すごいなぁ、と素直に尊敬する。
 私には、いつものことながらそんなエネルギーはもうない。
 登校して、授業を受けて、たまにクラスメイトと話して、下校する。それだけで精一杯だった。
 みんなと同じことをしているだけのはずなのに、どうして私はこんなに疲れてしまうんだろう。
 溜息を堪えながら、さっさと教室を出て、帰路についた。

「あっ、ののちゃんおかえりー!」
「……ただいま」
 家に帰ると、たいてい妹の葉暖(はのん)ちゃんが迎えてくれる。嬉しくはあるんだけど、すぐに「遊ぼー!」と言ってくるので休む暇がない。
 夕方にはお母さんからいろいろと手伝いを頼まれて、夜はお姉ちゃんやお父さんの話につきあわされる。そしてその後に勉強。
 ひとりで休める時間はほとんどない。
 家族のことは好きだから、遊んだりとか、話したりするのはいいんだけど、自分のために使える時間がないのは苦しい。
 ふと、机の上に紙とお菓子が置いてあるのを見つけた。
「のんちゃん、これなに?」
「それねー、今日ね、葉暖が学校でもらったの」
「……誰に?」
「かなとくん!」
 クラスの男の子なのかな。もう一度見てみると紙にはなにか書いてあった。
「『大好きだよ』って……」
「あー!読まないで!」
 可愛いな、と思う。小学生の恋愛はどんなもので、いつまで続くんだろう。
 ……恋愛なんていう言葉、久しぶりに頭に浮かんだ気がする。
 高校生になってから、そういうことを考える暇はなくなっていたし、興味もあまり沸かなかった。
 他の同級生たちは、そういうことに頭を悩ませたりしてるんだろうか。そう思うと少し虚しくなった。

 外が暗くなってから帰ってきたお姉ちゃんは、楽しそうな表情をしていた。
 大学生になってから、お姉ちゃんは笑顔を見せることが増えた。
「温華、疲れた顔してるけど大丈夫?」
「……うん。いつものことだから気にしないで」
「そう?大丈夫ならいいけど……せっかくの高校生活なんだから楽しみなきゃ!」
「……うん」
 私だって、楽しみたいけど。
 一緒に遊びに行くような友達もいないし、そんな心の余裕もないし。
 お姉ちゃん自身が高校生活を楽しめなかった経験から来ている言葉だというのは知っているけど……。
 私も大学生になれば、今のお姉ちゃんみたいに楽しく生きられるのかな。だけど、勉強しているとは言っても疲れているせいで集中が続かないままでは、自分に合った大学に行けるかどうかもわからない。一年生の11月で、そろそろ進路のこともよく考えないといけないのはわかってる。だけど、考える気になれない。