朝になり、交代しオレは眠りにつく。
 そんな日を、六日ほど過ごした。

「おい、誰だよオレの飯食ったヤツ!」
「何をそんなに怒ってるんすか?」

 車のトランクを開け今日の昼飯を食べようとした時、一つ買ったものが足りないことに気づいた。
 最後の日まで取っておこうと思っていた、焼き鳥の缶詰。
 
 スーパーなどではたまに特価になるものの、コンビニではこれでもかと足元を見られた値段だったため、よく覚えている。

 少なくなったビニール袋に、その楽しみにとっておいた缶詰がない。
 これを怒らずに何を怒るというのか。

「楽しみにしていたモノがなくなれば、誰だって怒るだろ!」
「でもそんな大声出すことじゃないじゃないっすか」
「ふざけんなよ! オレは食べるの命なんだよ」
「何喧嘩してるんです。対象者に見つかれば、苦労が台無しですよ」

 水浴びを終えた眼鏡が、眉間にシワを寄せながら車に戻ってくる。
 完了まではあと一日。
 しかし元々他人と共同生活など向かないオレたちは、すでに限界が近かった。

 この数日、ことあるごとにぶつかり、口論は絶えない。
 だけど原因はこの依頼のせいだ。

「苦労が台無しって、だいたいおかしいだろ」

 オレは対象である別荘を指さす。

「人の気配なんてないじゃねーか!」

 そう。
 出入りもなければ、気配もない。
 分厚いカーテンの向こう側は見えないものの、人がいるようには思えなかった。

 しかしそれをいくら依頼者に報告しても、七日間の契約だと突っぱねられる。
 人がいないのに何を監視するのか。
 意味のない仕事に、やる気もなくなっていた。

「でも七日の依頼ってことは一週間に一回、管理人とか何かが来るかもしれないってことじゃないんすか?」
「一理ある。その曜日か何かを知りたいのかもしれない」
「んなの待ってる前に、入っちまった方が楽だろ」

 そう吐き捨てて二人を見れば、なんとも言えないような顔でオレを見ていた。
 分かってる。
 この二人もオレと同じだ。

 どこかでこれが真っ黒なバイトだって分かりながらも、直接手を下してない時点でセーフだって思ってる。
 だからこそ引き受けて、今ここにいる。
 
 現実がそうじゃないって分かってはいても、つき付けられるのとはまた別だ。

「言い過ぎた」
「ボクが焼き鳥缶食べちゃったのがいけなかったっす」
「お前かよ!」
「どこまで食い意地が張ってるんですか」
「オレじゃねーし。人のを食ったヤツが悪い」

 食い物の恨みは一生なんだからな。覚えてろよ。

「そんなに目くじら立てて。何かあればいいんですが、生憎先ほど僕も食料を落としてしまって」

 眼鏡の指す方を見れば、外で美味そうな肉に蟻が群がっている。

「洗えば食えるだろ」

 そういうと、なぜか二人は顔を見合わせ引いていた。
 しかしオレは構うことなく外に出て、それを拾い上げる。

 焼き鳥は食べられちまったが、代わりがあって良かったと、胸を撫で下ろした。