初めて来たときはさびれた駅だと思った。今になっても似たようなものだ。
到着のアナウンスと共に駅の蛍光灯の光が差し込み、自分の顔が電車の窓に反射する。県をひとつ越えたってだけなのに、ずいぶんシケて見えた。特に目だ。ここ数日の忙しさでガイコツに埋め込んだビー玉みたいに落ちくぼんでしまった。
統京に来たのはこれで五回目。
夜行列車を降りると、しっとりと重たい街の夜気が膚を包んだ。
崔瓦駅は姉弟子の付き添いで来たっきりだったが、そう変わったようには見えなかった。
相変わらずタイル張りの床は割れたまま放置されていた。三つある自販機は真ん中だけ蹴り壊されており、残りふたつにも故障中の黄色いテープが貼ってあった。
見上げると、死にかけの蛾たちが有機ELの照明に突撃を繰り返していた。すでに照明の下には死骸がいくつも重なっている。照明のソケットも汚れが溜まったまま放置されていて、あのまま切れたとしても交換する人間はいないだろう。
「あんた、ムラクモの生徒さんかい?」
「……ん?」
いつの間にか、隣に男が立っていた。
茶色のボール紙みたいに平べったく痩せた老人だった。
老人の呼気からは酒とドラッグの混じった臭いがした。浮浪者かと思ったが、服装からすると駅員らしい。そこだけよく磨かれたネームプレートに埜摺という名前が光っていた。
老人は酒でしわがれた声で言った。
「サイガワラで降りるお上りさんは書生と決まっているのでな」
「オレ、田舎っぽく見えるですかね?」
「さあな……だが慣れない敬語はそうだな、ここいらじゃ見かけない」
む、と思わずうなった。
茅場の片田舎ではどこに行っても向こう三軒両隣といった具合で、だいたいタメ口で通じていた。言葉遣いは身内に仕込まれたものだが、やはり実践するのは難しい。
「チバからです。道場の推薦ってやつですよ」
少年は自嘲ぎみに言って、背負った木刀袋を揺らした。
「だろうな、よく鍛えている」
「ムラクモの生徒さんたちも、ここに?」
「いや。教官がたまにって程度だ。寮制なんだが、買い出しは大きな売店があるそうでな」
駅員はそう言って、懐からスキットルを取り出した。
ひどく古びた代物だった。官給品らしく角が立っていて、強く握ると指が切れそうだ。
「あなたも従軍経験が?」
少年が尋ねると、駅員はヤニだらけの目でじろりと見てきた。
「ああ。まあ本部の総務課だったがね。ひげの剃り方ひとつ知らないような部署さ……」
「ウツリ義姉さん――姉弟子は特機歩兵をやってたと言ってました」
「学徒兵の弟か」
駅員はスキットルを下ろして、さらに酒臭くなった息を吐いた。
「ムラクモ学校は降りて南の大通りをまっすぐだ。道の南北は分かるな?」
「あ、はい。ありがとうございました」
「喉が渇いていたら、そこの自販機にな?」
駅員は何かを蹴るような仕草をすると、現れたときと同じように音もなく去っていった。
彼の姿が見えなくなったところで、少年はひとつ空咳を打った。
思ったより親切な人だった。都会もまだまだ捨てたもんじゃない。
横目で自販機を見る。まだ壊れていないふたつも、何度か蹴られた跡があった。見たところ、裏鉄《うらがね》を仕込んだブーツでやられている。軍用のものだ。
「……喉、か」
まだ無事なやつの取り出し口を開くと、中には炭酸飲料が一本入っていた。
まだ冷たいそれをカバンに入れて、少年は歩き出す。
さっきの駅員が用意してくれたのだろうか。上京の初日には悪くない出だしだ。
†
昔もトウキョウという名前の町があって、やはりニッポンという国の首都をやっていたらしい――本当かどうかは知らない。裏付けるための記録はとっくに失われた。
棄械のせいだと言う人もいるし、データの消失が原因で連中が現れたのだ、と分析する学者もいる。
人類史に二百年ばかりの空白期間があって、そのあいだに人類の文明が大きく停滞したのは確かだが、分かってるのはそれだけだ。今となっては飛び飛びの遺構を発見しては、わずかに読み取れる断片から推測をするばかり。
赤錆びた鉄のような朝焼けが空に広がり、今日も世界は回っていく。
予約していた宿の主人は親切なおやじだった。時間外に沸かしてもらった風呂は暖かく、寝具のせんべい布団も実家と同じくらいの熟れた固さで、ずいぶん疲れが取れた。
今は朝食を求めて街をほっつき歩いているところだ。
ちょっと繁華街の方に入ると、ぎゅうぎゅうと並ぶ直方体をした建物が出迎えた。こういう都会は看板や外壁の色でアレンジしていても、ひと皮むけばどいつもコンクリートの箱ばっかりで、正直のところ全部同じに見える。
「観光案内でも買ってりゃな……」
もう少し進むと知っている喫茶店を見つけたので、少年はドアノブを引いた。
モーニングには少し遅い時間ということもあり、店員は冴えない風体のアルバイトがレジ打ちをしているだけだった。
店主は午後の仕込みをやっている最中らしく、厨房からの煙に乗って、玉ねぎの甘い香りが漂ってきていた。以前、ここで姉弟子に絶品とかいうオニオンサンドを紹介されたのを思い出す。今日くらいは注文してもいいかもしれない。
カウンターは近くの大学の学生で満杯になっていた。
ボックス席も有閑マダムや商談中のサラリーマンで埋まっていたが、奥にぽつんと、女学生がひとりで座るテーブルがあった。
「すみません、今は満席でして」
バイトの男が頭を下げてきた。構わず少年は奥の席をさした。
「相席でもダメですか?」
「さあ……」
この男、あまり接客慣れしている人間じゃないらしい。
少年は女学生の席へと歩いていった。隣に立ち、声をかける前に荷物がどいた。
「ん。大丈夫」
女学生は顔も上げずに言った。
少年がオニオンサンドとコーヒーを頼むあいだ、女学生はずっとメモ帳と格闘していた。
トイメンで向き合うと彼女の長い脚がよく分かった。黒い髪にも艶があり、質素な恰好のわりにいい生活をしてるようだ。金がある身分で軍学校に通うくらいだから、士官か貴族の娘なのかもしれない。
テーブルには天板を半分ほど埋めるようにコピー用紙が広げてあった。紙には同心円状に広がる波線と、角ばった記号があっちこっちしている。地形図だ。それも軍事演習用。
「コーヒー、飲んでいいか?」
店員が持ってきたマグを片手に、少年は尋ねた。
女学生が顔を上げる。ぱっつりと切り揃えた前髪が揺れて、明るいオレンジの瞳がこちらを見る。さっきから動きがきびきびしてて、なんだかトンビみたいだ。
「なんで?」
「いや、運ばれてきたから……」
「じゃなくて、私に訊いた理由」
「勉強中だろ?オレ、不器用だからこぼすかもしれねえし」
女学生は面倒くさそうにコピー用紙をたぐり寄せた。
「そいつ、宿題か?」
「ん」
鼻を鳴らされた。たぶん、同意。
なるほど、とオニオンサンドにかぶりつく。なるほど、こちらも確かに美味い。
「オレも来週からムラクモに入るんだけど、それ、制服だよな?」
紺色のブレザーは丁寧にアイロンがけしてあった。プリーツスカートと合わせてあって、今の流行からすると少し古くさい。
女学生はスカートの生地をつまんで、少年の顔をちらりとうかがう。
「だったら、なに」
「初日から同じ学校の人に会えるって嬉しくね?べつに狙ってたとかじゃねえけど、ほら……あ、名前まだだった。チバから来たんだよ」
「『トツカ・レイギ』、でしょ」
女学生は息を吐いて、地形図とメモ帳をカバンにしまった。
「え……」
トツカはまばたきをした。女学生は立ち上がり、店員のところまで行くと、紙幣を置いて店を出た。
店員はレジを打つとき変な顔をしていた。
もういちど紙幣を数え直して、やはり首を傾げ、トツカのところに駆け寄ってくる。
「お客様、お勘定は先ほどの方とご一緒でよろしかったでしょうか」
「は?」
見せられた紙幣は、トツカが注文した分も含んでいた。
どうも奢られてしまったらしい。ここのところは復興税で物価も高いのに、気前が良いことだ。
「よく来んの、カノジョ?」
レシートとお釣りをポケットに突っ込みながら、トツカは窓の外を見た。
軍用のトラックが信号で止まっていた。隣の兵員輸送車からすると、運んでいるのはただの補給物資というわけじゃないようだ。
そのまま視線を巡らしていくと、向かいの通りにさっきの女学生を見つけた。相変わらず仏頂面で信号を待っている。
「いえ。しかし戦勝二周年ですから」
「ああ、パレードね……あのトラックも中身は『グラム』だったり?」
「それはどうでしょう。まあ、かもしれませんね」
店員は小さく答えると、カシャカシャと食器を集めだした。
今いる客からのオーダーはひと通り捌けて、新しい客が来る様子もない。店員としては、レジと食洗器を往復するだけの、いちばん暇な時間だ。
窓の外では、女学生が腕時計を見るところだった。
腕時計も彼女の格好に負けないくらい古ぼけた代物に見えた。バンドがすり切れて白くなっている。士官向けの官給品のようで、頑丈そうな分厚い本体だった。
ちょうど信号機が青になり、トラックが進み始めた。
女学生もさっさと歩きだした。その姿が路地裏に消える前に、トツカは喫茶店を出た。
「おい、さっきの人!」
『そいつ』が来たのは、その直後だった。
到着のアナウンスと共に駅の蛍光灯の光が差し込み、自分の顔が電車の窓に反射する。県をひとつ越えたってだけなのに、ずいぶんシケて見えた。特に目だ。ここ数日の忙しさでガイコツに埋め込んだビー玉みたいに落ちくぼんでしまった。
統京に来たのはこれで五回目。
夜行列車を降りると、しっとりと重たい街の夜気が膚を包んだ。
崔瓦駅は姉弟子の付き添いで来たっきりだったが、そう変わったようには見えなかった。
相変わらずタイル張りの床は割れたまま放置されていた。三つある自販機は真ん中だけ蹴り壊されており、残りふたつにも故障中の黄色いテープが貼ってあった。
見上げると、死にかけの蛾たちが有機ELの照明に突撃を繰り返していた。すでに照明の下には死骸がいくつも重なっている。照明のソケットも汚れが溜まったまま放置されていて、あのまま切れたとしても交換する人間はいないだろう。
「あんた、ムラクモの生徒さんかい?」
「……ん?」
いつの間にか、隣に男が立っていた。
茶色のボール紙みたいに平べったく痩せた老人だった。
老人の呼気からは酒とドラッグの混じった臭いがした。浮浪者かと思ったが、服装からすると駅員らしい。そこだけよく磨かれたネームプレートに埜摺という名前が光っていた。
老人は酒でしわがれた声で言った。
「サイガワラで降りるお上りさんは書生と決まっているのでな」
「オレ、田舎っぽく見えるですかね?」
「さあな……だが慣れない敬語はそうだな、ここいらじゃ見かけない」
む、と思わずうなった。
茅場の片田舎ではどこに行っても向こう三軒両隣といった具合で、だいたいタメ口で通じていた。言葉遣いは身内に仕込まれたものだが、やはり実践するのは難しい。
「チバからです。道場の推薦ってやつですよ」
少年は自嘲ぎみに言って、背負った木刀袋を揺らした。
「だろうな、よく鍛えている」
「ムラクモの生徒さんたちも、ここに?」
「いや。教官がたまにって程度だ。寮制なんだが、買い出しは大きな売店があるそうでな」
駅員はそう言って、懐からスキットルを取り出した。
ひどく古びた代物だった。官給品らしく角が立っていて、強く握ると指が切れそうだ。
「あなたも従軍経験が?」
少年が尋ねると、駅員はヤニだらけの目でじろりと見てきた。
「ああ。まあ本部の総務課だったがね。ひげの剃り方ひとつ知らないような部署さ……」
「ウツリ義姉さん――姉弟子は特機歩兵をやってたと言ってました」
「学徒兵の弟か」
駅員はスキットルを下ろして、さらに酒臭くなった息を吐いた。
「ムラクモ学校は降りて南の大通りをまっすぐだ。道の南北は分かるな?」
「あ、はい。ありがとうございました」
「喉が渇いていたら、そこの自販機にな?」
駅員は何かを蹴るような仕草をすると、現れたときと同じように音もなく去っていった。
彼の姿が見えなくなったところで、少年はひとつ空咳を打った。
思ったより親切な人だった。都会もまだまだ捨てたもんじゃない。
横目で自販機を見る。まだ壊れていないふたつも、何度か蹴られた跡があった。見たところ、裏鉄《うらがね》を仕込んだブーツでやられている。軍用のものだ。
「……喉、か」
まだ無事なやつの取り出し口を開くと、中には炭酸飲料が一本入っていた。
まだ冷たいそれをカバンに入れて、少年は歩き出す。
さっきの駅員が用意してくれたのだろうか。上京の初日には悪くない出だしだ。
†
昔もトウキョウという名前の町があって、やはりニッポンという国の首都をやっていたらしい――本当かどうかは知らない。裏付けるための記録はとっくに失われた。
棄械のせいだと言う人もいるし、データの消失が原因で連中が現れたのだ、と分析する学者もいる。
人類史に二百年ばかりの空白期間があって、そのあいだに人類の文明が大きく停滞したのは確かだが、分かってるのはそれだけだ。今となっては飛び飛びの遺構を発見しては、わずかに読み取れる断片から推測をするばかり。
赤錆びた鉄のような朝焼けが空に広がり、今日も世界は回っていく。
予約していた宿の主人は親切なおやじだった。時間外に沸かしてもらった風呂は暖かく、寝具のせんべい布団も実家と同じくらいの熟れた固さで、ずいぶん疲れが取れた。
今は朝食を求めて街をほっつき歩いているところだ。
ちょっと繁華街の方に入ると、ぎゅうぎゅうと並ぶ直方体をした建物が出迎えた。こういう都会は看板や外壁の色でアレンジしていても、ひと皮むけばどいつもコンクリートの箱ばっかりで、正直のところ全部同じに見える。
「観光案内でも買ってりゃな……」
もう少し進むと知っている喫茶店を見つけたので、少年はドアノブを引いた。
モーニングには少し遅い時間ということもあり、店員は冴えない風体のアルバイトがレジ打ちをしているだけだった。
店主は午後の仕込みをやっている最中らしく、厨房からの煙に乗って、玉ねぎの甘い香りが漂ってきていた。以前、ここで姉弟子に絶品とかいうオニオンサンドを紹介されたのを思い出す。今日くらいは注文してもいいかもしれない。
カウンターは近くの大学の学生で満杯になっていた。
ボックス席も有閑マダムや商談中のサラリーマンで埋まっていたが、奥にぽつんと、女学生がひとりで座るテーブルがあった。
「すみません、今は満席でして」
バイトの男が頭を下げてきた。構わず少年は奥の席をさした。
「相席でもダメですか?」
「さあ……」
この男、あまり接客慣れしている人間じゃないらしい。
少年は女学生の席へと歩いていった。隣に立ち、声をかける前に荷物がどいた。
「ん。大丈夫」
女学生は顔も上げずに言った。
少年がオニオンサンドとコーヒーを頼むあいだ、女学生はずっとメモ帳と格闘していた。
トイメンで向き合うと彼女の長い脚がよく分かった。黒い髪にも艶があり、質素な恰好のわりにいい生活をしてるようだ。金がある身分で軍学校に通うくらいだから、士官か貴族の娘なのかもしれない。
テーブルには天板を半分ほど埋めるようにコピー用紙が広げてあった。紙には同心円状に広がる波線と、角ばった記号があっちこっちしている。地形図だ。それも軍事演習用。
「コーヒー、飲んでいいか?」
店員が持ってきたマグを片手に、少年は尋ねた。
女学生が顔を上げる。ぱっつりと切り揃えた前髪が揺れて、明るいオレンジの瞳がこちらを見る。さっきから動きがきびきびしてて、なんだかトンビみたいだ。
「なんで?」
「いや、運ばれてきたから……」
「じゃなくて、私に訊いた理由」
「勉強中だろ?オレ、不器用だからこぼすかもしれねえし」
女学生は面倒くさそうにコピー用紙をたぐり寄せた。
「そいつ、宿題か?」
「ん」
鼻を鳴らされた。たぶん、同意。
なるほど、とオニオンサンドにかぶりつく。なるほど、こちらも確かに美味い。
「オレも来週からムラクモに入るんだけど、それ、制服だよな?」
紺色のブレザーは丁寧にアイロンがけしてあった。プリーツスカートと合わせてあって、今の流行からすると少し古くさい。
女学生はスカートの生地をつまんで、少年の顔をちらりとうかがう。
「だったら、なに」
「初日から同じ学校の人に会えるって嬉しくね?べつに狙ってたとかじゃねえけど、ほら……あ、名前まだだった。チバから来たんだよ」
「『トツカ・レイギ』、でしょ」
女学生は息を吐いて、地形図とメモ帳をカバンにしまった。
「え……」
トツカはまばたきをした。女学生は立ち上がり、店員のところまで行くと、紙幣を置いて店を出た。
店員はレジを打つとき変な顔をしていた。
もういちど紙幣を数え直して、やはり首を傾げ、トツカのところに駆け寄ってくる。
「お客様、お勘定は先ほどの方とご一緒でよろしかったでしょうか」
「は?」
見せられた紙幣は、トツカが注文した分も含んでいた。
どうも奢られてしまったらしい。ここのところは復興税で物価も高いのに、気前が良いことだ。
「よく来んの、カノジョ?」
レシートとお釣りをポケットに突っ込みながら、トツカは窓の外を見た。
軍用のトラックが信号で止まっていた。隣の兵員輸送車からすると、運んでいるのはただの補給物資というわけじゃないようだ。
そのまま視線を巡らしていくと、向かいの通りにさっきの女学生を見つけた。相変わらず仏頂面で信号を待っている。
「いえ。しかし戦勝二周年ですから」
「ああ、パレードね……あのトラックも中身は『グラム』だったり?」
「それはどうでしょう。まあ、かもしれませんね」
店員は小さく答えると、カシャカシャと食器を集めだした。
今いる客からのオーダーはひと通り捌けて、新しい客が来る様子もない。店員としては、レジと食洗器を往復するだけの、いちばん暇な時間だ。
窓の外では、女学生が腕時計を見るところだった。
腕時計も彼女の格好に負けないくらい古ぼけた代物に見えた。バンドがすり切れて白くなっている。士官向けの官給品のようで、頑丈そうな分厚い本体だった。
ちょうど信号機が青になり、トラックが進み始めた。
女学生もさっさと歩きだした。その姿が路地裏に消える前に、トツカは喫茶店を出た。
「おい、さっきの人!」
『そいつ』が来たのは、その直後だった。