めた。瑠偉はぷいっとそっぽを向く。
「瑠偉、怒るなよ。」
そう言うと、碧央は瑠偉の首に両腕をかけた。そして首を傾け、下から目を覗き込む。
「俺が、守れない状況は嫌だ。碧央くんが撃たれるなら、俺が盾になる。」
「お前が撃たれるのは嫌だよ。」
「碧央くんはもう、1回撃たれてるからダメなの。次は俺でいいの。」
「どっちも撃たれたくねえよ。でも、そう簡単に世界から銃は無くならないだろうし、俺たち、思っていた以上に危険な事をしているのかもな。」
「危険な事?」
「ああいう歌を、アメリカで歌う事。」
「うん、そうかもね。」
「瑠偉、心配かけてごめん。」
碧央はそう言うと、瑠偉にそっとキスをした。すると、瑠偉は碧央の腰に腕を回した。そして、もう一度キスをしようとしたところで、ガチャっとドアが開いた。
大樹が戻って来たのである。この部屋のカードキーを持っているので、自分で勝手に入ってくるのである。
「あれ、何してんの、碧央?」
大樹が碧央を見て言った。
「いや、ちょっとブリッジの練習でもしようかと思ってね。」
碧央はのけぞって、ソファの背もたれに手をついていた。その腰を、瑠偉が持っているという状況。
「ああ、碧央はちょっと硬いからな。やった方がいいよ。」
大樹はそう言うと、自分のスペースへとスタスタ歩いて行った。