柚香の義理家族の問題が解決してからしばらくの間、柚香はふさぎ込んでいた。
(自分で決めてやったことなのに、落ち込むなんてお門違いだわ)
それでも、誰かに存在を忘れられるというのは、こんなにも傷つくことだったのかと思い知る。
一人苦しむ柚香に、彦仁が義理家族を柚香が忘れるような異能の使用を申し出てくれたが断った。
(彦仁さまに異能を使わせるくらいなら、自分で同じように甘味を作って食べた方がましだ)
しかし、思い悩んだ末に柚香はこのままでいることに決めた。
(彼らとは違う形で出会えていたら、分かりあえたかもしれない。その可能性を今はまだ、消したくない)
柚香を忘れてしまった三人と最初で最後に交わした穏やかな会話が記憶に残っていた。
また、いつかどこかで会えますようにと祈りながら、柚香は涙を拭いて前を向く。
「柚香どの、ついに父上から呼び出された」
珍しく彦仁が眉間にしわを寄せながら話し始める。
それは、夕飯を食べ終わって最後に甘味を食べているときだった。
「二人で呼び出されたということですね」
「そうだ。柚香どのを妻として認めさせ、納得してもらわなければいけない」
彦仁はさらに続ける。
「父上も異能持ちで、俺はその内容を知っているから言えるが、俺の異能は父上には効かないのだ」
「なるほど、正面突破が必要なんですね」
(なかなか難易度が高いな。でもこれは私の試練だ)
「すまない。俺の家族のことに柚香どのを巻き込んでしまって」
「違いますよ。彦仁さまの家族は私の家族でもあるでしょう?
二人で知恵を絞りましょう」
柚香は明るくそう言って、彦仁を励ました。
とは言っても、何か名案があるわけではない。
「私の異能を使うとしても、限度があるし……」
湯舟に一人浸かりながら、考えを巡らせる。
「うーん、やっぱり愚直に訴えるしかないかなあ」
独り言を言っていると、フサエが風呂場に顔を出した。
「柚香さま、のぼせないうちに上がってくださいね」
「そうだ、フサエさんちょっと知恵を貸してください。彦仁さまのお父上に結婚を説得する方法、何かありませんか?」
お父上という言葉を聞いた瞬間、フサエの表情が固まる。
「え、えー……、それ私に聞きます?
正攻法で『結婚させてください、お願いします!』って何度も頭を下げるしか方法がないのでは?」
「ですよねえ」
「女中頭の清江さんにも聞いてみるといいですよ。年の功があるかも」
「なるほど、そうします!」
彦仁がばあやと呼ぶ女中頭の温和な顔が思い浮かび、柚香は湯舟から勢いよく立ち上がった。
「清江さん、ご相談があるのですが」
事の顛末を伝え、知恵を貸してほしいと伝える。
清江はにこやかな笑顔で恒平の情報を教えてくれた。
「旦那さまは宰相というお立場上よく理論派だろうと言われていますが、意外と情熱的な方に弱いですね。
それと私見ですが、柚香さまの旦那さまに対する愛情をお伝えするといいかもしれません」
柚香は驚いて理由を尋ねる。
「旦那さまのお子さまは、彦仁さまも含めて男子だけなのです。
将来の娘になるかもしれない女性からの好意を嫌がる男性はいないと思いますよ」
「とっても参考になりました。ありがとうございます!」
(込める想いの方向性が定まった。後は、久しぶりに作る甘味の甘さ調整だけかな)
柚香は、事前に彦仁から聞いていた恒平が甘い物を苦手にしているという情報から、作る甘味を決めていた。
(お母さん、力を貸してね)
台所に立ち寄り、持って来た調味料の壺の一つを抱きしめながら柚香は願った。
(自分で決めてやったことなのに、落ち込むなんてお門違いだわ)
それでも、誰かに存在を忘れられるというのは、こんなにも傷つくことだったのかと思い知る。
一人苦しむ柚香に、彦仁が義理家族を柚香が忘れるような異能の使用を申し出てくれたが断った。
(彦仁さまに異能を使わせるくらいなら、自分で同じように甘味を作って食べた方がましだ)
しかし、思い悩んだ末に柚香はこのままでいることに決めた。
(彼らとは違う形で出会えていたら、分かりあえたかもしれない。その可能性を今はまだ、消したくない)
柚香を忘れてしまった三人と最初で最後に交わした穏やかな会話が記憶に残っていた。
また、いつかどこかで会えますようにと祈りながら、柚香は涙を拭いて前を向く。
「柚香どの、ついに父上から呼び出された」
珍しく彦仁が眉間にしわを寄せながら話し始める。
それは、夕飯を食べ終わって最後に甘味を食べているときだった。
「二人で呼び出されたということですね」
「そうだ。柚香どのを妻として認めさせ、納得してもらわなければいけない」
彦仁はさらに続ける。
「父上も異能持ちで、俺はその内容を知っているから言えるが、俺の異能は父上には効かないのだ」
「なるほど、正面突破が必要なんですね」
(なかなか難易度が高いな。でもこれは私の試練だ)
「すまない。俺の家族のことに柚香どのを巻き込んでしまって」
「違いますよ。彦仁さまの家族は私の家族でもあるでしょう?
二人で知恵を絞りましょう」
柚香は明るくそう言って、彦仁を励ました。
とは言っても、何か名案があるわけではない。
「私の異能を使うとしても、限度があるし……」
湯舟に一人浸かりながら、考えを巡らせる。
「うーん、やっぱり愚直に訴えるしかないかなあ」
独り言を言っていると、フサエが風呂場に顔を出した。
「柚香さま、のぼせないうちに上がってくださいね」
「そうだ、フサエさんちょっと知恵を貸してください。彦仁さまのお父上に結婚を説得する方法、何かありませんか?」
お父上という言葉を聞いた瞬間、フサエの表情が固まる。
「え、えー……、それ私に聞きます?
正攻法で『結婚させてください、お願いします!』って何度も頭を下げるしか方法がないのでは?」
「ですよねえ」
「女中頭の清江さんにも聞いてみるといいですよ。年の功があるかも」
「なるほど、そうします!」
彦仁がばあやと呼ぶ女中頭の温和な顔が思い浮かび、柚香は湯舟から勢いよく立ち上がった。
「清江さん、ご相談があるのですが」
事の顛末を伝え、知恵を貸してほしいと伝える。
清江はにこやかな笑顔で恒平の情報を教えてくれた。
「旦那さまは宰相というお立場上よく理論派だろうと言われていますが、意外と情熱的な方に弱いですね。
それと私見ですが、柚香さまの旦那さまに対する愛情をお伝えするといいかもしれません」
柚香は驚いて理由を尋ねる。
「旦那さまのお子さまは、彦仁さまも含めて男子だけなのです。
将来の娘になるかもしれない女性からの好意を嫌がる男性はいないと思いますよ」
「とっても参考になりました。ありがとうございます!」
(込める想いの方向性が定まった。後は、久しぶりに作る甘味の甘さ調整だけかな)
柚香は、事前に彦仁から聞いていた恒平が甘い物を苦手にしているという情報から、作る甘味を決めていた。
(お母さん、力を貸してね)
台所に立ち寄り、持って来た調味料の壺の一つを抱きしめながら柚香は願った。