田沼崇さんが山へ入った理由は、橘さんのいう通りだろうと警察も見ている。
この島の北にある山は、私の前任の医師であった平先生がお祖母様から受け継いだ土地だそうだ。
本人は今、海外で悠々自適に暮らしているらしいので医院長に連絡先を聞き、電話で捜索の許可をもらったと、刑事さんは言っていた。
「でも、先生、それじゃぁ山に行って毒キノコを採ってきたのは田沼崇さんご本人だったとして、幸子さんはどこへ行ったんです?」
「そうですよ、それにあの女性も……一体誰なんですか?」
「いやいや、私に聞かれても……」
滝沢さんと多田さんは、刑事さんが帰った後に私にそう聞いてきた。
「私はただの医者です。刑事でも探偵でもないですから……」
それより、この一件のおかげで昼休みが潰れてしまった。
昨日の騒動で、診察も取りやめになったせいで今日はいつもより患者さんが多いというのに……
「とにかく、事件のことは警察に任せて、私たちは私たちの仕事をしましょう。ここは診療所です」
派遣とはいえ、私は医師だ。
殺人か自殺か事故か……まだはっきりしていないが、事件の捜査は警察の仕事。
腹の虫が鳴っているのをなんとかごまかしながら、午後からの診療を再開した。
そうして、受付時間終了間際————
「先生! 助けてください!!」
パトカーに乗って運ばれてきたのは、一人の若い警官だった。
「一体どうしたんですか?」
「……た」
「た……?」
若い警官は、刑事さんの肩にもたれ掛かりながら、なんとか地面に両足をつけている。
顔は真っ青。
目は大きく見開き……
「たたた……たた……た」
何を聞いても、たしか言わない。
「金色の植物に触るなって言ったのに、木の実に触ってしまったみたいで……先生、どうしたらいいんですか!?」
運んできた刑事さんが焦りながら状況を説明した。
これはどう考えても、あの謎の女性や平先生がおばあさんから聞いた話と、全く同じ……
「たたた……」
「た、祟り!?」
ストレッチャーを運んできた多田さんが、そう叫んだ。
*
平先生から許可をいただいてね、捜査員十名ほどで山の中を捜査したんですよ。
そしたら、鳥居の近くに足跡があって……それが田沼崇さんの玄関にあった靴と似てるなって……
その足跡を辿ってみたんです。
そしたら、あの金色の毒キノコが生えている場所があって……
それはもう、なんというかそこだけ別世界とでもいいましょうか、とても綺麗だったんです。
キラキラと光を放っている————なんというか、御光のような……なんともいえない不思議な魅力がありましてね。
触るなって話は、捜査員全員にしていたんですが、あまりに美しくて、ついつい気づいたら手が伸びてしまう。
魅力というか、魔力というか……まぁ……不思議なもので……
キノコの他にもね、金色の木の実が生えた木があって……あと、金色の小さな花がバーっと咲いているのもありました。
どれもこれも綺麗だったんですよ。
緑の草木の中に、ピカーっと光るもんがこう……いたるところにね。
それであいつ————キノコじゃなくて、木の実なら大丈夫だと思ったんでしょう。
急に目をガッと開いて、さっきみたいに顔を真っ青にして……地面に倒れまして————
噂通りたしか言わないもんだから、焦りましたよ。
それで、すぐにここへ運んだんです。
陽も沈みかけてましたし、急いでね。
このままうちの若いもんに死なれちゃ困りますからね。
なんとか助かって良かったですよ。
ありがとうございます、先生。
でも、本当に一体なんなんですかね?
あの謎の植物は……————本当に、神様のものってことなんですかね?
そんな非現実的なことが、あるんですかね?
先生、どう思います?
祟りなんて、本当にあるんでしょうか?