「おぉ…」

 門を抜けると視界が開けて、賑やかな街の様子が目に飛び込んできた。一度は見たはずの風景だが、前回は気持ちに余裕もなかったし。改めて見る街の賑わいに少し感動する。あまりぼんやりと立っていると邪魔になりそうだから、ギルドに向かってゆっくり歩きながら堪能することにしよう。

 大通りには店が並ぶ。中に入らないと何屋かわからない店もあれば、通りに面して商品を並べているところもある。野菜や果物は見たことが無いものばかりで、いつかは試してみたいところだが今は味を想像するだけにしよう。雑貨屋風の店では家事に使えそうな道具を見つけたが、これも今は我慢だ。

 先の楽しみがどんどん増えていくな。店と店の間に時折見かける小道の先には、住宅街があるようなので、そのうち時間ができたら探検したい。よくあるタイプの治安の悪い区画とかじゃなければいいのだが。

 店が並ぶ通りを抜けると、中央に噴水のある広場に出た。主要な建物が集まっているらしく、この辺りの建物は他よりも一回り大きく見える。剣と盾の意匠の看板がかかっている建物が冒険者ギルドで、入口には前後に開くタイプの両扉が設置されている。

 こういうのってそれらしい雰囲気があっていいんだけど、うっすら中が見えるのが初めて来た人には微妙に怖いというか何というか。今日の1番目の目的地なので、勇気を出して中に入ることにする。

 ギルドの中は思っていたよりも清潔感があった。これもテンプレだが酒場風のスペースが併設されており、何人かの冒険者が食事をしながら談笑している。ギルドの奥にカウンターがあったため、とりあえず声をかけてみる。ポニーテールの元気なお姉さんといった感じの人だ。

「すみません。住民登録をお願いしたいのですが」
「はい、住民登録ですね。それでは・・・手続きしますね。衛兵が発行した札はお持ちですか?」

 受付の女性が俺の顔を見た時に少し間があった気がするが。何を言おうとしたか一瞬忘れたとか、そんな感じだろう。ベルンハルトから渡された札を手渡したのだが、やっぱめっちゃ見てる気がする。銀髪が珍しいのか?

「はい、確かに。それではこちらの魔道具に手をかざしてください」

 平たい板に水晶の玉のようなものが埋め込まれている。言われた通りに手をかざすと薄く光り、横からカードのようなものが現れた。

「はい、こちらが住民カードです」


 ---------------

 名前:ルイ

 種族:人間

 年齢:12

 職業(クラス):家事手伝い

 --------------


 待てぃ。職業が家事手伝いって。嫁入り前か。というか職業か、それ。

「偉いですね。これくらいの年齢だと職業は空欄になるんですけど」

 褒められても微妙に喜べないんだが。というか他にも気になるところがある。

「あの、俺は人間ですか?」
「え?あぁ、見た目が少し変わっているから、というか整い過ぎてるから?ちょっと羨ましいくらいよね?たぶんお父さんかお母さんか、さらにその先かで他の種族の血縁がいるんだと思うけど、ハーフエルフとか確立された種族じゃない限りはちょっとくらい血が混じってたとしても、一つの種族名が表示されるの。色んな家族構成の人がいるんだし、誰も気にしないよ?でも私は気になるけどね?その見た目で私と同じ人間ってズルくない?ねぇ、どういうこと?」

 良かった。家事妖精の血が住民カードにどんな影響があるか少し心配だったのだが、無事に人間認定されたらしい。家事も嫌いじゃないし家事妖精が混じってるのは気にしてないけど、周りの人に変な生き物扱いされると生きていくのが大変そうだ。

 とはいえ ”家事マニアの人間” とか別な扱いをされる可能性も出てきてしまったわけだが。何故かおすまし顔も丁寧語も崩れてキレ気味になってしまったお姉さんはスルーすることにして。お姉さんも綺麗な人だとは思うんだが、その方向で発言したら大変なことになりそうな気配がする。なので、

「ありがとうございました」

 にっこり笑って話を終えることにする。

「くっ…笑顔までズルい!」

 とりあえず住民カードは手に入れたし、冒険者になれない年齢の俺はもはやここに用がない。買い物にどれくらい時間がかかるか分からないし、さっさと買い物へ向かうことにしよう。

「ルイくん、またね」

 途中は少し怖かったが、最後は笑顔で手を振ってくれたお姉さんに手を振り返し、冒険者ギルドを出る。ギルドの雰囲気がゲームや小説でよくある雰囲気だったので、絡まれるイベントとかが発生しないか心配だったから、一仕事終えた気分だ。

 寝具、掃除道具などの雑貨類などを買う店はバルバラから教えてもらっている。けどせっかくだからその前に、さっき見かけた食材の店で、何か土産に美味いものでも買って帰ることにしよう。いや、やはり魔女っぽく、ほうきとかの方が良いかな?