ニィナは扉をひしゃげながら、無理矢理電車から降りる。彼女の行動に、覚悟を決めたケンスケの顔もついでにひしゃげた。
「えぇぇぇぇ!?」
「ふぅ……存外硬いんだな。電車のドアって」
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ!?何降りてきちゃってんの!?僕が決死の覚悟で乗せたのに何降りてきちゃってんの!?」
ケンスケは対峙する緊張感など忘れ、熱烈な講義をした。それもそのはず、彼からすれば一世一代の格好をつけるチャンスだったのだ。
男なら誰でも憧れるシチュエーション。それは女の子の為にその身を犠牲にしてでも守り抜くこと。
「勢い任せの無謀」とも言えるその行為はロマンティックの塊だ。
けれどいつの時代もリアリストに邪魔をされてしまう。今回に限っては、現実を超越した筋肉少女が、文字通りの力任せでロマンに割り込んんできたという稀有なケースなのだが。
だとしても格好をつけた側はたまったもんじゃない。全身の体毛の片側だけ剃り落とし、俗世を捨て山に籠らねば生きていけぬほど、恥ずかしいのだ。
「ケンスケ格好つけすぎ。私が戻らなきゃ殺されてるから」
あろう事かこの女は、1番触れては行けない場所をノータイムで逆撫でする。ケンスケは身の毛がよだつ気恥しさに、全身を掻き毟りたい衝動に駆られた。事実、現在進行形で発狂しながら身体を悶えさせ、掻き毟っている。
「ち、ちげーし!そんな格好つけたいとかじゃねーし!たまたま電車が来て、たまたま押したら、たまたま助けた形になっただけだしぃ?」
「あんな必死な顔して?」
「やめてぇぇぇ!?これ以上、僕の繊細な心を踏みにじらないでぇぇ!?」
「その気持ちは嬉しかった。ありがとう」
ニィナは悶えるケンスケに感謝を述べ、オコイエに向き直った。
「短い別れだったようだね。だが、悲しいかな。感動の再開も短いようだ。私が君をこの手に収めるのだから」
「私は物じゃない。お前の策略のこともどうでもいい。私も戦う決心がついた。逃げることにも飽きたんだ」
「ロック族最強の私に歯向かうと?」
「同族同士が争うなら国際問題にもならない。ただの内輪もめだ」
「私としても有難い。追求される様な泥は今のうちに跳ね除けたいですから」
オコイエが身構えた途端、空気が変わる。その場に居るだけで、彼の目の前から逃げ出したくなる様な威圧感が肌で分かった。
身体が芯から凍りつくことがケンスケには分かった。
「僕……あんなのと戦おうとしてたの?」
「ようやく気付いたか鈍感ケンスケ。少し離れてろ。私が相手をする」
ニィナも身構える。すると彼女からも威圧感が放たれた。
目には見えないはずの互いの威圧感がぶつかり合い、まるで結界の様に2人を囲った。
まるでその空間は格闘家が戦う神聖なリングだった。
「なんだこれ、近づけない……」
「前言撤回。ケンスケは感度がいい。これはロック族同士が互いの優劣を付ける時に行う儀式。1対1で己の肉体をぶつけ合う、所謂『タイマン』だ」
オコイエは大きく拍手をし、高笑いをした。
「素晴らしい!!私と張り合える程の気を放つとは。そこのボンクラボーイに教えてあげよう。ロック族は互いが放つ気をぶつけ合い、他の者に干渉を禁ずる絶対領域を作り出す。そこで行われる行為にジャッジは不要。どちらかが負けを認めるか、死ぬか。シンプルかつ最も分かりやすい私好みの儀式だよ」
「そんな!?」
「ボンクラボーイ、君はニィナを守るんじゃない。ニィナに守られているんだ」
始めに仕掛けたのはニィナだった。ケンスケとの会話に意識を割いたオコイエに強烈な前蹴りを放つ。
彼は両腕で攻撃をガードする。しかし、 衝撃までは抑え切れず、その巨体は少しばかり後方に押し込まれた。
「おや?その技はルアでは無さそうですね」
「技術だけが戦いじゃない」
ニィナは間髪入れずに距離を詰め、密着状況を作り出す。右腕による肘打ちをかますが、オコイエは左腕を使い綺麗に防ぐ。
ニィナは肘打ちをガードされたことを気にせず、オコイエに瞬時に左フックを叩き込んだ。ルア特有の二度打ちである。
オコイエも彼女の攻撃パターンを理解し、カウンターを狙う。その為の左片腕だけでの防御だったのだ。両腕を使い隙が生じた脇腹目掛け、右腕で強烈な一撃を与えようとする。
だが不思議なことが起こった。
ニィナの身体は目にも止まらぬスピードでオコイエの顎を蹴りあげた。それは予備動作など全く無く、コンピューターの様に一連の流れが組み込まれていたのでは無いかと思うほどに瞬間的に起こっていた。
「がぁっ!?」
掟破りの3発目をモロに食らったオコイエは思わず顔が歪む。ニィナがそれを見逃すわけでもなく、すぐさま宙に飛び上がり、体重と落下速度を乗せたかかと落としをくらわした。
「ま、まるで格闘ゲームのコンボだ……!!」
ケンスケは思わず拳を握る。彼の言う通り、ニィナの攻撃は、後に生じる隙を無視し、更なる攻撃へと転換するものだった。
その不可解かつ不可能な行動を可能にしているのは、ロック族の超人的な肉体だからこそだ。常人倍の筋肉密度を持つロック族はそのバネを使い、行動の隙を無視し、連撃《コンボ》を生み出す。
つまり連撃に割り込もうとしたオコイエが、ニィナの攻撃に当たってしまうのは必然だったのだ。
「ロック族秘伝の荒業『動作解除』。入れ込み安定の技の出し切り。|私対策出来てないんじゃない?」
倒れ込むオコイエに、ニィナは無表情ながら得意気に言い放った。
煽る為なら、起き攻めなど捨て置いて構わない。傲慢ささえ滲み出るその行為は、的確にオコイエの心理に怒りの種を撒き散らした。
「えぇぇぇぇ!?」
「ふぅ……存外硬いんだな。電車のドアって」
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ!?何降りてきちゃってんの!?僕が決死の覚悟で乗せたのに何降りてきちゃってんの!?」
ケンスケは対峙する緊張感など忘れ、熱烈な講義をした。それもそのはず、彼からすれば一世一代の格好をつけるチャンスだったのだ。
男なら誰でも憧れるシチュエーション。それは女の子の為にその身を犠牲にしてでも守り抜くこと。
「勢い任せの無謀」とも言えるその行為はロマンティックの塊だ。
けれどいつの時代もリアリストに邪魔をされてしまう。今回に限っては、現実を超越した筋肉少女が、文字通りの力任せでロマンに割り込んんできたという稀有なケースなのだが。
だとしても格好をつけた側はたまったもんじゃない。全身の体毛の片側だけ剃り落とし、俗世を捨て山に籠らねば生きていけぬほど、恥ずかしいのだ。
「ケンスケ格好つけすぎ。私が戻らなきゃ殺されてるから」
あろう事かこの女は、1番触れては行けない場所をノータイムで逆撫でする。ケンスケは身の毛がよだつ気恥しさに、全身を掻き毟りたい衝動に駆られた。事実、現在進行形で発狂しながら身体を悶えさせ、掻き毟っている。
「ち、ちげーし!そんな格好つけたいとかじゃねーし!たまたま電車が来て、たまたま押したら、たまたま助けた形になっただけだしぃ?」
「あんな必死な顔して?」
「やめてぇぇぇ!?これ以上、僕の繊細な心を踏みにじらないでぇぇ!?」
「その気持ちは嬉しかった。ありがとう」
ニィナは悶えるケンスケに感謝を述べ、オコイエに向き直った。
「短い別れだったようだね。だが、悲しいかな。感動の再開も短いようだ。私が君をこの手に収めるのだから」
「私は物じゃない。お前の策略のこともどうでもいい。私も戦う決心がついた。逃げることにも飽きたんだ」
「ロック族最強の私に歯向かうと?」
「同族同士が争うなら国際問題にもならない。ただの内輪もめだ」
「私としても有難い。追求される様な泥は今のうちに跳ね除けたいですから」
オコイエが身構えた途端、空気が変わる。その場に居るだけで、彼の目の前から逃げ出したくなる様な威圧感が肌で分かった。
身体が芯から凍りつくことがケンスケには分かった。
「僕……あんなのと戦おうとしてたの?」
「ようやく気付いたか鈍感ケンスケ。少し離れてろ。私が相手をする」
ニィナも身構える。すると彼女からも威圧感が放たれた。
目には見えないはずの互いの威圧感がぶつかり合い、まるで結界の様に2人を囲った。
まるでその空間は格闘家が戦う神聖なリングだった。
「なんだこれ、近づけない……」
「前言撤回。ケンスケは感度がいい。これはロック族同士が互いの優劣を付ける時に行う儀式。1対1で己の肉体をぶつけ合う、所謂『タイマン』だ」
オコイエは大きく拍手をし、高笑いをした。
「素晴らしい!!私と張り合える程の気を放つとは。そこのボンクラボーイに教えてあげよう。ロック族は互いが放つ気をぶつけ合い、他の者に干渉を禁ずる絶対領域を作り出す。そこで行われる行為にジャッジは不要。どちらかが負けを認めるか、死ぬか。シンプルかつ最も分かりやすい私好みの儀式だよ」
「そんな!?」
「ボンクラボーイ、君はニィナを守るんじゃない。ニィナに守られているんだ」
始めに仕掛けたのはニィナだった。ケンスケとの会話に意識を割いたオコイエに強烈な前蹴りを放つ。
彼は両腕で攻撃をガードする。しかし、 衝撃までは抑え切れず、その巨体は少しばかり後方に押し込まれた。
「おや?その技はルアでは無さそうですね」
「技術だけが戦いじゃない」
ニィナは間髪入れずに距離を詰め、密着状況を作り出す。右腕による肘打ちをかますが、オコイエは左腕を使い綺麗に防ぐ。
ニィナは肘打ちをガードされたことを気にせず、オコイエに瞬時に左フックを叩き込んだ。ルア特有の二度打ちである。
オコイエも彼女の攻撃パターンを理解し、カウンターを狙う。その為の左片腕だけでの防御だったのだ。両腕を使い隙が生じた脇腹目掛け、右腕で強烈な一撃を与えようとする。
だが不思議なことが起こった。
ニィナの身体は目にも止まらぬスピードでオコイエの顎を蹴りあげた。それは予備動作など全く無く、コンピューターの様に一連の流れが組み込まれていたのでは無いかと思うほどに瞬間的に起こっていた。
「がぁっ!?」
掟破りの3発目をモロに食らったオコイエは思わず顔が歪む。ニィナがそれを見逃すわけでもなく、すぐさま宙に飛び上がり、体重と落下速度を乗せたかかと落としをくらわした。
「ま、まるで格闘ゲームのコンボだ……!!」
ケンスケは思わず拳を握る。彼の言う通り、ニィナの攻撃は、後に生じる隙を無視し、更なる攻撃へと転換するものだった。
その不可解かつ不可能な行動を可能にしているのは、ロック族の超人的な肉体だからこそだ。常人倍の筋肉密度を持つロック族はそのバネを使い、行動の隙を無視し、連撃《コンボ》を生み出す。
つまり連撃に割り込もうとしたオコイエが、ニィナの攻撃に当たってしまうのは必然だったのだ。
「ロック族秘伝の荒業『動作解除』。入れ込み安定の技の出し切り。|私対策出来てないんじゃない?」
倒れ込むオコイエに、ニィナは無表情ながら得意気に言い放った。
煽る為なら、起き攻めなど捨て置いて構わない。傲慢ささえ滲み出るその行為は、的確にオコイエの心理に怒りの種を撒き散らした。