そう思ったが、しばらくすると、風も揺れも何事もなかったかのように収まった。
同時に、重だるさと吐き気もスゥッと消えていく。
だが今度は、頭に聞いたことのない機械的な音声が響いてきた。
『リースハルト様が、この山の所有者として登録されます。登録にあたって、山に名前をつけてください』
んんんんんんんんんん!?
な、なんだこの音声!? それに、山の所有者ってどういう……。
『この地に最初に足を踏み入れ、かつ山に認められた者が所有者となります』
「や、山に認められた者……?」
なるほど分からん。
けどこれは、一応助かった、のか……?
「リース様? どうされたんですか?」
「今、山に名前をつけろって声が聞こえて――」
「声、ですか? 私にはなにも……」
どうやらこの声は、僕にしか聞こえていないらしい。
というか山に名前って、突然そんなこと言われてもな……。
「スイ、この山につける名前、なにかいい案ないかな」
「恐れながら、お名前はリース様がつけられたほうがよいのではないでしょうか? その声を聞いているのはリース様だけですし……」
「うーん……」
恐らく当分は、この山が僕たちの拠点となる。
それなら安心できそうな、強さを感じる名前がいいよな。
「よし、決めた! じゃあ『シタデル山(さん)』で!」
『承知いたしました。この山を〈シタデル山〉として登録します。また、所有者登録によりリースハルト様の魔力量が引き上げられ、全属性使用可能となります。さらにスキル【神の祝福】により、山の力が底上げされました』
「リース様、シタデルとはどういう意味なのでしょうか?」
「城塞って意味の言葉だよ。この山が僕たちを守ってくれると信じて、この名前にしてみた」
「城塞……! なんだかかっこいいですね! 素敵です!」
どうやらスイも気に入ってくれたらしい。よかった。
「ところでその……声はいったいどなたのものなのでしょうか?」
「それは僕にも分からないんだ。でも、ええと……なにから話せばいいのかな……」
僕はスイに、僕しか見ることのできないステータス画面があること、スキルという魔法とは別の特殊能力を持っていること、たった今山の所有者として登録されたらしいことを伝えた。さすがに転生者であることは伏せたけど。
5歳だと思って接していた相手の中身が実は30歳の男だったなんて、気持ち悪いと嫌がられてしまうかもしれない。
これからこの状況を打開しないといけない中で、気まずい雰囲気になるのは避けたかった。
「……す、ステータス画面……特殊能力……山の所有者……」
「……こんなこと、急に言われても困るよね。ごめん。でも、信じてもらえなくてもスイには話しておきたかったんだ」
僕がそう言って謝ると、ハッとした様子でふるふると首を横に振り、まっすぐな眼(まな)差(ざ)しをこちらへ向けた。
「そんなことないです! すごすぎてびっくりしてしまいましたが、私は信じます。リース様がそんな嘘(うそ)をつくわけないですから!」
「……そっか、信じてくれて嬉しいよ。ありがとう」
「こちらこそ、そんな大事なことを話してくださってありがとうございます!」
スイは頭を下げ、それから僕を見て微(ほほ)笑(え)んだ。
ああ、本当に、こんなことを思っちゃいけないんだろうけど。
一緒に飛ばされたのがスイで本当によかった……。
この子だけは絶対に守らないといけないな。
「――そういえば、スイはスキルって聞いたことある?」
「いえ。すみません、聞いたことないです……」
やっぱりそうか。
父上や母上、兄上たちからも、スキルの話なんて聞いたことがなかった。
マウント大好きなブロンドール家のみんながスキルを所持していたとするなら、僕がそれを聞いていないのはおかしい。
つまりこの力はきっと、普通の人にはない特別なものなのだろう。
「スイ、今話したことは、僕たちだけの秘密にしてほしい」
「は、はい。分かりました。誰にも言いません」
「ありがとう、助かるよ」
僕の持つステータス画面やスキルが希少な力だと仮定すると、誰かに知られれば危険な目に遭(あ)う可能性が高い。特にスキルは、悪用を目論む人間も現れるだろう。
まあ、こんな場所に放り出されて人に出会えればの話だけど!!!
同時に、重だるさと吐き気もスゥッと消えていく。
だが今度は、頭に聞いたことのない機械的な音声が響いてきた。
『リースハルト様が、この山の所有者として登録されます。登録にあたって、山に名前をつけてください』
んんんんんんんんんん!?
な、なんだこの音声!? それに、山の所有者ってどういう……。
『この地に最初に足を踏み入れ、かつ山に認められた者が所有者となります』
「や、山に認められた者……?」
なるほど分からん。
けどこれは、一応助かった、のか……?
「リース様? どうされたんですか?」
「今、山に名前をつけろって声が聞こえて――」
「声、ですか? 私にはなにも……」
どうやらこの声は、僕にしか聞こえていないらしい。
というか山に名前って、突然そんなこと言われてもな……。
「スイ、この山につける名前、なにかいい案ないかな」
「恐れながら、お名前はリース様がつけられたほうがよいのではないでしょうか? その声を聞いているのはリース様だけですし……」
「うーん……」
恐らく当分は、この山が僕たちの拠点となる。
それなら安心できそうな、強さを感じる名前がいいよな。
「よし、決めた! じゃあ『シタデル山(さん)』で!」
『承知いたしました。この山を〈シタデル山〉として登録します。また、所有者登録によりリースハルト様の魔力量が引き上げられ、全属性使用可能となります。さらにスキル【神の祝福】により、山の力が底上げされました』
「リース様、シタデルとはどういう意味なのでしょうか?」
「城塞って意味の言葉だよ。この山が僕たちを守ってくれると信じて、この名前にしてみた」
「城塞……! なんだかかっこいいですね! 素敵です!」
どうやらスイも気に入ってくれたらしい。よかった。
「ところでその……声はいったいどなたのものなのでしょうか?」
「それは僕にも分からないんだ。でも、ええと……なにから話せばいいのかな……」
僕はスイに、僕しか見ることのできないステータス画面があること、スキルという魔法とは別の特殊能力を持っていること、たった今山の所有者として登録されたらしいことを伝えた。さすがに転生者であることは伏せたけど。
5歳だと思って接していた相手の中身が実は30歳の男だったなんて、気持ち悪いと嫌がられてしまうかもしれない。
これからこの状況を打開しないといけない中で、気まずい雰囲気になるのは避けたかった。
「……す、ステータス画面……特殊能力……山の所有者……」
「……こんなこと、急に言われても困るよね。ごめん。でも、信じてもらえなくてもスイには話しておきたかったんだ」
僕がそう言って謝ると、ハッとした様子でふるふると首を横に振り、まっすぐな眼(まな)差(ざ)しをこちらへ向けた。
「そんなことないです! すごすぎてびっくりしてしまいましたが、私は信じます。リース様がそんな嘘(うそ)をつくわけないですから!」
「……そっか、信じてくれて嬉しいよ。ありがとう」
「こちらこそ、そんな大事なことを話してくださってありがとうございます!」
スイは頭を下げ、それから僕を見て微(ほほ)笑(え)んだ。
ああ、本当に、こんなことを思っちゃいけないんだろうけど。
一緒に飛ばされたのがスイで本当によかった……。
この子だけは絶対に守らないといけないな。
「――そういえば、スイはスキルって聞いたことある?」
「いえ。すみません、聞いたことないです……」
やっぱりそうか。
父上や母上、兄上たちからも、スキルの話なんて聞いたことがなかった。
マウント大好きなブロンドール家のみんながスキルを所持していたとするなら、僕がそれを聞いていないのはおかしい。
つまりこの力はきっと、普通の人にはない特別なものなのだろう。
「スイ、今話したことは、僕たちだけの秘密にしてほしい」
「は、はい。分かりました。誰にも言いません」
「ありがとう、助かるよ」
僕の持つステータス画面やスキルが希少な力だと仮定すると、誰かに知られれば危険な目に遭(あ)う可能性が高い。特にスキルは、悪用を目論む人間も現れるだろう。
まあ、こんな場所に放り出されて人に出会えればの話だけど!!!

