言われた仕事は、いかにもだった。
 それでも日当にして一万円。
 食っていくには必要な金だった。

 でもそこから仲間扱いされ、いろんな仕事が回ってきた。
 真っ黒からグレーなものまで。

 こんなオレでも、踏み越えちゃいけないラインを自分で作っていた。
 直接的な闇……黒には手を出さないと。

 一軒一軒家を周り、工事があるからと伝えた時の反応を報告する仕事。
 家人の帰宅時間や家族構成を調べる仕事。

 世間であふれるその先を知ってはいても、直接そこに手を出してはいない。
 だから自分は、自分だけは大丈夫だと勘違いしていた。

「ったく、なんだよ。先週まであれこれ仕事を押し付けてきたヤツ、飛んだんかよ」

 闇バイトのおかげで食うには困らなくなり、家賃も払えた。

 でもそれだけ。
 別に裕福な暮らしが出来たわけでも、貯金が出来たわけでもない。
 そう、そんな微々たる金額だ。

 だから継続していかなければ、また来月同じ状況になってしまう。
 それなのに仲介屋の電話は現在使われておりませんと言うだけ。

 捕まったのか、逃げたのか……。
 おいおい、あと何日食えるんだ?

 狭く暗い部屋で、煎餅《せんべい》のようになった布団に寝転がったまま、オレは財布の中身と睨めっこした。
 新しく名前の知らない千円札のオジサマが数枚だけ。

「これじゃ、すぐ食えなくなるだろ。困ったなぁ」

 別に何もイイモノが食べたいわけじゃない。
 でも子どもの頃から兄弟に揉まれ、毎日食事で争ってきたオレは、大人になると腹を満たすことに執着するようになってしまった。

 とにかく食べたい。腹が満たされるなら、それはどんなものでもいい。
 ああ、こんなことなら自炊とか覚えておけば良かったな。

 部屋の中を見渡せば、コンビニ弁当やカップ麺のゴミが所せましと占拠していた。

「だる」

 現実から目を背け、またスマホを見る。

「んぁ、なんだこれ?」

 タザキ様と書かれたメールが一通、届いていた。
 それは前の仲介屋からの紹介で、仕事を振りたいというものだった。

 怪しすぎるだろ。
 しかもアイツ、オレの個人情報売ってやがったんだな。

 どうするか。
 やならない方がいいに決まってる。。

 前の仲介屋が捕まったなら、オレの情報が警察にバレるのも時間の問題だ。
 どうするか。

 闇バイトだと知りませんでしたって、通るか?
 いやでも、実際大したことしてないし。
 大丈夫だよな。

 変な汗が手をじっとりとさせていく。
 
「あー、どうするんだよ、これ」

 いくら考えても、まとまることはなく、ただイライラが募るだけだった。
 かきむしった皮膚からは血が滲み、ヒリヒリとする痛みで、ようやく手を止める。

「やっぱ、逃げるか」

 そこまで考えつつも、ついどんな仕事なのか。
 好奇心に押され、オレはメールを開いた。