川原家から彦仁宛に手紙が届けられたのは、その翌日のことだった。
要は『柚香の代わりにもっと器量のいい我が娘を嫁候補として差し出すから、柚香は返せ。一週間後に加賀谷家に迎えに行く』という内容が書かれていた。
今その手紙を前に、彦仁と柚香、そして側近兼護衛の加藤と藤島の四人で膝を突き合わせている。
お茶請けの甘味は、柚香のみたらし団子だ。
「柚香さまがお一人で切り盛りしていた甘味処ですが、現在は川原家の女中たちが複数人で甘味の調理まで行っているようです。しかし、柚香さまの異能なしの甘味になったためか、『美味しくない』との苦情が相次ぎ、閑古鳥が鳴いている状態でした」
加藤が眼鏡を持ち上げながら説明する。
「私たちも甘味を実際に食べましたが、異能のありなしにかかわらず、率直にまずかったですね。
どうやったらあんな風にぜんざいとみたらし団子をまずくできるのか、甚だ理解できません」
その味を思い出したのか、苦虫を噛みつぶしたような顔で藤島も報告し、口直し(?)に柚香の団子をいそいそと口に運んでいる。
「一週間後か……さてどうするか」
「最初にこちらから手紙と結納金を持参したときの様子からして、一筋縄ではいかないのは自明ですので、何らかの対策を考えておく必要があると思います」
加藤が進言する。
「彦仁さま、話を腰を折って申し訳ないんですけど、柚香さまが若干困っておられますよ……?」
藤島が指摘したのは、彦仁が隣に座っていた柚香の手に触れたり指でなぞったりぎゅっと繋いでみたり色々しているので、恥ずかしくなった柚香が顔を背けて手で顔を隠しているからだった。
「すまん、柚香どの。無意識だった」
あわてて彦仁が手を離すと「いえ、別に構いませんので……」と柚香が受け入れてしまい、結局何も変わらなかったので、(二度と指摘するまい)と二人の側近は心の中で固く決意した。
「やはり、俺の異能を使うしかないかもしれない」
「いえ、彦仁さまの異能は使わなくても大丈夫です。私の異能を使った方がいいと思います。私の、義理の家族の問題なので……」
「柚香どのの家族は俺の家族でもあるだろう?」
彦仁が柚香の両手を取って微笑む。
「……っ、彦仁さまにできるだけ異能を使わせたくないです」
柚香は彦仁の目を心配そうに見つめる。
「俺の妻は本当に心優しいな。
よし、二人の家族の問題だから、役割分担して二人で対応しよう」
彦仁は柚香の額に口づけた。
二人の側近は(主のこういう場面に早く慣れなければ……)と人知れず義務感にとらわれた。
要は『柚香の代わりにもっと器量のいい我が娘を嫁候補として差し出すから、柚香は返せ。一週間後に加賀谷家に迎えに行く』という内容が書かれていた。
今その手紙を前に、彦仁と柚香、そして側近兼護衛の加藤と藤島の四人で膝を突き合わせている。
お茶請けの甘味は、柚香のみたらし団子だ。
「柚香さまがお一人で切り盛りしていた甘味処ですが、現在は川原家の女中たちが複数人で甘味の調理まで行っているようです。しかし、柚香さまの異能なしの甘味になったためか、『美味しくない』との苦情が相次ぎ、閑古鳥が鳴いている状態でした」
加藤が眼鏡を持ち上げながら説明する。
「私たちも甘味を実際に食べましたが、異能のありなしにかかわらず、率直にまずかったですね。
どうやったらあんな風にぜんざいとみたらし団子をまずくできるのか、甚だ理解できません」
その味を思い出したのか、苦虫を噛みつぶしたような顔で藤島も報告し、口直し(?)に柚香の団子をいそいそと口に運んでいる。
「一週間後か……さてどうするか」
「最初にこちらから手紙と結納金を持参したときの様子からして、一筋縄ではいかないのは自明ですので、何らかの対策を考えておく必要があると思います」
加藤が進言する。
「彦仁さま、話を腰を折って申し訳ないんですけど、柚香さまが若干困っておられますよ……?」
藤島が指摘したのは、彦仁が隣に座っていた柚香の手に触れたり指でなぞったりぎゅっと繋いでみたり色々しているので、恥ずかしくなった柚香が顔を背けて手で顔を隠しているからだった。
「すまん、柚香どの。無意識だった」
あわてて彦仁が手を離すと「いえ、別に構いませんので……」と柚香が受け入れてしまい、結局何も変わらなかったので、(二度と指摘するまい)と二人の側近は心の中で固く決意した。
「やはり、俺の異能を使うしかないかもしれない」
「いえ、彦仁さまの異能は使わなくても大丈夫です。私の異能を使った方がいいと思います。私の、義理の家族の問題なので……」
「柚香どのの家族は俺の家族でもあるだろう?」
彦仁が柚香の両手を取って微笑む。
「……っ、彦仁さまにできるだけ異能を使わせたくないです」
柚香は彦仁の目を心配そうに見つめる。
「俺の妻は本当に心優しいな。
よし、二人の家族の問題だから、役割分担して二人で対応しよう」
彦仁は柚香の額に口づけた。
二人の側近は(主のこういう場面に早く慣れなければ……)と人知れず義務感にとらわれた。