何を食べても美味(うま)かった。
 人生でこんなに美味いものなど食べたことはない。

 無言を通り過ぎ、二人の顔を見る余裕などないくらい、ただ食べた。

「うめー、なんの肉だこれ。サイコーじゃねーか」

 骨の付いた肉にかぶりつけば、ハリのある皮が歯にあたり、さらに力を入れるとぷつりとかみ切れる。
 中からは大量の肉汁があふれ、あっという間に骨まですぐに到達してしまう。

 肉質はやや繊維質があるものの、噛み応えがあり、噛めば噛むほど味が出てきた。
 ほんの少し、臭み? 獣臭か。
 いや、それすら美味いと思えるほど肉は濃厚で味わい深い。
 
 初めは行儀よくフォークとスプーンを使っていたものの、気づけば手づかみで食べ始めていた。
 いくら食べても飽きがこず、どれだけでも食べれてしまう。

 何という料理なのだろか。こんな味食べたことがない。豚……羊……、いや、もっと大きく食べ応えのあるナニカ。
 
 生焼けかそもそも生肉なのか、かぶりついた肉から血がしたたる。それすら味わい深く、口の中に広がる鉄の味すらも上品だ。

「ああ、うめーな、これ。食っても食っても止まらねーよ」

 オレは肉から滴るその血を、啜《すす》る。ただの一滴たりともこぼさぬ様に。
 誰にも渡さない。オレだけの食事。
 ああ美味い。美味い。美味い。美味い。

 ねっとりと食材たちが舌に絡みつき、胃だけではなく心まで満たされていった。

 こんなに美味しいものが食べられるなら満足だ。
 やっぱりオレにはこちら側の才能があるのかもしれないな。
 
 グレーなんかでちまちま稼ぐんじゃなくて、今度からはオレが闇になればいい。
 そうだ。そうすればこんなにうまい飯が食えるんだ。

 今日からオレもこちら側で、人のうまい汁を吸ってやるんだ。