「だから、船と野郎たちは無事だと思うんだが」
マルコも額に手をかざして日光を遮りながら眺める。海賊団の帆船はまだ停泊している。遠くから眺めている分には無事のようである。近づいてきている巨大な船はロイヤル・ネルソン号だ。距離はだいぶ離れているのだが、ここまで砲弾が飛んできた。
「よし! 俺たちもピューッと行くぞ!」
レオンはランスロットを鞘に仕舞うと、右手をひょいと振る。すると手のひらいっぱいの角笛が現れた。
「見ろ、マルコ。これが今世界でバズっている魔術だ」
マルコは船と仲間たちが心配で、ハラハラしながら角笛に目をやる。
「それをどうするんだ?」
「もちろん、吹くんだ。大空へ向かってな」
レオンは口元へ持っていくと、大きく深呼吸をして高らかに吹いた。ガッチャラーアポーーンという角笛のおかしな音色が、海の上を疾風のように駆け抜け、空へと飛翔していく。
「さて、何が来るかな」
隣で意味不明な表情をしている副船長とは対照的に、ウキウキな船長はワクワクしながら空の彼方を見やる。世界的な玩具メーカーであるドウダイが展開しているガッチャラアポーン。そのガッチャラアポーンが魔術とコラボレーションしてあるサブスクを開始した。「ランドウォーズ」の時代を経て世界はグローバル化し、人々はあちらこちらに移動する時代となった。『そんな忙しくて移動手段も簡単に済ませたい現代のあなたへ』というキャッチフレーズで売り出したサブスクは、ドウダイと契約して、魔術師が生み出したガチャ角笛を吹けばファンタスティックガッチャラアポーンが作動し、契約者の元へ移動できる手段――タクシー、フェラーリ、馬、ケンタウルス、ユニコーン、プロペラ機、ジェット戦闘機、グリフォン、サンタクロースのソリ&トナカイ、ドラゴン、魔女の箒、スペースシャトル、etc――が現れる仕組みである。ガッチャラアポーンの醍醐味は、それが何かは、その時にならないとわからないシークレットなことである。ミーハーなレオンはすぐに契約して、今回が初めての使用である。
胸躍らせながら待って数秒。晴れ空にいきなりイナズマが光った。
「おい見ろマルコ! サンダーバードだ!!」
レオンは子供のようにはしゃぐ。
閃光したイナズマを先駆けにして、地平線から空を切り裂くような速さで飛来してきたのは、伝説の雷鳥サンダーバードである。雷を産み出し自在に操ることが出来る巨大な鷲の姿をした神鳥で、その大きさは海賊団の帆船全体をすっぽりと影で覆ってしまえるほどである。その雲のような黒い影がイナズマをまき散らしながらレオンとマルコの上空へ現れると、雷色の翼をはためかせて大突風を起こし、ぐるりと旋回しながらレオンのすぐ横で器用にホバリングした。
「待たせたな、人間。どこへ行けばいい」
くわっと開いた嘴から、渋い声が人の言葉を話す。イナズマはしゅーっと渦を巻いて線香花火サイズになった。
レオンは超笑顔で首を横に振る。
「待ったのは、ほんのウィンクするくらいだ。すごく速くて驚いた。さすがサンダーバードだ!」
大喜びで角笛を放り上げる。すると空中でぽんっと消えた。
「早速だが、あそこの沖合で停泊している俺の船まで連れていってくれ。早く俺とマルコが戻ってやらないと、野郎どもがぴぃぴぃ泣くからな。それにバスターが俺を探している。早く俺の姿を見せて安心させてやりたい。なぜかって? それが俺の愛だからだ! 俺の愛はエンドレスラブだ!」
と、聞かれていないことまでペラペラ喋るレオンである。
「成程」
マルコがどこから突っ込めばよいのかと真顔で額の汗を手で拭っている傍らで、サンダーバードは謎めいた深淵の目でどうでもいいというように頷く。
「さあ乗れ」
サンダーバードは大きな翼を器用に下げる。レオンは軽々と飛び乗り、やや遅れてマルコもたどたどしく翼の上に上がる。サンダーバードの翼は一〇三人乗っても大丈夫! というキャッチフレーズが売りなくらいに広くて頑強なので、胴体までいかなくても十分だった。
「そのサンダーバード、あとで貸してくれないか!」
サンダーバードが巻き起こした風に飛ばされていたハンバーグ監督が慌てて這ってくる。
「次の映画が閃いたんだ! サンダーバードに環境保護団体が乗って世界の大自然を守るんだ! 自然を滅ぼそうとする悪党どもにはサンダーバードが雷を落として!」
「断る」
最後まで聞かずに嘴がくかっと開くと、レオンとマルコが乗った翼を動かさないで、もう片方の翼だけでその場から上昇する。
「太陽王を演じて欲しかったらいつでも呼んでくれ! 俺が俺を演じるなんて最高だ!」
レオンは監督へ叫ぶ。だが監督は再びサンダーバードが引き起こした風でコロコロと丘の下へ転がっていき、レオンの言葉が聞こえなかった。
「行くぞ」
サンダーバードは飛んだ。と、同時にサンタ・マリア海賊団の帆船に到着した。瞬間移動したかのような速さで、飛ぶというよりもぴょんと空へ軽くジャンプしただけで着いた。
「次の利用を待っている」
レオンとマルコを無事に甲板へ下ろすと、ノルマをかけられた営業マンのようなトークを言い放ち、サンダーバードは激しくイナズマを光らせながら爆速で地平線へ飛んで行った。
マルコも額に手をかざして日光を遮りながら眺める。海賊団の帆船はまだ停泊している。遠くから眺めている分には無事のようである。近づいてきている巨大な船はロイヤル・ネルソン号だ。距離はだいぶ離れているのだが、ここまで砲弾が飛んできた。
「よし! 俺たちもピューッと行くぞ!」
レオンはランスロットを鞘に仕舞うと、右手をひょいと振る。すると手のひらいっぱいの角笛が現れた。
「見ろ、マルコ。これが今世界でバズっている魔術だ」
マルコは船と仲間たちが心配で、ハラハラしながら角笛に目をやる。
「それをどうするんだ?」
「もちろん、吹くんだ。大空へ向かってな」
レオンは口元へ持っていくと、大きく深呼吸をして高らかに吹いた。ガッチャラーアポーーンという角笛のおかしな音色が、海の上を疾風のように駆け抜け、空へと飛翔していく。
「さて、何が来るかな」
隣で意味不明な表情をしている副船長とは対照的に、ウキウキな船長はワクワクしながら空の彼方を見やる。世界的な玩具メーカーであるドウダイが展開しているガッチャラアポーン。そのガッチャラアポーンが魔術とコラボレーションしてあるサブスクを開始した。「ランドウォーズ」の時代を経て世界はグローバル化し、人々はあちらこちらに移動する時代となった。『そんな忙しくて移動手段も簡単に済ませたい現代のあなたへ』というキャッチフレーズで売り出したサブスクは、ドウダイと契約して、魔術師が生み出したガチャ角笛を吹けばファンタスティックガッチャラアポーンが作動し、契約者の元へ移動できる手段――タクシー、フェラーリ、馬、ケンタウルス、ユニコーン、プロペラ機、ジェット戦闘機、グリフォン、サンタクロースのソリ&トナカイ、ドラゴン、魔女の箒、スペースシャトル、etc――が現れる仕組みである。ガッチャラアポーンの醍醐味は、それが何かは、その時にならないとわからないシークレットなことである。ミーハーなレオンはすぐに契約して、今回が初めての使用である。
胸躍らせながら待って数秒。晴れ空にいきなりイナズマが光った。
「おい見ろマルコ! サンダーバードだ!!」
レオンは子供のようにはしゃぐ。
閃光したイナズマを先駆けにして、地平線から空を切り裂くような速さで飛来してきたのは、伝説の雷鳥サンダーバードである。雷を産み出し自在に操ることが出来る巨大な鷲の姿をした神鳥で、その大きさは海賊団の帆船全体をすっぽりと影で覆ってしまえるほどである。その雲のような黒い影がイナズマをまき散らしながらレオンとマルコの上空へ現れると、雷色の翼をはためかせて大突風を起こし、ぐるりと旋回しながらレオンのすぐ横で器用にホバリングした。
「待たせたな、人間。どこへ行けばいい」
くわっと開いた嘴から、渋い声が人の言葉を話す。イナズマはしゅーっと渦を巻いて線香花火サイズになった。
レオンは超笑顔で首を横に振る。
「待ったのは、ほんのウィンクするくらいだ。すごく速くて驚いた。さすがサンダーバードだ!」
大喜びで角笛を放り上げる。すると空中でぽんっと消えた。
「早速だが、あそこの沖合で停泊している俺の船まで連れていってくれ。早く俺とマルコが戻ってやらないと、野郎どもがぴぃぴぃ泣くからな。それにバスターが俺を探している。早く俺の姿を見せて安心させてやりたい。なぜかって? それが俺の愛だからだ! 俺の愛はエンドレスラブだ!」
と、聞かれていないことまでペラペラ喋るレオンである。
「成程」
マルコがどこから突っ込めばよいのかと真顔で額の汗を手で拭っている傍らで、サンダーバードは謎めいた深淵の目でどうでもいいというように頷く。
「さあ乗れ」
サンダーバードは大きな翼を器用に下げる。レオンは軽々と飛び乗り、やや遅れてマルコもたどたどしく翼の上に上がる。サンダーバードの翼は一〇三人乗っても大丈夫! というキャッチフレーズが売りなくらいに広くて頑強なので、胴体までいかなくても十分だった。
「そのサンダーバード、あとで貸してくれないか!」
サンダーバードが巻き起こした風に飛ばされていたハンバーグ監督が慌てて這ってくる。
「次の映画が閃いたんだ! サンダーバードに環境保護団体が乗って世界の大自然を守るんだ! 自然を滅ぼそうとする悪党どもにはサンダーバードが雷を落として!」
「断る」
最後まで聞かずに嘴がくかっと開くと、レオンとマルコが乗った翼を動かさないで、もう片方の翼だけでその場から上昇する。
「太陽王を演じて欲しかったらいつでも呼んでくれ! 俺が俺を演じるなんて最高だ!」
レオンは監督へ叫ぶ。だが監督は再びサンダーバードが引き起こした風でコロコロと丘の下へ転がっていき、レオンの言葉が聞こえなかった。
「行くぞ」
サンダーバードは飛んだ。と、同時にサンタ・マリア海賊団の帆船に到着した。瞬間移動したかのような速さで、飛ぶというよりもぴょんと空へ軽くジャンプしただけで着いた。
「次の利用を待っている」
レオンとマルコを無事に甲板へ下ろすと、ノルマをかけられた営業マンのようなトークを言い放ち、サンダーバードは激しくイナズマを光らせながら爆速で地平線へ飛んで行った。