瑠偉は、何とか追っ手を巻いた。そうして、またさっきの場所に戻って来た。後少しでSTEの文字が完成する。顔も腕も真っ黒になって、独りで作業を続けた。
「これで大丈夫かな。よし、火を起こそう。」
火を起こせば、すぐに捕まる可能性がある。何とか素早く文字を完成させたい。
 瑠偉は、ズボンの裾を割いて木の枝に巻き付けた。火を起こし、その布に火を移し、ヘッドマイクの部品入りの木切れに引火させていった。案の定、燃えやすいプラスチックなどが入っているため、速く燃え広がった。夜が明ける前に、何とかSTEの文字が燃え上がった。瑠偉は、自分が見つからないように、その場から遠く離れた。そして、木の陰にじっとうずくまった。

 朝になった。檻の中で過ごしたメンバーに、朝食が運ばれてきた。パンと水。もう話す気力も出ず、6人は黙ってそれぞれの手にパンを持った。
「瑠偉、腹空かせてるだろうな……。」
碧央がそう呟いた。全員、声もなく泣いた。

 ウーウーウー
突然、サイレンのような音が鳴り響いた。檻を見張っていた軍人たちが右往左往し始めた。
「敵襲だ!お前たちはここで人質を見張っていろ!」
1人の軍人がそう言いに来て、去って行った。2人の軍人が立ち上がって落ち着かない様子を見せる。
「敵?あいつらの敵は俺たちの味方か?」
流星が言った。
「助けが来たの!?」
光輝がそう言うと、大樹が、
「分からないが、その可能性は高い。」
と言った。
「きっと、瑠偉がやってくれたんだ。火文字を成功させたんだよ。」
そう言って、碧央はうっと顔をしかめた。撃たれた足が痛むのだ。
「碧央、大丈夫か?少し顔色が悪い気がするぞ。」
涼が碧央を気に掛ける。
「本当だ、青い顔してるよ。」
光輝もそう言い、メンバーは心配そうに碧央を見た。
「碧央、気分悪くないか?」
流星が聞いた。
「大丈夫。痛いだけだよ。」
碧央は顔を歪めつつも、笑顔を作ろうとした。
「無理に笑わなくていいって。」
「そうだぞ。」
篤と涼は、それぞれそう言って、碧央の肩に手を置いた。

 日本の自衛隊、韓国軍、アメリカ軍の飛行機が、この無人島に着陸した。夜明け前、STEの捜索のために上空を飛行していた韓国軍が、瑠偉が火をつけたSTEの文字を発見し、日本とアメリカに連絡し、揃ってこの島に飛んできたというわけだ。
 GAのメンバーは武装していたが、人数で圧倒され、あっけなく降参した。GAが本当は何がしたかったのか、後世まで謎のままである。もしかしたら、STEを目の前で見たかっただけなのかも。
 日本の飛行機に、植木と内海も乗って来ていて、戦闘が終結した後、出て来た。そして、檻に入れられていたメンバーは解放され、外に出て来た。
「みんな!」
植木が叫んだ。
「社長!内海さん!」
メンバーも、二人の姿を見て叫んだ。碧央は、大樹と涼に肩を貸してもらっていたが、自衛隊の医療チームが担架を持って迎えに来た。
「待ってください!瑠偉が、瑠偉がどこかにいるはずなんだ!」
碧央はそう言って辺りを見回した。
「瑠偉ぃー!出て来いよー!瑠偉ぃー!生きてるんだろー!」
碧央は大声で叫んだ。かなり息切れしている。
「碧央、よせ、体力を消耗させるな。」
流星は碧央にそう言ってから、自分が大声で瑠偉を呼んだ。続いて他のメンバーも叫ぶ。
「瑠偉ぃー!」
すると、遠くから人が歩いて来るのが見えた。服もボロボロで、顔も腕も真っ黒になった瑠偉だった。
「瑠偉……瑠偉、無事か?」
碧央がそう声を掛けた。瑠偉はふらふらと歩いていたが、碧央を見つけると、走って来た。
「碧央くん!良かった、生きてた……。」
「お前も……。」
2人は抱き合った。そして、涙を流した。
「瑠偉、真っ黒で……かっこいいなぁ。」
「うん。」
涼と篤がそれぞれ言った。メンバーはみな、もらい泣き。植木と内海の目にも光るものがあった。
「さあ、2人とも今の所生きてるけど、けっこう危険なんだよ。碧央は傷の治療をちゃんとしなきゃならないし、瑠偉は消毒と食事ね。」
と、内海が言った。瑠偉の腕は、擦過傷がひどかった。つまり、木の枝などにひっかけて、切り傷がたくさんできていたのだ。
 碧央と瑠偉は一緒にドクターヘリに乗り、日本の病院へ直行した。他のメンバーも自衛隊機に乗って、まずは病院に連れて行かれ、検査を受けたのだった。