碧央は、仲間の元に戻された。足には包帯が巻かれ、軍人2人に抱えられるようにして檻の中に連れて来られた。
「碧央!どうしたんだよ、足!」
流星が言った。
「撃たれた。」
碧央が応える。すると涼が、
「え!?大丈夫なのか?」
と言った。碧央は、
「分かんない。すげえ痛い。」
無表情で言った。
「おい、瑠偉はどうした?あいつも撃たれたのか?!」
篤が言った。
「いや、瑠偉は逃げた。今、火を起こしてSTEの文字を作ろうとしているんだ。それで空から見つけてもらおうって。」
碧央がそう言うと、流星が、
「空から?どういうことだ?助けは呼べなかったのか?」
と言った。
「それがさ、ここ、断崖絶壁に囲まれた小さな孤島なんだよ。無人島なの。」
碧央がそう言うと、メンバー全員が、
「何だって!」
と叫んだ。
「そっか、でも、瑠偉は無事なんだな。良かった。」
と、篤が言った。大樹は、
「早く日本に戻って、ちゃんとした治療をしてもらわないと。ああ、瑠偉に望みを託すしかねえのか。」
と言った。光輝が、
「瑠偉なら、きっとやってくれるよ。あの子はしっかりしているもの。」
と言うと、涼も、
「そうだな。信じよう。」
と、賛同した。
「瑠偉……。」
碧央はそう呟いて顔を歪めた。足が痛いのか、瑠偉が心配なのか。メンバーはそれぞれ、思いを馳せた。

 一方日本では、てんやわんやの大騒ぎだった。植木と内海が政府の対策本部に呼ばれ、合流していた。内閣総理大臣が、
「アメリカの大統領とも話したが、ありゃダメだ。要求に応じればいいと言いおった。話にならん。」
と言うと、外務大臣が、
「総理、どうしましょう。とにかく犯人と交渉したいのですが、連絡手段がありません。」
と言った。植木が、
「何も指定して来なかったのですか?」
と質問すると、外務大臣は、
「ええ。こちらが世界に向けて、パリ協定からの脱退や、気候変動枠組み条約の締結国会議を欠席する事、核禁条約の批准は永遠にしない事、などを発表する事がやつらの目的ですから、まずは発表しろという事なのでしょう。」
と答えた。内海は、
「早くしないと、24時間経ってしまいますよ。メンバーの身に何かあったらどうするんですか。何とかしないと!」
と、詰め寄った。外務大臣は、
「分かっています。だが、とても要求は呑めません。自衛隊やアメリカ軍、韓国軍にも協力してもらって、行方を探していますから。」
と、額から冷や汗を流しながら言った。
「でも、もし見つけられない内にタイムリミットになってしまったら!」
内海が激高してきたので、植木が内海の肩を抱いた。内海も我に返り、深呼吸をして、黙った。すると総理大臣が、
「STEが誘拐された事は、まだ発表していないのですが、どうやら国民の間ではSTEが消えたという噂が広まっているようです。」
と言った。植木は、
「それはそうでしょう。コンサート会場にいたファンの方たちが、SNS上で騒いでいます。また、今夜出るはずだった番組もキャンセルになりましたし、いつまでも隠せるとは思えません。」
と言った。外務大臣は、
「総理、とにかく会見を開きましょう。STEが誘拐された事を公表し、犯人グループに対話を呼びかけようじゃありませんか。そうすれば、国際世論も味方に付きますし、行方の情報も得られるかもしれません。」
と進言した。総理大臣は、
「そうだな。確かに、情報を得られるかもしれない。よし、会見を開く!」
と言った。
 日本政府による緊急記者会見が開かれた。
「本日、日本時間の午後4時頃、アイドルグループSave The Earthのメンバー7人全員が、マレーシアのコンサート会場から拉致されました。」
総理大臣がそう言うと、記者たちから、えっという驚きの声が上がった。
「拉致したのは、アメリカ第一主義を掲げる武装集団Grate Americaです。犯行声明が送られてきました。彼らの要求は―――。」
総理大臣の話は続いた。要求に対し、日本政府はそれに応じるわけには行かない事、犯人グループとの対話の手段がない事など。
「Grate Americaよ、この会見を見たら、我々と対話をして欲しい。もしSTEのメンバーに危害を加えたら、君たちは全世界を敵に回すことになる。まずはSTEを無事に返しなさい。そのうえで、話し合おうではないか。」
総理大臣はそう締めくくった。
  
 そうして、GAの方でもドタバタがあり、GAは日本政府とテレビ電話を繋いだ。日本サイドは、これによって相手の居場所が分かると思ったのだが、巧みに隠されていてすぐには見つけられそうにもなかった。
 GAの司令官は、
「日本政府諸君、会見を見たが、なめてんのかコラ。我々の要求を呑めないのなら、STEを返すつもりはない。前にも言った通り、24時間に1人ずつ殺していく。」
と言って来た。日本の総理大臣は、
「待ってくれ!STEは無事なんだろうね?既に危害を加えているようなら、こちらが要求を呑む必要性が無くなる。」
と、慌てて言った。すると司令官は、
「そう来たか。仕方ない、見目麗しい彼らをここに連れて来よう。」
と言い、檻の中にいた6人は、カメラの前に連れて来られたのだった。
「あ、碧央!足はどうしたんだ!?」
彼らの姿を見て、内海がすぐに声を上げた。
「6人しかいないじゃないか!瑠偉は、瑠偉はどうした!?」
植木もそう叫んだ。2人は画面を見て完全に激高している。
「社長、内海さん。すみません、こんなことになって。」
流星が日本語で言った。すると、
「黙れ!しゃべっていいとは言っていない。」
司令官がそう言ったので、流星は黙った。
「1人いないじゃないか。どうしたんだね?」
改めて、総理大臣が言った。すると司令官は、
「1人は殺した。」
と言った。総理大臣は、
「何!まだ24時間経ってはいないじゃないか!約束が違うぞ!」
と怒鳴った。司令官は、
「逃げたからだ。しかし、これで本気だという事が分かっただろう。要求を呑まなければ、また1人殺す。」
と、冷ややかに言った。総理大臣は、
「いや、待ちなさい。君たちの要求のうち、締結国会議を欠席する事は、事と次第によっては可能だ。STEを返してくれれば、それは約束しようじゃないか。」
と言った。しかし司令官は、
「ダメだ。それだけでは、こいつらを返すわけにはいかない。パリ協定からの脱退は不可欠だ。そして、核禁条約の方もな。」
と言った。結局、話し合いは平行線を辿り、決裂した。

 外務大臣が、
「総理、この際パリ協定からの脱退も一時的に宣言してしまってはどうでしょうか?STEを取り戻した後、あれは方便だったと言っても、分かってもらえるのではないですか?世界的に有名なSTEですから、彼らを助ける為だったという事で。」
と言った。総理大臣は、
「うーむ。かなり恰好悪いが、人の命、いや、日本の宝であるSTEの命がかかっているわけだしな。それもありかな。」
と言った。すると植木が、
「いえ、それはダメです。」
と、きっぱりと言った。総理大臣は、
「え?……意外ですな。あなた方はそうしろとおっしゃるかと思いましたが。」
と言った。
「STEは地球環境を守るのが使命です。やっと世界がまとまって、地球温暖化の問題に取り組み始めたのです。それに反対する勢力の言いなりになり、彼らを助けるなんてことは、ありえません。」
植木はそう言いながらも、苦渋に満ちた顔をしていた。内海が、植木の肩に手を置いた。
「そうだな。やつらの言いなりには絶対になってはいけない。総理、とにかく早く彼らの居場所を突き止め、救出し、GAを捕らえることを優先してください。」
と、内海が言うと、総理大臣は、
「分かりました。全力を尽くします。おい、自衛隊と繋いでくれ!」
と、防衛大臣に言った。
「瑠偉は生きているよ。」
内海は植木にそっと言った。
「ああ、俺もそう思う。」
と、植木もそっと答えた。画面に映ったメンバーたちは、無言ながらも目でサインを送っていた。瑠偉は生きている、大丈夫だと。