ネットサーフィンをしていたら、変な投稿を見つけた。
「これって、本当にあるバイトなのかな? ガチ? それともネタ?(掲載誌にあったらしい求人情報の写真が添付)」
投稿された日付:二〇二三年五月二十三日 十九時二十一分
事件関連のことを調べてばかりで気が滅入るから、と思ってなんの関係もないSNSを流し見しているだけだったのに、『おすすめ欄』に出てきた他人の投稿に目を奪われた。その人の投稿にはいくつか返信がついていた。
以下はそのやり取りの一部だ。
≫「俺も見たことあるわー、このサイト(サイトURL添付)」
≫「あー、こっちにも流れてきたことあるけど、誰かが作った偽記事かと思ってた。ガチなん?」
≫「あたし、これに似たようなの見たことあるかも。高給バイト探してて、風俗とかデリとかそういう募集ばっかだったんだけど、ぽつんってそれがあったんだよね。気味悪すぎて応募しなかったけど、これは本当だと思う」
気になってその貼られていた支援サイトのURLを開いてみたが、いまはもう掲載されていないようだった(二〇二四年八月二十日調べ)。どうして一年以上も前の投稿がおすすめ欄に出てきたのかはわからない。いままではおすすめ欄には直近のトレンド記事が流れて来るだけで、こんなことなかったのに。ひとまず、返信欄とそれらについていた添付写真の内容を以下に書き残しておく。
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①軍手を落とす仕事(T県)
軍手を落とすだけの簡単なお仕事です
勤務時間 25時~27時
時給2500円
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これについて調べてみると、軍手にミントやハーブなどの種を仕込み、それを夜中に落とすという業務のようだった。なぜこんなことをさせるのかというと、その土地の価値を下げるのが目的だそうだ(諸説あり)。ミントなどのハーブ類は繁殖力がとても高く、一粒誤って種を落としただけでも、その辺り一帯をハーブ畑にしてしまうほどの強力な生命力を持つ。私も家庭菜園をしていたことがあるから知っていたが、確かに鉢植えでレモンバームを育てていたとき、隣に置いてあったトマトの鉢に種が飛んでしまって大変だった(抜いても抜いても次から次へと芽が出てくる、終わりが見えない)。下手をしたら雑草よりも繁殖力があるのではないか。そんなものを売地にばらまかれたら駆除が大変だ。そうなるとやはり土地の価値は格段に下がってしまうのだろう。一種のバイオテロと同じように思う。地価を下げたい人物が、きっと募集をかけたのだろうと思われる。
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②商品を買って荷物を受け取り、それを指定の場所まで運ぶ仕事(H県)
商品を購入し、それを受け取っていただきます
それをこちらが指定した場所まで運んでもらうだけのお仕事です
勤務時間 要相談
歩合制(一件あたりの最低賃金1500円~)
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これは知っている人も多いかもしれないが、麻〇の密売だ。指定のフリマサイト(匿名でやり取りすることができる)に出品されている到底麻〇とは思えない商品(購入する商品もあらかじめ指定されるようだ)を指示通り購入し、それを受け取る。もちろんその届いた商品の中身は〇薬だ。その受け取り確認がされたら、今度はまた指定された場所までそれを運ぶ。仕入れと運び屋業務を何も知らない他人に担わせることで、足がつくのを避けているらしい。
応募の際には免許証や現住所、氏名、年齢、あらゆる個人情報を搾取されるという(データで残されてしまう)。万が一の時、その個人を『売る』為だそう。見るからに怪しいバイトなのに応募者は絶えず、警察案件になることも昨今では増えているようだ。
上記のアルバイト①、②については知っている人も中には数名いたようで、それぞれのリプライから派生し、どんどん会話が膨らんでいったようだ。
「ほかにもなんかやばそうなバイト知ってる人、もしいたら俺のリプ欄で教えて」
先に「これって、本当にあるバイトなのかな?」と投稿したのと同じ人物が再度した投稿には、そう書かれていた。
次に書くのは、そのリプ欄で最後に見つけた怪しいバイトだ。これはTちゃんから事前に話を聞いていなかったら見逃してしまったかもしれない。
≫「布を売るバイトも怖いよ」
≫(この投稿は削除されました)
≫(この投稿は削除されました)
≫(この投稿は削除されました)
ぽつりと、そのコメントのリプライに一件ついていた。
だが、それに対する返信はすべて削除されていた。
三~四件のリプライがあったようだがそれらすべて『投稿は削除されました』とシステム側からのメッセージが表示されているだけで、元の投稿は見ることができない。わかるのは、リプライが確かにあったという事実だけだ。センシティブなものや公序良俗に反するものは運営が削除してしまうので、もしかしたらそれに当てはまったのかもしれない。
布を売るバイトについて調べてみたが、それらしき投稿は他には見つけることができなかった。私が見つけた、その一件のコメントだけだ。そういえばTちゃんはフリマサイトで怪しい取引があったと言っていたことを思い出して、いくつかのフリマサイトを開いてみた。『布』と検索をかけるとたくさんの検索結果がヒットした。だが、あからさまに高額な布は売られていないし、売り切れ済みの商品に絞って再度検索をかけてみるも、ヒットしない。こんなことになるんだったら、あの時フリマサイトの名前とか、色々聞いておけばよかった。今更後悔しても仕方ないので、できる範囲で調べていく。
フリマサイトの特徴として、以前販売して取引が完了したものは、売主がその投稿を削除することができるらしいとわかった。それならば、いくら調べても検索に引っ掛かるはずはない。彼女の事件があったのは三年も前だ。もしかしたらいままでは残していた証拠となりえるものも、いまはすぐに消されているのかもしれない。