◇
私がいじめをしていた。その噂は学校中に誇張されながらどんどん広がっていった。
廊下を歩いているだけで、いろんな方向から視線を感じる。
教室でも、誰にも話しかけられなくなった。真冬くんだけは、すれ違ったときなどにしばしば言葉を交わしてくれた。
体育から帰ってきたとき、廊下でクラスの女子たちがひそひそ話しているのが聞こえてきた。
「ねえ、七井さんマジでうざくない?」
「さっきの体育のときも真面目ぶってずっと練習してたよね」
「先生によく見てもらいたいんでしょ」
私が近くにいることに気付いていないようだった。
……そういうことか、と腑に落ちる。
私が頑張っていることが、気に入らないんだ。
頑張っている、真面目にやっている〝から〟嫌われるんだ。
それならもう、どうしようもない。
だって私は、頑張らないと学校生活が送れない。
みんなと同じことをするにも、頑張らないとそれができない。
本当は動きがゆっくりで、慎重で、急かされて疲れているのに、周りのペースに合わせなきゃいけない。
溜息が出そうになるのを必死に堪えた。
居心地が悪い。ずっと誰かに見られている気がする。
なにもかも吐き出したい。日に日にその気持ちが強くなっていく。
昼休み、気を紛らすためにSNSを見ていたら、写真付きの投稿が目に入った。
『こいつ、中学時代にクラスメイトを自殺させたらしい』
添付されていたのは、明らかに隠し撮りされた、私の画像だった。
「なにこれ……」
思わずひとり呟いた。顔は写っていないものの、どこの高校かは制服でわかる。私のことを知っている人がみたら私だと気付くだろう。
……怖い。勝手にありもしない話を作られて、悪者に仕立て上げられて、世界中に晒される。
嫌だ、ここから逃げ出したい。
授業になってもそればかり考えていて、私は自分が指名されたことに気がつかなかった。
「おい、七井」
歴史の先生が鋭い声で私を呼ぶ。
「……すみません」
教室中の視線が私に集まっていた。
やめて、こっちを見ないで。
「大丈夫か?せっかくいい子なんだからしっかりしてくれ」
いい子――?それって、先生にとって扱いやすいだけなんじゃないの?私は誰のことも傷つけたくなくて、誰にも傷つけられたくなくて、普段は真面目に授業を受けているだけ。
それがどれだけつらいかなんて、誰も知らないくせに――。
その瞬間はなんとか堪えて、休み時間になった途端、私は教室を飛び出した。
この空間にいたくない。もう我慢できない。頑張れない。
どうして私はこんなに弱くて脆いんだろう。みんなだったら耐えられるようなことが、どうして私には無理なんだろう。
「もう嫌だ……」
校舎裏まで来て、私は建物の壁に背中をつけて嘆いた。
ようやくひとりになれたのに、今度は寂しさが襲ってくる。
ひとりになりたかったのに、独りで悩むのは嫌で。救えないな……。
「温華ちゃん……!」
ふいに、少し震えた高い声が鼓膜を揺らした。
顔を上げると、息を切らした真冬くんが壁に手をつけて立っていた。
私がいじめをしていた。その噂は学校中に誇張されながらどんどん広がっていった。
廊下を歩いているだけで、いろんな方向から視線を感じる。
教室でも、誰にも話しかけられなくなった。真冬くんだけは、すれ違ったときなどにしばしば言葉を交わしてくれた。
体育から帰ってきたとき、廊下でクラスの女子たちがひそひそ話しているのが聞こえてきた。
「ねえ、七井さんマジでうざくない?」
「さっきの体育のときも真面目ぶってずっと練習してたよね」
「先生によく見てもらいたいんでしょ」
私が近くにいることに気付いていないようだった。
……そういうことか、と腑に落ちる。
私が頑張っていることが、気に入らないんだ。
頑張っている、真面目にやっている〝から〟嫌われるんだ。
それならもう、どうしようもない。
だって私は、頑張らないと学校生活が送れない。
みんなと同じことをするにも、頑張らないとそれができない。
本当は動きがゆっくりで、慎重で、急かされて疲れているのに、周りのペースに合わせなきゃいけない。
溜息が出そうになるのを必死に堪えた。
居心地が悪い。ずっと誰かに見られている気がする。
なにもかも吐き出したい。日に日にその気持ちが強くなっていく。
昼休み、気を紛らすためにSNSを見ていたら、写真付きの投稿が目に入った。
『こいつ、中学時代にクラスメイトを自殺させたらしい』
添付されていたのは、明らかに隠し撮りされた、私の画像だった。
「なにこれ……」
思わずひとり呟いた。顔は写っていないものの、どこの高校かは制服でわかる。私のことを知っている人がみたら私だと気付くだろう。
……怖い。勝手にありもしない話を作られて、悪者に仕立て上げられて、世界中に晒される。
嫌だ、ここから逃げ出したい。
授業になってもそればかり考えていて、私は自分が指名されたことに気がつかなかった。
「おい、七井」
歴史の先生が鋭い声で私を呼ぶ。
「……すみません」
教室中の視線が私に集まっていた。
やめて、こっちを見ないで。
「大丈夫か?せっかくいい子なんだからしっかりしてくれ」
いい子――?それって、先生にとって扱いやすいだけなんじゃないの?私は誰のことも傷つけたくなくて、誰にも傷つけられたくなくて、普段は真面目に授業を受けているだけ。
それがどれだけつらいかなんて、誰も知らないくせに――。
その瞬間はなんとか堪えて、休み時間になった途端、私は教室を飛び出した。
この空間にいたくない。もう我慢できない。頑張れない。
どうして私はこんなに弱くて脆いんだろう。みんなだったら耐えられるようなことが、どうして私には無理なんだろう。
「もう嫌だ……」
校舎裏まで来て、私は建物の壁に背中をつけて嘆いた。
ようやくひとりになれたのに、今度は寂しさが襲ってくる。
ひとりになりたかったのに、独りで悩むのは嫌で。救えないな……。
「温華ちゃん……!」
ふいに、少し震えた高い声が鼓膜を揺らした。
顔を上げると、息を切らした真冬くんが壁に手をつけて立っていた。



