ううん、迷ってる暇はない。私の恥ずかしさとか緊張とか、そんなものはどうでもよくて。
 なにかしないと、私も真冬くんも苦しいまま。
 そこで、放課後、真冬くんが教室を出た後、私も少しだけ間を空けてついていった。
 予想に反して、真冬くんは図書室には行かず昇降口に直行した。だけど諦めずに私もついていく。真冬くんが通る道によってはむしろこの状況の方が話しやすいかもしれない。
 すると真冬くんは、多くの人が利用する道を途中で曲がり、裏道みたいな人通りの少ないところに入っていった。私もその後を追う。気付かれないように。
 これは声をかける機会だと思った。もし真冬くんがみんなと同じ道に行ってたら話しかけようと思えなかったしれない。
 結局、チャンスを待ってしまう。
 そんな自分が嫌になる。
 このまま追っていってもストーカーみたいになるだけ。
 頑張れ、私。
 足にぐっと力を入れて、地面を蹴った。走って、少し前を歩いていた真冬くんに追いつき、声をかける。
「真冬くん!」
「え……あっ」
 立ち止まって振り向いた真冬くん。そして私に気付くと、さらさらした髪が少しかかった、綺麗な目を丸くした。
「……ちょっと、話してもいい……?」
 真冬くんは戸惑った表情を見せつつも、こくりとうなずいてくれた。
 でも、どうしよう、なにからどう言ったらいいんだろう。
 言葉を準備していなかったせいで、おろおろして余計なにも言えなくなる。ただでさえ普段から人にあまり話しかけなないのに。
 そんな私の気持ちを察したのか、先に真冬くんが口を開いた。
「……ごめんね、あのとき、逃げちゃって……」
「えっ、ううん!大丈夫だよ!」
 謝ってほしいわけじゃない。私が聞きたいのは、どうしてあのときあんなに悲しそうな顔をしていたのか……。でも簡単に聞いていいことじゃない。
 だけどずっと黙っているわけにもいかなくて、なんとか言葉を選び出す。
「……あのときの真冬くんが、すごくつらそうで、苦しそうだったから……私じゃ頼りないと思うけど、なにがあったのか、聞かせてほしくて……もちろん、嫌だったらいいよ」
「そんなことないよっ」
 すぐに真冬くんが弱々しい声で、だけどはっきりと否定した。なにに対して言われたのかわからなくて、私は真冬くんを見つめる。
「の、温華ちゃんは頼りなくないし、優しい……。だから、自分のこと、そんなに落とさないで……」
 真冬くんの悲痛な表情を見て、思わず私はうつむいた。今、真冬くんを苦しませてしまっているのは、私だ。私が自分のことを下げることが、真冬くんの痛みになっていた。