「採取の基本は錬金と一緒だ。それぞれの素材の特徴を覚えて見分ける、どの部位が重要かを覚えて傷つけないように採取する、それだけさ。あとはそれぞれの素材がどんな場所で採取できるか、なんて知識もあるが、それは本でも読んで覚えりゃいい」
今日は家の近くの森に出ている。錬金術の行程について一通り覚えたため、ここ数日は素材の調達について勉強している。錬金素材の採取は見習い冒険者のクエストでも定番なので、一石二鳥だ。
バルバラの家の周辺は鬱蒼とした森になっている。裏へ少し歩けば小川、その上流には山がある。錬金術の素材には植物系の物も多いが、森の植物、水辺の植物、山に生える植物とそれぞれ植生が異なるので、この家はそれを考慮してこの場所に建てたのだろう。
他にもモンスター由来の素材や鉱物が必要になることもあるが、それらはバルバラが昔集めた物が倉庫に山のように積んであり、それ以外に街で調達してくることもある。
「知識の無いやつは葉っぱをちぎって持ち帰ればいいくらいに思ってる。けど必要なのは根っこの方だったりして、クエスト失敗になるんだ。根っこが必要と分かってても、いい加減に引っこ抜いたらギルドの査定で大きく減額されることになるから注意しな」
バルバラはそう俺に教えながら、自分でも採取をしては背負い籠に放り込む。時折木の実や果物も放り込んでいるが、これは錬金素材じゃなくて食材も含まれている。
森は少し薄暗く、道らしい道も無いので歩きにくい。そんな中、バルバラはどこに何が生えているか全部知ってるんじゃないかという動きで、植物をむしったり杖で木の実を叩き落したりしている。
「知ってるんじゃない、見えるんだよ。暗かろうが葉っぱが似てようが、見りゃ分かる。素人は見るべきところを見てないんだ。あたしゃ見るべきところしか見てないんだよ」
「また難しいことを」
「要は、慣れさ」
そう言いながらもバルバラは、見るべきところについて教えてくれた。植物の特徴や似た植物との違いなど、見るべきポイントを教えられると、確かに不必要な情報ばかりをたくさん仕入れていたんだということに気づく。
必要なところだけ見ることで、植物を見分けたり木の実を発見したりする速度があがったことを実感できた。採取技術の向上により少し調子に乗った気分で森を進んでいくうちに、木々の間に陽光が差し込む少し開けた空間に出た。
「おぉ。綺麗だな」
やや明るめの水色、白、黄色の花々が咲きほこる光景にテンションが上がる。これまではシダのような日陰の植物ばかりだったのが、緑が濃く大きめで厚い葉を付けた種類の草が多い。
常に納品依頼があるのが、HP回復ポーションの素材となる陽光草だが、日当たりのいい土地に群生する。比較的見つけやすい薬草で、ちょうどこの周辺にもたくさん生えていた。錬金素材としては葉の色が濃い物が重宝されるが、葉の形でも生育具合が分かる。査定をあげるためのちょっとしたコツだ。
「バルバラー、微妙に変な色の草があるけど、これも使えるのか?」
むしっと引っこ抜くと、根っこが太くて穴のような目と鼻と口が…。
「馬鹿!そいつは!」
「ぼえぇぇぇぇぇ!!!」
「うぉぉぉぉぉ!!!」
「ぎにゃぁああああ!!!」
少し違和感を感じた草を抜いた瞬間、根っこの部分がすさまじい音量で叫んだ。驚いて放り出したら、凄い勢いで走り出す。
「お、おぉ…耳が…」
「こぉの、馬鹿たれ!草に擬態する魔物はこの前教えただろう!」
「やめ…今は…やめ…」
叫び声でぐわんぐわん横に回る世界が、バルバラのお仕置きで縦に揺れる。
「ちょ、ほんと、おえぇ」
慣れた頃が一番危ないということを学んだ一日だった。
