「レオンの旦那! それじゃあ!!」
トレンドマークの赤い服を着たサンタクロースが白い布袋に手紙を入れると、ぎゅっと紐で封をして、荷物で埋まった大きなそりに入れた。それから二頭のトナカイの手綱を引いて「メリークリスマース!」と夏だが毎度お馴染みの営業トークを吐いて青い大空へと飛んでいく。サンタクロースは冬のクリスマスシーズンにしか配達業務を請け負っていなかったが、昨今の競争化時代でライバル会社が参入し、負けじと世界中の郵便配達をも請け負うようになった。
「頼んだぜ!!」
レオンは両手を振りながら見送ると、そばにいたマルコへ元気いっぱいに振り返る。
「さあ、これから俺の青春の始まりだ! 胸がときめいて困ったぞ!」
副船長もまた、船長とは違う意味で困っていた。
「なあ、レオン。何も居場所を教えなくても良かったんじゃないのか?」
サンタクロースに出した手紙には、自分たちが今現在逗留している島の住所が書かれていた。オリュンポスの神々の島である。宛て先は、勿論先刻戦ったバデーリ海軍提督である。
「何言ってんだ、マルコ」
レオンは両腕を組み、本気で叱る。
「俺の居場所を知らなきゃ、バスターが追って来られないだろうが。ちゃんと追いかけて来て欲しかったら、相手に教えてやるのが親切ってもんだ。そうだろう?」
「イエーイ!!!」
暢気な海賊たちが暢気に賛成する。
「だからパパラッチーズの連中にも伝えたんだ。今頃、バスターは俺のことで頭がいっぱいだろう」
レオンは愉快そうに空を見上げる。
しかし、常識的な副船長は頭をかかえた。
「イングレス女王国の海軍は優秀なんだぞ。大昔は、太陽国の無敵艦隊が凄かったが、今や七つの海を制するのは女王国だ。その国の宝を二つも盗んだんだぞ。どうするんだ」
「安心しろ、マルコ。ちゃんと俺を追って来たら返すさ。俺が欲しいのはバスターだ」
あけっぴろげに言い切ると、親指を立ててウィンクをする。
苦労性のマルコは、もう駄目だというように天を仰いだ。
「心配するな、明日は必ず来るんだ」
はあと、副船長は肩を落とした。その後ろでは、海賊たちが荷物を抱えながら、続々と島へ上陸していた。
「かしらー、しばらくここにいるんスよねー」
テッドが酒樽を転がしながら訊いてくる。
「おう! 海軍が来るまで、酔っ払っていろ!」
やったー と海賊たちが嬉しそうに返事をするなかで、副船長だけがズキズキと痛む頭を押さえながら、船蔵へと歩いてゆく。
「心配するな! 俺と明日を信じろ!」
レオンはその疲労感漂う背中を励ました。
そこへヴァイオが現れて、「出かけてきまーす」と魔術『立体三次元』を使い、小さな鳥に変身した。するとルースとジャスレーが慌てて走って来て、エーゲ海まで乗せてってと拝み倒す。小さな鳥は「一回十ユーロ」と運賃代を請求した。チビ軍団は懐から出したお財布の中身を確認して、頷く。小さな鳥から、大きなハヤブサに変身した。
「かしらー! 行ってきまーす!!」
チビ二人を乗せたハヤブサは翼を高く掲げて、風にのるように飛んでゆく。レオンも笑顔で手を振った。
「楽しんでこい!」
島に上陸した他の海賊たちは、もう酒を飲み、どんちゃん騒ぎをしている。みんな楽しそうだ。
レオンは甲板の船縁に寄りかかりながら、その光景を眺めた。潰れていない右目が、嬉しそうに笑む。
「人生は楽しまないとな」
まるで誰かへ囁くかのように言うと、船縁から離れた。目の前のマストの下には、剥き出しの剣が無造作に置かれている。
ランスロットだ。
レオンはその剣を手に取ると、じっと見つめた。まるで以前にもその剣を見たことがあるかのように、目を離さないまま握りしめる。
「俺も大いに人生を楽しむさ」
呟いた唇が、ふっと懐かしんだ。
「また逢えたな……アーサー」
レオンは瞼を閉じると、先程の提督に重なるように一人の男の姿が甦った。
「お前は変わっていない。頑固で、真面目で、融通が利かなくて。俺が口説く時にも、血管がぷちんと切れて」
くっくっくと、可笑しそうに肩が震える。
「安心した。世界がどれだけ変わろうとも、石頭のお前は同じだった。生まれ変わってもな!」
ガッと両目を見開くと、自分の目には薔薇色となった世界の中心で叫ぶ。
「もう一度! 俺とお前は恋をする! お前は俺に抱きついて! 俺はお前を離さない! ニ度とな!」
ひゃっほうっと、勢いよく剣を天へと掲げる。
「アーサー・エジンバラ! 俺が最強に愛した男!!!」
レオンはそこでピタリと口を閉じると、頬にもう片方の手をやって、ふーむと思い出した。
「今の名前はバスターだったな。バデーリといえば、アーサーの辛気臭い弟が養子に入った家だ。足で蹴っ飛ばしたい男だったが血を残してくれて助かった。グラシア―――ス!!!」
心からの喜びを大声で表現したため、近くの木の枝にとまっていた鳥が、ぴえーとひっくり返りそうになった。
「バスター、よしバスターだな! バスター! バスター! バースター!!」
大盛り上がりで踊りながらランスロットに口づけをし、またマストの下に置くと、やる気満々というように腕を振り回す。
「よーし! 最高の気分だ! 人柱なんかになったが、逢えたのは不老不死のおかげだ! あの男に初めて感謝する!! ハリー・J・グラッドストン! お前とあの愉快な将軍もどこかで生きているんだろうな!!」
まるで昨日のことのように、レオンの記憶はフルカラーで鮮明だ。新大陸と旧大陸の闘い。その戦争を終わらせたのは新大陸の初代大統領。大いなる力をもって、平和を持続させるための代償として四人の人柱を世界の秩序へ打ち込んだ。ハリー、ジューダス、ジークフリード、そしてレオン――昔はエスパニョールの若き太陽王だった男。今現在は世界の平和を支える人柱で、海賊業をエンジョイしている不老不死者である。
「死ねないというのも悪くない! あの根暗な男もぶつぶつ言いながら生きているしな!」
共に戦った鉄の皇帝を思い浮かべて、あっはっはと豪快に笑う。この世の全ての喜びが自分を祝福している。そう信じて疑わない陽気な元太陽王は、両手を目一杯広げると、真っ青に空へ向かってエーゲ海のあたたかい風を浴びながら、明るく高らかに宣言した。
「人生はバカンスだ! バスター! お前と一緒に楽しむぞ!!」
ワクワク、ドキドキがとまらなかった。
【出会い編 終わり】
トレンドマークの赤い服を着たサンタクロースが白い布袋に手紙を入れると、ぎゅっと紐で封をして、荷物で埋まった大きなそりに入れた。それから二頭のトナカイの手綱を引いて「メリークリスマース!」と夏だが毎度お馴染みの営業トークを吐いて青い大空へと飛んでいく。サンタクロースは冬のクリスマスシーズンにしか配達業務を請け負っていなかったが、昨今の競争化時代でライバル会社が参入し、負けじと世界中の郵便配達をも請け負うようになった。
「頼んだぜ!!」
レオンは両手を振りながら見送ると、そばにいたマルコへ元気いっぱいに振り返る。
「さあ、これから俺の青春の始まりだ! 胸がときめいて困ったぞ!」
副船長もまた、船長とは違う意味で困っていた。
「なあ、レオン。何も居場所を教えなくても良かったんじゃないのか?」
サンタクロースに出した手紙には、自分たちが今現在逗留している島の住所が書かれていた。オリュンポスの神々の島である。宛て先は、勿論先刻戦ったバデーリ海軍提督である。
「何言ってんだ、マルコ」
レオンは両腕を組み、本気で叱る。
「俺の居場所を知らなきゃ、バスターが追って来られないだろうが。ちゃんと追いかけて来て欲しかったら、相手に教えてやるのが親切ってもんだ。そうだろう?」
「イエーイ!!!」
暢気な海賊たちが暢気に賛成する。
「だからパパラッチーズの連中にも伝えたんだ。今頃、バスターは俺のことで頭がいっぱいだろう」
レオンは愉快そうに空を見上げる。
しかし、常識的な副船長は頭をかかえた。
「イングレス女王国の海軍は優秀なんだぞ。大昔は、太陽国の無敵艦隊が凄かったが、今や七つの海を制するのは女王国だ。その国の宝を二つも盗んだんだぞ。どうするんだ」
「安心しろ、マルコ。ちゃんと俺を追って来たら返すさ。俺が欲しいのはバスターだ」
あけっぴろげに言い切ると、親指を立ててウィンクをする。
苦労性のマルコは、もう駄目だというように天を仰いだ。
「心配するな、明日は必ず来るんだ」
はあと、副船長は肩を落とした。その後ろでは、海賊たちが荷物を抱えながら、続々と島へ上陸していた。
「かしらー、しばらくここにいるんスよねー」
テッドが酒樽を転がしながら訊いてくる。
「おう! 海軍が来るまで、酔っ払っていろ!」
やったー と海賊たちが嬉しそうに返事をするなかで、副船長だけがズキズキと痛む頭を押さえながら、船蔵へと歩いてゆく。
「心配するな! 俺と明日を信じろ!」
レオンはその疲労感漂う背中を励ました。
そこへヴァイオが現れて、「出かけてきまーす」と魔術『立体三次元』を使い、小さな鳥に変身した。するとルースとジャスレーが慌てて走って来て、エーゲ海まで乗せてってと拝み倒す。小さな鳥は「一回十ユーロ」と運賃代を請求した。チビ軍団は懐から出したお財布の中身を確認して、頷く。小さな鳥から、大きなハヤブサに変身した。
「かしらー! 行ってきまーす!!」
チビ二人を乗せたハヤブサは翼を高く掲げて、風にのるように飛んでゆく。レオンも笑顔で手を振った。
「楽しんでこい!」
島に上陸した他の海賊たちは、もう酒を飲み、どんちゃん騒ぎをしている。みんな楽しそうだ。
レオンは甲板の船縁に寄りかかりながら、その光景を眺めた。潰れていない右目が、嬉しそうに笑む。
「人生は楽しまないとな」
まるで誰かへ囁くかのように言うと、船縁から離れた。目の前のマストの下には、剥き出しの剣が無造作に置かれている。
ランスロットだ。
レオンはその剣を手に取ると、じっと見つめた。まるで以前にもその剣を見たことがあるかのように、目を離さないまま握りしめる。
「俺も大いに人生を楽しむさ」
呟いた唇が、ふっと懐かしんだ。
「また逢えたな……アーサー」
レオンは瞼を閉じると、先程の提督に重なるように一人の男の姿が甦った。
「お前は変わっていない。頑固で、真面目で、融通が利かなくて。俺が口説く時にも、血管がぷちんと切れて」
くっくっくと、可笑しそうに肩が震える。
「安心した。世界がどれだけ変わろうとも、石頭のお前は同じだった。生まれ変わってもな!」
ガッと両目を見開くと、自分の目には薔薇色となった世界の中心で叫ぶ。
「もう一度! 俺とお前は恋をする! お前は俺に抱きついて! 俺はお前を離さない! ニ度とな!」
ひゃっほうっと、勢いよく剣を天へと掲げる。
「アーサー・エジンバラ! 俺が最強に愛した男!!!」
レオンはそこでピタリと口を閉じると、頬にもう片方の手をやって、ふーむと思い出した。
「今の名前はバスターだったな。バデーリといえば、アーサーの辛気臭い弟が養子に入った家だ。足で蹴っ飛ばしたい男だったが血を残してくれて助かった。グラシア―――ス!!!」
心からの喜びを大声で表現したため、近くの木の枝にとまっていた鳥が、ぴえーとひっくり返りそうになった。
「バスター、よしバスターだな! バスター! バスター! バースター!!」
大盛り上がりで踊りながらランスロットに口づけをし、またマストの下に置くと、やる気満々というように腕を振り回す。
「よーし! 最高の気分だ! 人柱なんかになったが、逢えたのは不老不死のおかげだ! あの男に初めて感謝する!! ハリー・J・グラッドストン! お前とあの愉快な将軍もどこかで生きているんだろうな!!」
まるで昨日のことのように、レオンの記憶はフルカラーで鮮明だ。新大陸と旧大陸の闘い。その戦争を終わらせたのは新大陸の初代大統領。大いなる力をもって、平和を持続させるための代償として四人の人柱を世界の秩序へ打ち込んだ。ハリー、ジューダス、ジークフリード、そしてレオン――昔はエスパニョールの若き太陽王だった男。今現在は世界の平和を支える人柱で、海賊業をエンジョイしている不老不死者である。
「死ねないというのも悪くない! あの根暗な男もぶつぶつ言いながら生きているしな!」
共に戦った鉄の皇帝を思い浮かべて、あっはっはと豪快に笑う。この世の全ての喜びが自分を祝福している。そう信じて疑わない陽気な元太陽王は、両手を目一杯広げると、真っ青に空へ向かってエーゲ海のあたたかい風を浴びながら、明るく高らかに宣言した。
「人生はバカンスだ! バスター! お前と一緒に楽しむぞ!!」
ワクワク、ドキドキがとまらなかった。
【出会い編 終わり】