帰宅したら居間にバルバラが居た。この時間に工房じゃなくてこっちに居るということは、心配して待っていてくれたんだと思う。
「何だい、早かったね」
「あぁ。シラカもまだ小さいし、あまり遅くまでお邪魔するのもな。街に行けばいつでも会えるし」
「今更邪魔とかいう間柄じゃ…なんだい随分と物騒なナイフだね。盗んできたのかい」
「誰が盗むか!お手伝いのお礼にってくれたんだよ。エプロンもな」
目を細めてナイフをじっと見つめたのち、バルバラは少し口角を上げて、ここには居ないクヌをからかうように言った。
「そのナイフはクヌが冒険者時代に使ってたやつだね。あいつも随分あんたを気に入ったようだ」
「え?クヌって冒険者だったのか?傭兵とか用心棒とかじゃなくて?」
「あんたも失礼だね、言いたいことはわかるが。それで、そんなもん貰ってきて、あんた冒険者でも目指すつもりかい?」
「あぁ…目指すっていうかな。そろそろ話しておいたほうが良いと思うんだが」
もう1年も経つし良い機会だと思ったので、自分が転生者であること、手違いで腕輪を貰えなかったこと、シンアルに出会ってバルバラの元へ預けられたことを話した。バルバラは少しだけ驚いた様子だったが、黙って聞いてくれた。
「なるほど、転生者だったとはね。妙な人間だとは思ったんだよ。時々訳の分からない事を言うし、家事マニアの変人だし」
「家事マニアは認めるがそれは家事妖精が混じってるからだ。あと変人じゃない。…俺の話、信じるのか?」
「あたしに嘘ついたって何の得にもならないだろうよ。それに、あんたが嘘をついたってすぐ分かるよ。何年生きてると思うんだい」
バルバラの嘘も分かりやすいけどな。言わないけど。
「で、転生者はみんな冒険者になるから、あんたも冒険者になるのかい?」
「転生者だから、ってわけじゃないんだけどな。多少手違いはあったけど、せっかく女神さまがこの世界に送り出してくれたんだし、世の中を見て回りたいっていう気持ちがある。この世界を巡り巡って、色んなものに吃驚したい。きっと楽しいと思うんだよ。世話になってるバルバラを放っておいて冒険者になるってのは恩知らずだとは思うけど…」
経緯はどうあれ、バルバラの世話をするのと引き換えに面倒を見てもらうことになった。途中で放り出して自分のやりたいことを優先するのは、人としても家事妖精としても道理に反するだろう。
「けっ!子どもが生意気を言うんじゃないよ。じゃああんた一生この婆の面倒を見て暮らすのかい?そんなのこっちが願い下げさね。そんなことより、冒険者になろうにもあんた、歳が足りないだろ」
「そうなんだ。13歳だから、どの道あと2年はお預けだよ。まぁ手伝いも終わったから、しばらくはのんびり家事でもして過ごすさ」
「かーっ!馬鹿言ってんじゃないよ!冒険者になろうってのに、あと2年しかないんだよ?あんたみたいなひよっこが、何の準備もせずにそのまんま冒険者になれるわけないじゃないか!」
…火が付いたように怒られた。冒険者がいかに危険か、どのような技術も一朝一夕では身につかないことなど、小一時間説教をくらった。普段とは少し違う表情を見せるバルバラに反論できるわけもなく、大人しく聞いていると、最後にこう言った。
「仕方ない。明日からあたしがみっちり鍛えてやるから、そのつもりでいな!」
「え?バルバラが?なんで?」
「このまま放っておいて2年たって、その辺で野垂れ死にされちゃあ目覚めが悪いだろうよ。枕元に立たれた日にゃあ、いちいち杖で追い払うのも面倒じゃないか」
あ、そういう幽霊的な観念ってこっちにもあるのね。ていうか追い払うなよ。
「明日からは午前中に錬金術、午後は杖術を仕込んでやる。手伝いが終わったんだから時間はあるだろ。家事はその合間にやりな」
「杖術?冒険者といえば剣とかじゃないのか」
「あんた、あたしが剣を使ってるの見たことあるかい?」
「…無いな」
「そうだろう?あたしが剣なんか使ってたら、あんたの頭はもう細切れになってるさ」
「人に向けるなよ、人に。言っとくが杖でも相当なダメージ入ってるからな?」
「いちいちうるさいよ、話が進まないじゃないか。とにかく明日からの予定は決まったんだ、ぐちぐち言ってないで覚悟しな」
「まあ鍛えてもらえるなら助かる。心遣いだろうからありがたく教えてもらうよ」
そうして、冒険者になれるまでの2年間、訓練漬けの毎日が始まった。
「何だい、早かったね」
「あぁ。シラカもまだ小さいし、あまり遅くまでお邪魔するのもな。街に行けばいつでも会えるし」
「今更邪魔とかいう間柄じゃ…なんだい随分と物騒なナイフだね。盗んできたのかい」
「誰が盗むか!お手伝いのお礼にってくれたんだよ。エプロンもな」
目を細めてナイフをじっと見つめたのち、バルバラは少し口角を上げて、ここには居ないクヌをからかうように言った。
「そのナイフはクヌが冒険者時代に使ってたやつだね。あいつも随分あんたを気に入ったようだ」
「え?クヌって冒険者だったのか?傭兵とか用心棒とかじゃなくて?」
「あんたも失礼だね、言いたいことはわかるが。それで、そんなもん貰ってきて、あんた冒険者でも目指すつもりかい?」
「あぁ…目指すっていうかな。そろそろ話しておいたほうが良いと思うんだが」
もう1年も経つし良い機会だと思ったので、自分が転生者であること、手違いで腕輪を貰えなかったこと、シンアルに出会ってバルバラの元へ預けられたことを話した。バルバラは少しだけ驚いた様子だったが、黙って聞いてくれた。
「なるほど、転生者だったとはね。妙な人間だとは思ったんだよ。時々訳の分からない事を言うし、家事マニアの変人だし」
「家事マニアは認めるがそれは家事妖精が混じってるからだ。あと変人じゃない。…俺の話、信じるのか?」
「あたしに嘘ついたって何の得にもならないだろうよ。それに、あんたが嘘をついたってすぐ分かるよ。何年生きてると思うんだい」
バルバラの嘘も分かりやすいけどな。言わないけど。
「で、転生者はみんな冒険者になるから、あんたも冒険者になるのかい?」
「転生者だから、ってわけじゃないんだけどな。多少手違いはあったけど、せっかく女神さまがこの世界に送り出してくれたんだし、世の中を見て回りたいっていう気持ちがある。この世界を巡り巡って、色んなものに吃驚したい。きっと楽しいと思うんだよ。世話になってるバルバラを放っておいて冒険者になるってのは恩知らずだとは思うけど…」
経緯はどうあれ、バルバラの世話をするのと引き換えに面倒を見てもらうことになった。途中で放り出して自分のやりたいことを優先するのは、人としても家事妖精としても道理に反するだろう。
「けっ!子どもが生意気を言うんじゃないよ。じゃああんた一生この婆の面倒を見て暮らすのかい?そんなのこっちが願い下げさね。そんなことより、冒険者になろうにもあんた、歳が足りないだろ」
「そうなんだ。13歳だから、どの道あと2年はお預けだよ。まぁ手伝いも終わったから、しばらくはのんびり家事でもして過ごすさ」
「かーっ!馬鹿言ってんじゃないよ!冒険者になろうってのに、あと2年しかないんだよ?あんたみたいなひよっこが、何の準備もせずにそのまんま冒険者になれるわけないじゃないか!」
…火が付いたように怒られた。冒険者がいかに危険か、どのような技術も一朝一夕では身につかないことなど、小一時間説教をくらった。普段とは少し違う表情を見せるバルバラに反論できるわけもなく、大人しく聞いていると、最後にこう言った。
「仕方ない。明日からあたしがみっちり鍛えてやるから、そのつもりでいな!」
「え?バルバラが?なんで?」
「このまま放っておいて2年たって、その辺で野垂れ死にされちゃあ目覚めが悪いだろうよ。枕元に立たれた日にゃあ、いちいち杖で追い払うのも面倒じゃないか」
あ、そういう幽霊的な観念ってこっちにもあるのね。ていうか追い払うなよ。
「明日からは午前中に錬金術、午後は杖術を仕込んでやる。手伝いが終わったんだから時間はあるだろ。家事はその合間にやりな」
「杖術?冒険者といえば剣とかじゃないのか」
「あんた、あたしが剣を使ってるの見たことあるかい?」
「…無いな」
「そうだろう?あたしが剣なんか使ってたら、あんたの頭はもう細切れになってるさ」
「人に向けるなよ、人に。言っとくが杖でも相当なダメージ入ってるからな?」
「いちいちうるさいよ、話が進まないじゃないか。とにかく明日からの予定は決まったんだ、ぐちぐち言ってないで覚悟しな」
「まあ鍛えてもらえるなら助かる。心遣いだろうからありがたく教えてもらうよ」
そうして、冒険者になれるまでの2年間、訓練漬けの毎日が始まった。
