本日のことを書く前に、この日記を読んでいただいている皆さまにひとつお知らせです。
どうやら、私のこれまでの日記内にいくつかの文字化けがあるようです。しかも、文字化けを修正するツールを使っても完璧に復元できないタイプの文字化けらしいです。
そして、さらに恐怖をあおるようなことを言って申し訳ないのですが、私のほうではその文字化けを把握できていないのです。
過去の日記を見返しても、どこにもそのような痕跡がないのです。
これは、どういうことでしょうか。
理由がはっきりせず、把握できないこともあり修正ができませんので、大変申し訳ないのですが、修正できない文字化けについてはそのままスルーしていただけると幸いです。
さて、ここからはいつも通りの日記に戻していこうと思うのだが、それにしても怖すぎる!
え、文字化けってどういうこと? しかも修正できない? え、そんな文字化けあるんですか。
連絡していただいた方からは、「矢田川さんが私たちを怖がらせるためにわざと作ったんですか?」などと言われましたが、とんでもない! そもそも修正できない文字化けってどうやって作るんだ。意図的に作れるなら普通戻せるはず……。意味がわからない。怖い怖い怖い。
ただでさえ今日の現地調査は怖いことだらけだったのに、その上私の日記にまで……?
え、私、呪われたりしていないですよね? 誰に訊いてるんだって感じですね。ごめんなさい。
いったん、日記の文字化けについては忘れよう。それよりも、記憶が薄れないうちに早く今日の調査結果をまとめておかねば。
まず、今日の現地調査の工程について先に簡単に記載しておく。
⚪︎第1回題材探し兼情報収集調査 工程
10:00 〜 11:30 ……「隠れ鬼」調査
11:30 〜 12:00 …… 移動
12:00 〜 14:00 …… 満谷先輩にランチ取材
14:00 〜 15:00 …… 移動、「熱狂的読者を攫う怪異」について情報収集
15:00 〜 18:00 …… 親友の実家訪問
正直、想定以上の調査をすることができた。
それぞれについてしっかりまとめていきたいと思うが、非常に長くなりそうなので、とりあえず今日は「隠れ鬼」調査についてのみにここに記しておく。明日以降に分割する形で、満谷先輩への聞き取り(主に闇バイト事件について)や急遽することになった親友の実家への訪問内容について書いていこうと思う。(特に、満谷先輩への聞き取りについては録音したテープの起こしも記載したいので。)
ということで、早速「隠れ鬼」調査の内容についてまとめていく。
以前も記載したが、もともと私は、「隠れ鬼」の噂にあった「お墓の見える場所」で、かつ隠れ鬼ごっこができそうなほどの広さがある広場が、親友のアパートの近くにあることが気になっていた。あのノリの良い親友のことだ。大学生といえど、たまたま楽しそうに隠れ鬼ごっこをしている子どもたちに混ざって、一緒に遊んでいた可能性も否定できない。(もちろん、確率としてはかなり低い。)
来週会う予定をしている加藤さんや智也さんへの聞き取りの前準備として、私はまずその広場を訪れた。
広場といっても、そこは金網のフェンスに囲まれた空き地である。昔小学校のグラウンドだったこともあって、桜の木が広場を囲むようにして植えられていた。11月も中旬。整然と並んだ桜の木々は散り始めていた。
広場の隅のほうには、旧忠霊塔、今でいう慰霊碑が建てられている。他にも石造りのアートチックなオブジェや、近くのハイテク工業団地で開発された受配電設備機器が埋め込まれた街灯など、じつに様々なものが配置されている。こうした障害物を利用すれば充分に身を隠すことができるし、そこそこの広さもあるので逃げ回ることもできる。これほど隠れ鬼ごっこに適した場所も少ないだろう。
そして問題のお墓なのだが、フェンスを越えた先、田んぼが広がる中に小さな霊園がひとつあるのだ。昔からある古い霊園らしく、墓じまいをせずに無縁仏となってしまったものもあると聞いている。
また慰霊碑(旧忠霊塔)も、一種のお墓だ。事実、その慰霊碑は太平洋戦争で戦死した者の霊を称え祀っているもので、墓地取締規則に基づき管理され、忠霊碑とは異なり納骨堂も備えている。(ただし、現在は遺骨は納められていないらしい。)
このように、まさに「隠れ鬼」の噂話が実現しそうな条件の揃った場所だ。もしそのような怪異が実在するのであれば、この場所で隠れ鬼ごっこをすればほぼ間違いなく出てくるに違いない。あくまでも、条件的な意味では。
ただし、もちろん疑念もある。フェンスを越えた先にある霊園は広場から見えるといってもそこそこに遠いし、おおよそこの広場に隠れるとなれば自ずと背中を向けてしまうような位置にある。そしてそれは慰霊碑についても同じ(慰霊碑はかなり大きい)であり、さらに言えばどちらのお墓も「隠れ鬼」の噂とは何の関係もないはずなのだ。(例えば、鬼ごっこをしていて足を踏み外して亡くなった子どものお墓があるとか、そう言ったことは聞いたことがない。)
この件について、当初想定した調査はここまでだった。
来週話を聞く親友のお兄さんの智也さんは、これらのお墓を管轄している町の町内会の役員に属している。また改めていろいろ尋ねてみようかと思い、私は去り際に何枚か写真を撮ろうとしていた。
そんな時、私は不意に後ろから声をかけられたのだ。
もちろんビビった。「うおっ!?」とも「うわっ!?」ともつかない変な声をあげて反応してしまったのは、一番新しい黒歴史だ。
ただ、私がこうして普通に日記を書いていることからもわかる通り、「隠れ鬼」ではなかった。私に声をかけてきたのは、昔親友とともに一緒に遊んであげていた、この町内に住む雄太くん(仮名)だった。
「どどどどど、どうしたんですか?」
私の黒歴史だけを記載するのはあれなので、私の「うおっ!?」とも「うわっ!?」ともつかないビビり散らした反応に驚いて、同じくどもり散らした雄太くんの返答もここに書いておく。これだけで私の中にある羞恥心がいくらか紛れてくれる。(性格悪いな、私。ごめんよ、雄太くん。)
雄太くんは私よりも10歳ほど下の男の子で、今では高校生になっていた。
ここで私は閃いた。
10歳ほど下ということは、私や親友が大学生の時は小学生だ。小学生であればこの広場で隠れ鬼ごっこをしていてもなんらおかしくないし、「隠れ鬼」の噂話についてもより詳細に知っているのではないだろうか。
そして雄太くんに尋ねると、私の思惑は見事に的中した。
いや、的中どころではなかった。
「ああ、知ってますよ、その噂。というか、それが広まる発端となった事件のひとつは俺らですし」
この言葉を聞いた時の私の衝撃といったら筆舌に尽くしがたい。
私はすぐさま雄太くんにこの後予定がないのを確認するとカフェに連行した。(雄太くんはちょうど部活帰りでお腹が空いていたらしく、カフェで詳しい話を聞かせてほしいと頼むと快く承諾してくれた。)
雄太くんが大きなパンケーキを頬張りながら話してくれた内容をまとめると、以下の通りだ。
雄太くんが小学校五年生だった秋の頃、学校終わりに同じ町内の小学生総勢6人が集まり、あの広場で隠れ鬼ごっこをしていた。私の読み通り、あの場所はオブジェや大きめの街灯、東屋など様々な遮蔽物があったので、隠れ鬼ごっこは大いに盛り上がった。
夕方の四時から始まった隠れ鬼ごっこは、負けず嫌いな子どもたちが集まったこともあって過熱し、辺りが暗くなり始める五時を過ぎてもまだ続いていた。
「その時だったんですよ。一回リセットして鬼を決め直そうってみんなを集めたら、一人足りなくて」
そんな言葉を語る雄太くん曰く、一番負けず嫌いだったAくんが呼び掛けても一向に姿を現さなかったらしい。
そのような場合、本来ならみんなで探すところだろう。しかしそこへ、悪戯好きなKくんが、「このまま仕切り直した新しい隠れ鬼ごっこを始めて、Aくんを混乱させよう」と提案した。
白熱していた雰囲気も相まって、K君の提案は満場一致で決まった。
ところが、さらに鬼が何度か変わるほど続けても、Aくんは姿を見せなかった。いよいよ不思議に思ったみんなは、隠れ鬼ごっこを中断してAくんを探そうということになった。
しかし、そこへ更なる恐怖の火種が放り込まれた。
再度招集した時、Kくんの姿もなかったのだ。
その場は、軽いパニック状態になった。
夕方の五時半を過ぎ。辺りもかなり暗くなっていたので、大人も交えて探し始め、ちょっとした騒ぎになった。
けれど、やはりAくんとKくんは見つからなかった。
大きな側溝や用水といった場所はなく、広場自体も平地にあるので落ちたら危ない高台や段差もない。田んぼも稲刈りはとっくに済んでおり、乾き切った泥があるばかりで足がはまって抜け出せないとったことも考えにくい。いよいよ、警察に連絡することとなった。
犯罪なんて聞いたことのない小さな町で、町民をあげての捜索が開始された。
捜索範囲はその広場を中心とした町内全体。さらには防災無線を活用して近隣の市町村内に呼びかけまで行った。捜索は、夜の十時過ぎまで徹底して行われた。
「そしたらびっくり。二人とも普通に出てきたんですよ。あの広場から」
そう話す雄太くんの顔は、思いがけず楽しそうだった。
結論を言ってしまうと、二人はあろうことか忠霊塔の納骨堂の中で眠りこけていたらしい。
納骨堂には部外者が入れないように南京錠をかけてあるのだが、それが雨風にさらされて脆くなり壊れていた。最初にAくんがそれを発見して隠れ、次に仕切り直して始まった隠れ鬼ごっこでKくんも納骨堂に隠れた。二人は「ここなら絶対に見つからないだろう」と楽しくなっていたが、やがて薄暗い室内で眠くなってしまい、そのまま寝てしまった……というのが、真相だった。
時間が経ってしまえば、なんとも人騒がせな笑い話だ。
そして、この話を町民から聞いたとあるライターが、他の似たような笑い話や、元々あった例の「隠れ鬼」のオカルト話に関連付けて、面白おかしいフェイクニュースを書いたらしい。しかもそのフェイクニュースがバズってしまい、このような噂話として広まってしまったとのことだった。
全体の顛末を聞くと、本当の与太話だった。
しかし、なるほど納得だ。おおよそこの世に広まっている怪談話だとか本当にあった怖い話だとかは、このような様々な出来事が組み合わさってできているのだろう。
そしてひとつ追記しておくと、もともとの「隠れ鬼」の話には、以下のような内容もあるらしい。
【「隠れ鬼」の噂について追記】
・「隠れ鬼」の正体は、遥か昔に似たような遊びをして転落死した女の子。自分が死んだことに気づかず、隠れ鬼ごっこを続けている。
・上記の正体ゆえに、当時のルール(「みーつけた」の後に「お逃げーなさい」と続けること。追いかける時は「ほーらはやく。お逃げーなさい」と唱えること。など)のまま、隠れ鬼ごっこを続けている。
・「隠れ鬼」の足はそこまで速くないが、気配が薄く認識しずらい。
・「隠れ鬼」は夕方に現れやすい。
・「隠れ鬼」に連れ去られ、その先で隠れ鬼ごっこをして負けて食べられると、食べられた人の存在はこの世の中から消える。(認識において、そもそもそんな人はいなかったことになる。)
・「隠れ鬼」の話は、お墓の近くで遊ぶことを戒めるために作られた。
オチも含めて、ここまで詳細に情報をくれた雄太くんには本当に感謝だ。この話を上手く編集すれば、短編のモキュメンタリーホラー小説を書けそうだ。
また、雄太くんから当時書かれた話題のフェイクニュースについても見せてもらうことができた。「夕刻の慰霊碑広場で催された『隠れ鬼ごっこ』が、悲劇の始まりであった」だとか、「隠れた子どもたちが次々と消えていく真実の裏には、この地域に伝わるとある逸話があった」だとか、いかにもフェイクニュースっぽい仰々しい言葉が並べられていた。モキュメンタリーホラー小説を書く際には是非とも参考にしたい。
「まあでも、最後まで無事でしたけどね。隠れていた6人全員」
そんな言葉を最後に、宿題をまだ終わらせてないらしい雄太くんは帰っていった。
このあとは移動を経て、満谷先輩とランチをしながら闇バイト事件について聞き取りをした。ここでも予想以上にいろいろなことがわかった。
ただ前述したとおり、かなり長くなってしまったので今日の記載はここまでとする。
ひとまず「隠れ鬼」の噂については大丈夫そうで、本当に良かった。
ただ、残りの二つについては……。
どうやら、私のこれまでの日記内にいくつかの文字化けがあるようです。しかも、文字化けを修正するツールを使っても完璧に復元できないタイプの文字化けらしいです。
そして、さらに恐怖をあおるようなことを言って申し訳ないのですが、私のほうではその文字化けを把握できていないのです。
過去の日記を見返しても、どこにもそのような痕跡がないのです。
これは、どういうことでしょうか。
理由がはっきりせず、把握できないこともあり修正ができませんので、大変申し訳ないのですが、修正できない文字化けについてはそのままスルーしていただけると幸いです。
さて、ここからはいつも通りの日記に戻していこうと思うのだが、それにしても怖すぎる!
え、文字化けってどういうこと? しかも修正できない? え、そんな文字化けあるんですか。
連絡していただいた方からは、「矢田川さんが私たちを怖がらせるためにわざと作ったんですか?」などと言われましたが、とんでもない! そもそも修正できない文字化けってどうやって作るんだ。意図的に作れるなら普通戻せるはず……。意味がわからない。怖い怖い怖い。
ただでさえ今日の現地調査は怖いことだらけだったのに、その上私の日記にまで……?
え、私、呪われたりしていないですよね? 誰に訊いてるんだって感じですね。ごめんなさい。
いったん、日記の文字化けについては忘れよう。それよりも、記憶が薄れないうちに早く今日の調査結果をまとめておかねば。
まず、今日の現地調査の工程について先に簡単に記載しておく。
⚪︎第1回題材探し兼情報収集調査 工程
10:00 〜 11:30 ……「隠れ鬼」調査
11:30 〜 12:00 …… 移動
12:00 〜 14:00 …… 満谷先輩にランチ取材
14:00 〜 15:00 …… 移動、「熱狂的読者を攫う怪異」について情報収集
15:00 〜 18:00 …… 親友の実家訪問
正直、想定以上の調査をすることができた。
それぞれについてしっかりまとめていきたいと思うが、非常に長くなりそうなので、とりあえず今日は「隠れ鬼」調査についてのみにここに記しておく。明日以降に分割する形で、満谷先輩への聞き取り(主に闇バイト事件について)や急遽することになった親友の実家への訪問内容について書いていこうと思う。(特に、満谷先輩への聞き取りについては録音したテープの起こしも記載したいので。)
ということで、早速「隠れ鬼」調査の内容についてまとめていく。
以前も記載したが、もともと私は、「隠れ鬼」の噂にあった「お墓の見える場所」で、かつ隠れ鬼ごっこができそうなほどの広さがある広場が、親友のアパートの近くにあることが気になっていた。あのノリの良い親友のことだ。大学生といえど、たまたま楽しそうに隠れ鬼ごっこをしている子どもたちに混ざって、一緒に遊んでいた可能性も否定できない。(もちろん、確率としてはかなり低い。)
来週会う予定をしている加藤さんや智也さんへの聞き取りの前準備として、私はまずその広場を訪れた。
広場といっても、そこは金網のフェンスに囲まれた空き地である。昔小学校のグラウンドだったこともあって、桜の木が広場を囲むようにして植えられていた。11月も中旬。整然と並んだ桜の木々は散り始めていた。
広場の隅のほうには、旧忠霊塔、今でいう慰霊碑が建てられている。他にも石造りのアートチックなオブジェや、近くのハイテク工業団地で開発された受配電設備機器が埋め込まれた街灯など、じつに様々なものが配置されている。こうした障害物を利用すれば充分に身を隠すことができるし、そこそこの広さもあるので逃げ回ることもできる。これほど隠れ鬼ごっこに適した場所も少ないだろう。
そして問題のお墓なのだが、フェンスを越えた先、田んぼが広がる中に小さな霊園がひとつあるのだ。昔からある古い霊園らしく、墓じまいをせずに無縁仏となってしまったものもあると聞いている。
また慰霊碑(旧忠霊塔)も、一種のお墓だ。事実、その慰霊碑は太平洋戦争で戦死した者の霊を称え祀っているもので、墓地取締規則に基づき管理され、忠霊碑とは異なり納骨堂も備えている。(ただし、現在は遺骨は納められていないらしい。)
このように、まさに「隠れ鬼」の噂話が実現しそうな条件の揃った場所だ。もしそのような怪異が実在するのであれば、この場所で隠れ鬼ごっこをすればほぼ間違いなく出てくるに違いない。あくまでも、条件的な意味では。
ただし、もちろん疑念もある。フェンスを越えた先にある霊園は広場から見えるといってもそこそこに遠いし、おおよそこの広場に隠れるとなれば自ずと背中を向けてしまうような位置にある。そしてそれは慰霊碑についても同じ(慰霊碑はかなり大きい)であり、さらに言えばどちらのお墓も「隠れ鬼」の噂とは何の関係もないはずなのだ。(例えば、鬼ごっこをしていて足を踏み外して亡くなった子どものお墓があるとか、そう言ったことは聞いたことがない。)
この件について、当初想定した調査はここまでだった。
来週話を聞く親友のお兄さんの智也さんは、これらのお墓を管轄している町の町内会の役員に属している。また改めていろいろ尋ねてみようかと思い、私は去り際に何枚か写真を撮ろうとしていた。
そんな時、私は不意に後ろから声をかけられたのだ。
もちろんビビった。「うおっ!?」とも「うわっ!?」ともつかない変な声をあげて反応してしまったのは、一番新しい黒歴史だ。
ただ、私がこうして普通に日記を書いていることからもわかる通り、「隠れ鬼」ではなかった。私に声をかけてきたのは、昔親友とともに一緒に遊んであげていた、この町内に住む雄太くん(仮名)だった。
「どどどどど、どうしたんですか?」
私の黒歴史だけを記載するのはあれなので、私の「うおっ!?」とも「うわっ!?」ともつかないビビり散らした反応に驚いて、同じくどもり散らした雄太くんの返答もここに書いておく。これだけで私の中にある羞恥心がいくらか紛れてくれる。(性格悪いな、私。ごめんよ、雄太くん。)
雄太くんは私よりも10歳ほど下の男の子で、今では高校生になっていた。
ここで私は閃いた。
10歳ほど下ということは、私や親友が大学生の時は小学生だ。小学生であればこの広場で隠れ鬼ごっこをしていてもなんらおかしくないし、「隠れ鬼」の噂話についてもより詳細に知っているのではないだろうか。
そして雄太くんに尋ねると、私の思惑は見事に的中した。
いや、的中どころではなかった。
「ああ、知ってますよ、その噂。というか、それが広まる発端となった事件のひとつは俺らですし」
この言葉を聞いた時の私の衝撃といったら筆舌に尽くしがたい。
私はすぐさま雄太くんにこの後予定がないのを確認するとカフェに連行した。(雄太くんはちょうど部活帰りでお腹が空いていたらしく、カフェで詳しい話を聞かせてほしいと頼むと快く承諾してくれた。)
雄太くんが大きなパンケーキを頬張りながら話してくれた内容をまとめると、以下の通りだ。
雄太くんが小学校五年生だった秋の頃、学校終わりに同じ町内の小学生総勢6人が集まり、あの広場で隠れ鬼ごっこをしていた。私の読み通り、あの場所はオブジェや大きめの街灯、東屋など様々な遮蔽物があったので、隠れ鬼ごっこは大いに盛り上がった。
夕方の四時から始まった隠れ鬼ごっこは、負けず嫌いな子どもたちが集まったこともあって過熱し、辺りが暗くなり始める五時を過ぎてもまだ続いていた。
「その時だったんですよ。一回リセットして鬼を決め直そうってみんなを集めたら、一人足りなくて」
そんな言葉を語る雄太くん曰く、一番負けず嫌いだったAくんが呼び掛けても一向に姿を現さなかったらしい。
そのような場合、本来ならみんなで探すところだろう。しかしそこへ、悪戯好きなKくんが、「このまま仕切り直した新しい隠れ鬼ごっこを始めて、Aくんを混乱させよう」と提案した。
白熱していた雰囲気も相まって、K君の提案は満場一致で決まった。
ところが、さらに鬼が何度か変わるほど続けても、Aくんは姿を見せなかった。いよいよ不思議に思ったみんなは、隠れ鬼ごっこを中断してAくんを探そうということになった。
しかし、そこへ更なる恐怖の火種が放り込まれた。
再度招集した時、Kくんの姿もなかったのだ。
その場は、軽いパニック状態になった。
夕方の五時半を過ぎ。辺りもかなり暗くなっていたので、大人も交えて探し始め、ちょっとした騒ぎになった。
けれど、やはりAくんとKくんは見つからなかった。
大きな側溝や用水といった場所はなく、広場自体も平地にあるので落ちたら危ない高台や段差もない。田んぼも稲刈りはとっくに済んでおり、乾き切った泥があるばかりで足がはまって抜け出せないとったことも考えにくい。いよいよ、警察に連絡することとなった。
犯罪なんて聞いたことのない小さな町で、町民をあげての捜索が開始された。
捜索範囲はその広場を中心とした町内全体。さらには防災無線を活用して近隣の市町村内に呼びかけまで行った。捜索は、夜の十時過ぎまで徹底して行われた。
「そしたらびっくり。二人とも普通に出てきたんですよ。あの広場から」
そう話す雄太くんの顔は、思いがけず楽しそうだった。
結論を言ってしまうと、二人はあろうことか忠霊塔の納骨堂の中で眠りこけていたらしい。
納骨堂には部外者が入れないように南京錠をかけてあるのだが、それが雨風にさらされて脆くなり壊れていた。最初にAくんがそれを発見して隠れ、次に仕切り直して始まった隠れ鬼ごっこでKくんも納骨堂に隠れた。二人は「ここなら絶対に見つからないだろう」と楽しくなっていたが、やがて薄暗い室内で眠くなってしまい、そのまま寝てしまった……というのが、真相だった。
時間が経ってしまえば、なんとも人騒がせな笑い話だ。
そして、この話を町民から聞いたとあるライターが、他の似たような笑い話や、元々あった例の「隠れ鬼」のオカルト話に関連付けて、面白おかしいフェイクニュースを書いたらしい。しかもそのフェイクニュースがバズってしまい、このような噂話として広まってしまったとのことだった。
全体の顛末を聞くと、本当の与太話だった。
しかし、なるほど納得だ。おおよそこの世に広まっている怪談話だとか本当にあった怖い話だとかは、このような様々な出来事が組み合わさってできているのだろう。
そしてひとつ追記しておくと、もともとの「隠れ鬼」の話には、以下のような内容もあるらしい。
【「隠れ鬼」の噂について追記】
・「隠れ鬼」の正体は、遥か昔に似たような遊びをして転落死した女の子。自分が死んだことに気づかず、隠れ鬼ごっこを続けている。
・上記の正体ゆえに、当時のルール(「みーつけた」の後に「お逃げーなさい」と続けること。追いかける時は「ほーらはやく。お逃げーなさい」と唱えること。など)のまま、隠れ鬼ごっこを続けている。
・「隠れ鬼」の足はそこまで速くないが、気配が薄く認識しずらい。
・「隠れ鬼」は夕方に現れやすい。
・「隠れ鬼」に連れ去られ、その先で隠れ鬼ごっこをして負けて食べられると、食べられた人の存在はこの世の中から消える。(認識において、そもそもそんな人はいなかったことになる。)
・「隠れ鬼」の話は、お墓の近くで遊ぶことを戒めるために作られた。
オチも含めて、ここまで詳細に情報をくれた雄太くんには本当に感謝だ。この話を上手く編集すれば、短編のモキュメンタリーホラー小説を書けそうだ。
また、雄太くんから当時書かれた話題のフェイクニュースについても見せてもらうことができた。「夕刻の慰霊碑広場で催された『隠れ鬼ごっこ』が、悲劇の始まりであった」だとか、「隠れた子どもたちが次々と消えていく真実の裏には、この地域に伝わるとある逸話があった」だとか、いかにもフェイクニュースっぽい仰々しい言葉が並べられていた。モキュメンタリーホラー小説を書く際には是非とも参考にしたい。
「まあでも、最後まで無事でしたけどね。隠れていた6人全員」
そんな言葉を最後に、宿題をまだ終わらせてないらしい雄太くんは帰っていった。
このあとは移動を経て、満谷先輩とランチをしながら闇バイト事件について聞き取りをした。ここでも予想以上にいろいろなことがわかった。
ただ前述したとおり、かなり長くなってしまったので今日の記載はここまでとする。
ひとまず「隠れ鬼」の噂については大丈夫そうで、本当に良かった。
ただ、残りの二つについては……。