「ん……んん……?」
意識が戻って目を開けると、風でざわめく生い茂った木々の葉、そしてその隙間からこぼれる陽の光が視界に入った。
――生い茂った木々と陽の光!?
たしか僕とスイは、さっきまで真っ暗な地下室に閉じ込められていたはずだよな?
「ん……」
「スイ! 大丈夫!?」
「り、リース様! 私は平気です。リース様は、お怪我(けが)などありませんか?」
「よかった。僕は大丈夫だよ」
僕とスイは立ち上がり、周囲を見回して、それから呆然(ぼうぜん)と言葉を失う。
「ここはいったい……?」
「分からない。でも恐らく、父上が部下になにか命じて僕たちを――」
父上は、僕をブロンドール家から勘当し、永久に追放すると言った。
それから「せいぜい仲良く野垂れ死ぬんだな」とかなんとか言ったあと、なんらかの詠唱が聞こえ始めて、部屋に仕掛けられていた魔法陣が光り始めた――までは覚えている。
「巻き込んでごめん。僕のせいでこんなことに……」
「そんな! リース様は悪くありません! でも私たち、このままでは……」
「あの状態から生きてるってことは、どこかへ強制転移させられたんじゃないかと思うんだ。多分だけど」
父上は外面がよく、貴族としての世間体や周囲からの評価を気にするタイプの人だ。
だからたとえ黒髪であっても妾の子であっても、僕が実の息子である以上、見捨てて追放したなんて家の者以外に知られたくないだろう。
きっと、事故か病気で死んだことにするはず。僕が生き残るような甘い策は講じない。
つまり、ここはブロンドール領から遠く離れた辺境の地で、しかも魔獣が跋(ばっ)扈(こ)しているような相当危険な場所である可能性が高い。
――と考えると、シルティア辺境伯領の近くにある、あの前人未到と言われている山か?
シルティア辺境伯領は、ブロンドール領よりも王都から離れた場所にある。
その北方には危険な魔物が生息している前人未到の山がそびえていて、シルティア辺境伯領はその魔物から国を守る重要な防衛線となっている――と学んだ記憶があった。
シルティア卿――一度しかお会いしたことないけど、高貴な身分でありながら、僕みたいな黒髪の異端児にも優しい目を向けてくださるいい人だったな。
――って、今はそんなことを考えてる場合じゃない!
「人里離れた山奥みたいだし、僕の勘が正しければ、危険な魔物がいるかも」
まったく本当に、どこまでも悪趣味な一族だよな。
今ごろ、僕とスイが恐怖に怯えているのを想像して笑っているのだろう。
「ま、魔物!? そんな……」
生まれが平民で魔力を持たないスイは、ガクガクと震え、怯えながら周囲を警戒している。
このアトラティア王国では、美しい金髪と高い魔力を有していることが「神に選ばれし存在」――つまり貴族である証とされているらしい。
ブロンドール一族も例外ではなく、平民との間に生まれた妾の子である僕以外は皆、美しい金髪と高い魔力を持っている。
ちなみに平民は、茶色い髪と茶色い瞳であることが一般的で、魔力適性自体ない場合がほとんどだ。スイも例外ではない。
――でも僕は、ブロンドール家から追放されたことを悲観などしていない。
むしろ、あの居心地の悪い家から解放されてラッキーだとさえ思っている。
思ったより時期が早かったことと、スイが巻き込まれてしまったことは想定外だったけど。
というのも、実は僕には奥山(おくやま)陽(はる)翔(と)という、30歳日本人としての記憶がある。
いわゆる「異世界転生者」というやつだ。
そしてさらに、リースハルトとしての実の母であるリィアが毒殺された日――僕が3歳のときに、僕だけにしか見えないステータス画面と2つのスキルを授かっている。
この力のことは一度も誰にも話していないし、万が一にも家族にバレないよう、スキルにいたっては使ったことすらないけど。
でも多分、きっと僕の助けになってくれるはず!
「スイ、スイのことは必ず僕が守る。そしていつか、安心して暮らせる場所を見つけるって約束する。だから今は、僕を信じてついてきてくれる?」
「そ、それはもちろんです。私は生涯をリース様に捧げると誓っております。ですが恐れながら、リース様はまだ5歳です。お屋敷からも出たことがありません。お気持ちは大変嬉しいのですが、今は――」
スイがそこまで話したところで、突然強い風が吹き、木々が激しくざわめいて、山がグラグラと大きく揺れ始めた。
「なっ――地震!?」
「きゃあっ!?」
僕は片膝をつき、倒れないようバランスを取る。
ただ揺れているというより、山が僕に反応しているような奇妙な感覚だ。
自分と山が一体化しているような、そんな重だるさも感じる。
な、なんだ……? 身体が重いし気持ち悪い……。
「り、リース様、わ、私がお守りいたしますので――!」
スイはそう言って、震えながら僕に抱きついてくる。
スイ自身も13歳の幼い女の子だし、怖いに決まっているのに。
でも本当に、ただの地震じゃないよな。
身体の中をなにかが這(は)い回る感覚とめまいで、意識が持っていかれそうになる。
もしかして、父上の企みはまだ続いているのか?
逃れられたと思ったけど、僕たちここで殺されるのかな……。
意識が戻って目を開けると、風でざわめく生い茂った木々の葉、そしてその隙間からこぼれる陽の光が視界に入った。
――生い茂った木々と陽の光!?
たしか僕とスイは、さっきまで真っ暗な地下室に閉じ込められていたはずだよな?
「ん……」
「スイ! 大丈夫!?」
「り、リース様! 私は平気です。リース様は、お怪我(けが)などありませんか?」
「よかった。僕は大丈夫だよ」
僕とスイは立ち上がり、周囲を見回して、それから呆然(ぼうぜん)と言葉を失う。
「ここはいったい……?」
「分からない。でも恐らく、父上が部下になにか命じて僕たちを――」
父上は、僕をブロンドール家から勘当し、永久に追放すると言った。
それから「せいぜい仲良く野垂れ死ぬんだな」とかなんとか言ったあと、なんらかの詠唱が聞こえ始めて、部屋に仕掛けられていた魔法陣が光り始めた――までは覚えている。
「巻き込んでごめん。僕のせいでこんなことに……」
「そんな! リース様は悪くありません! でも私たち、このままでは……」
「あの状態から生きてるってことは、どこかへ強制転移させられたんじゃないかと思うんだ。多分だけど」
父上は外面がよく、貴族としての世間体や周囲からの評価を気にするタイプの人だ。
だからたとえ黒髪であっても妾の子であっても、僕が実の息子である以上、見捨てて追放したなんて家の者以外に知られたくないだろう。
きっと、事故か病気で死んだことにするはず。僕が生き残るような甘い策は講じない。
つまり、ここはブロンドール領から遠く離れた辺境の地で、しかも魔獣が跋(ばっ)扈(こ)しているような相当危険な場所である可能性が高い。
――と考えると、シルティア辺境伯領の近くにある、あの前人未到と言われている山か?
シルティア辺境伯領は、ブロンドール領よりも王都から離れた場所にある。
その北方には危険な魔物が生息している前人未到の山がそびえていて、シルティア辺境伯領はその魔物から国を守る重要な防衛線となっている――と学んだ記憶があった。
シルティア卿――一度しかお会いしたことないけど、高貴な身分でありながら、僕みたいな黒髪の異端児にも優しい目を向けてくださるいい人だったな。
――って、今はそんなことを考えてる場合じゃない!
「人里離れた山奥みたいだし、僕の勘が正しければ、危険な魔物がいるかも」
まったく本当に、どこまでも悪趣味な一族だよな。
今ごろ、僕とスイが恐怖に怯えているのを想像して笑っているのだろう。
「ま、魔物!? そんな……」
生まれが平民で魔力を持たないスイは、ガクガクと震え、怯えながら周囲を警戒している。
このアトラティア王国では、美しい金髪と高い魔力を有していることが「神に選ばれし存在」――つまり貴族である証とされているらしい。
ブロンドール一族も例外ではなく、平民との間に生まれた妾の子である僕以外は皆、美しい金髪と高い魔力を持っている。
ちなみに平民は、茶色い髪と茶色い瞳であることが一般的で、魔力適性自体ない場合がほとんどだ。スイも例外ではない。
――でも僕は、ブロンドール家から追放されたことを悲観などしていない。
むしろ、あの居心地の悪い家から解放されてラッキーだとさえ思っている。
思ったより時期が早かったことと、スイが巻き込まれてしまったことは想定外だったけど。
というのも、実は僕には奥山(おくやま)陽(はる)翔(と)という、30歳日本人としての記憶がある。
いわゆる「異世界転生者」というやつだ。
そしてさらに、リースハルトとしての実の母であるリィアが毒殺された日――僕が3歳のときに、僕だけにしか見えないステータス画面と2つのスキルを授かっている。
この力のことは一度も誰にも話していないし、万が一にも家族にバレないよう、スキルにいたっては使ったことすらないけど。
でも多分、きっと僕の助けになってくれるはず!
「スイ、スイのことは必ず僕が守る。そしていつか、安心して暮らせる場所を見つけるって約束する。だから今は、僕を信じてついてきてくれる?」
「そ、それはもちろんです。私は生涯をリース様に捧げると誓っております。ですが恐れながら、リース様はまだ5歳です。お屋敷からも出たことがありません。お気持ちは大変嬉しいのですが、今は――」
スイがそこまで話したところで、突然強い風が吹き、木々が激しくざわめいて、山がグラグラと大きく揺れ始めた。
「なっ――地震!?」
「きゃあっ!?」
僕は片膝をつき、倒れないようバランスを取る。
ただ揺れているというより、山が僕に反応しているような奇妙な感覚だ。
自分と山が一体化しているような、そんな重だるさも感じる。
な、なんだ……? 身体が重いし気持ち悪い……。
「り、リース様、わ、私がお守りいたしますので――!」
スイはそう言って、震えながら僕に抱きついてくる。
スイ自身も13歳の幼い女の子だし、怖いに決まっているのに。
でも本当に、ただの地震じゃないよな。
身体の中をなにかが這(は)い回る感覚とめまいで、意識が持っていかれそうになる。
もしかして、父上の企みはまだ続いているのか?
逃れられたと思ったけど、僕たちここで殺されるのかな……。