『女の過去は買うものを見れば分かる。男の過去だったら残したものを見れば分かる。』

 レイモンド・チャンドラーあたりが書きそうな一文だが、私の大学時代の先輩の口癖だ。
 取材の方針としては、今でもまあまあ役に立っている。
 今回、Meris1254のアカウントから出てきた出品リストは、彼あるいは彼女の過去を雄弁に語っていた。

 まず残したもの。開封・検品済みのトレーディングカード、型落ちのゲームパッド、パッケージの擦れたレトロゲーム、流行りものの漫画の全巻セット――なかなか若々しい趣味をしていたらしい。
 そして買ったもの。人形の服は通販サイトで買ったものらしく、こちらを調べると2020年に発売されたものだった。当時はセール中で、安かったから買いました、という具合だった。

 ……以上。
 この人形は、持ち主が男子高校生みたいな趣味をしていて、4年前まで可愛がられていました。そんな情報が何だというのだろう。

 メーラを開くと、江川からこのあいだのラテの礼が来ていた。
 堅苦しい物言いが、相変わらず彼女らしくて苦笑してしまう。聞いたところによると、私が誕生日に贈ったグランセを今でも職場で使っているらしい。江川のこういうクラシカルな礼節は、離れた今でもずっと好ましく思っている。
 彼女も趣味の部分で妙に若いところがあり、文房具にいちいち名前を付けていた。グランセには「パオロ」だったか。彼女の本棚には新品のSF小説があり、作者の名前がパオロだった。分かりやすいなお前、と言うとぽかぽか叩かれたものだ。

 名前か。

 ふと思いついて、検索エンジンのボックスに『Meris1254』と入れた。
 トップにはゲームの公式サイトらしきものが出てきた。
 他人数参加型のRPGだろうか。クリックすると、プレイヤーの個人ページに飛ばされた。ヘッダーには銀髪の少女のイラストが載っており、下にキャラクタの設定が書き連ねてあった。