ようやく一週間が終わった。
明日は待ちに待った休日……ではあるのだが、モキュメンタリーホラー小説コンテスト用の題材探し兼、親友の行方不明事件調査であちこちを回る予定だ。
今日もコンテスト用の執筆のためにいくつかホラー小説を読もうと思っていたのだが、さすがに一週間の疲れが出たのか集中力がまるでない。(正直、日記を書く元気もあまりない。)
ということで、明日のためにも今日はもう休もうと思う。
ただし、その前にどうしても最後の噂話についてはまとめておきたいので、今日は一日の振り返りもそこそこに早速まとめに入っていきたい。
私が気にしていた噂話のうちの最後のひとつは、「熱狂的読者を攫う怪異」というものだ。
昨今、様々な小説投稿サイトが運営されており、そこでは多種多様なWEB小説が執筆され、誰でも閲覧できるようになっている。各小説投稿サイトごとにも特色があり、異世界転生やスローライフといった異世界ファンタジーが数多く掲載されているものから、短編に特化したもの、女性向けの和風ファンタジー・溺愛ものをメインに扱っているものなど、じつに多くの投稿サイトがネット上で運営されている。中には出版社が積極的に運営し、定期的にコンテストを開催しているものもあり、かくいう私もそうした投稿サイトで毎回全力で小説を執筆・投稿し、応募をしている。
このように、書き手は数多ある小説投稿サイトの中から自分に合ったものを選び、作品を公開している。
一方で、この日記を読んでくださっている方々の中にもいると思うのだが、小説投稿サイトに登録しているユーザーには、書き手のほかに読書メインで登録しているユーザー、いわゆる「読み専」の人たちがいる。書き手のモチベーションの源泉であるPV数に大きく関係しており、時として感想やレビューをくれる大変ありがたい方たちだ。(いつも本当にありがとうございます。)
しかしこの読み専の方たちの数は、各投稿サイトによって天と地ほどの差がある。そしてこの数の差が、前述した「熱狂的読者を攫う怪異」と関係しているらしい。
つまり、熱狂的なまでに物語を読み、魅了されている読者を、その物語の世界へと引きずり込む怪異がいるという噂が、当時流れていたのだ。
ただし、流れていたといってもこれは大学での話ではない。私がまだ小説を書き始めて間もない頃、読み専から書き手へとシフトしていた時期に、SNSで交流していた人たちから聞いた話だ。以下に、その内容について綴っておく。
この「熱狂的読者を攫う怪異」は、もともと小説の読者を狙っていたわけではなかった。
事の発端は、今から三百年ほど昔まで遡る。
三百年前のここ日本では、長く続いていた戦乱の世が落ち着き、人々は平和の世を謳歌していた。人々の生活は豊かになって元禄文化が花開き、商才に長けていた町人の家では商いで儲け、大きな商家として発展していった家もあるという。
そうした世において、とある商家の主人は骨董品や娯楽品に魅了され、大きな蔵を建てては収集した品々を大切にしまい込み、暇があれば食い入るように眺め愛でていた。中でも、絵巻物や木版印刷による娯楽小説(当時、本は高価な物であった)に向ける気持ちは異常といってもよく、妻や実の息子、娘と過ごすよりも多くの時間を割いていたらしい。
当然、主人の家族は納得しなかった。怒りや不満を長年抱えていた彼ら彼女らは、主人が亡くなったあと、骨董品や娯楽品を蔵ごと燃やし尽くした。
しかし、この一件が悲劇の始まりであった。
元来、行き過ぎた強い感情のもとには、怪異が宿るという。主人がその生涯にわたって愛した出版物の山々についても例外ではなく、主人の絵巻物や娯楽小説に対する熱狂的な感情に惹かれ包み込まれていた怪異が、蔵には住み着いていた。
主人の強い思い入れがある品々ごと蔵を焼かれた怪異は怒り狂い、蔵を燃やした主人の妻や子どもたちを惨殺した。そしてその後、なくなってしまった熱狂的な感情が宿る物を求めて、あちこちを彷徨うようになった。
時には、絵画に宿った。
時には、生花に宿った。
時には、屏風に宿った。
時には、神社に宿った。
時には、恋をされている人間に宿った。
しかし、怪異には物足りなかったのか、感情を向けてきた者すべてを食らった。その熱狂的な感情を、内に取り込もうとした。
時には、絵画を眺めている人を頭から食らった。
時には、生花を愛でている人を手から食らった。
時には、屏風の前に座っている人を背後から食らった。
時には、神社に参拝しにきた人を地面に引きずり込んで食らった。
時には、恋人との接吻の最中に身体全体を飲み込んだ。
そうして現代まで、怪異はあらゆる場所や人や物に憑りつき、永らえてきた。
怪異が憑りつく対象には、必ず「物語」を必要とした。
そして6年前の当時、その怪異が標的としていたのは、「小説に熱狂的な感情を向ける読者」だったらしい。
その時の私も、常々不思議に思っていた。
素敵な作品が数多く投稿されているにもかかわらず、なぜか読者が増えていない小説投稿サイトがあった。
そのサイトは既に閉鎖されているらしいが、当時の登録しているアクティブユーザー(ここでは、「一週間に一回程度ログインしているユーザー」を指す)の全数に対して、読み専の方たちの数は一割程度だったとか。さらには、アクティブユーザーではない登録者の九割以上が読み専だった方たちらしいのだ。(正式な内訳や数値が公表されたわけではないはずなので、これもあくまでも噂だ。)
つまるところ、この噂が本当であれば、素晴らしい作品が数多く投稿されていたその小説投稿サイトに怪異が住み着き、物語に魅了された読者を片っ端から連れ去ったという推測が成り立つ。
正直、昨日の「隠れ鬼」の一件と同じくこれもありえない話だ。
行方不明になった私の親友がよく閲覧していた小説投稿サイトが、その閉鎖された噂の投稿サイトでなければ、私もすっかり忘れていた類の与太話だ。
そういえば、あの日。
私が親友の住んでいたアパートの部屋に入った時に見たパソコンの別タブに表示されていたのも、その小説投稿サイトだった気がする。
まあ、ただの偶然だろうとは思う。
一応、明日の調査の合間にネットで調べてみようとは思っているが、聞き込みなんかには直接関係のない話だ。それに、今ある小説投稿サイトでそのような不可解な現象が起きているものはないはずなので、過去の情報以外には目ぼしいものは見つからないと思う。
よし。
これで当初の予定通り、私が気にしていた三つの噂話についてまとめることができた。
もしこれらの噂話について、何か情報を持っているという読者がおられるようなら、ぜひとも情報提供をお願いしたい。
いよいよ明日は調査当日。
親友の昴>縺、縺のためにも、しっかりと頑張っていこう。
明日は待ちに待った休日……ではあるのだが、モキュメンタリーホラー小説コンテスト用の題材探し兼、親友の行方不明事件調査であちこちを回る予定だ。
今日もコンテスト用の執筆のためにいくつかホラー小説を読もうと思っていたのだが、さすがに一週間の疲れが出たのか集中力がまるでない。(正直、日記を書く元気もあまりない。)
ということで、明日のためにも今日はもう休もうと思う。
ただし、その前にどうしても最後の噂話についてはまとめておきたいので、今日は一日の振り返りもそこそこに早速まとめに入っていきたい。
私が気にしていた噂話のうちの最後のひとつは、「熱狂的読者を攫う怪異」というものだ。
昨今、様々な小説投稿サイトが運営されており、そこでは多種多様なWEB小説が執筆され、誰でも閲覧できるようになっている。各小説投稿サイトごとにも特色があり、異世界転生やスローライフといった異世界ファンタジーが数多く掲載されているものから、短編に特化したもの、女性向けの和風ファンタジー・溺愛ものをメインに扱っているものなど、じつに多くの投稿サイトがネット上で運営されている。中には出版社が積極的に運営し、定期的にコンテストを開催しているものもあり、かくいう私もそうした投稿サイトで毎回全力で小説を執筆・投稿し、応募をしている。
このように、書き手は数多ある小説投稿サイトの中から自分に合ったものを選び、作品を公開している。
一方で、この日記を読んでくださっている方々の中にもいると思うのだが、小説投稿サイトに登録しているユーザーには、書き手のほかに読書メインで登録しているユーザー、いわゆる「読み専」の人たちがいる。書き手のモチベーションの源泉であるPV数に大きく関係しており、時として感想やレビューをくれる大変ありがたい方たちだ。(いつも本当にありがとうございます。)
しかしこの読み専の方たちの数は、各投稿サイトによって天と地ほどの差がある。そしてこの数の差が、前述した「熱狂的読者を攫う怪異」と関係しているらしい。
つまり、熱狂的なまでに物語を読み、魅了されている読者を、その物語の世界へと引きずり込む怪異がいるという噂が、当時流れていたのだ。
ただし、流れていたといってもこれは大学での話ではない。私がまだ小説を書き始めて間もない頃、読み専から書き手へとシフトしていた時期に、SNSで交流していた人たちから聞いた話だ。以下に、その内容について綴っておく。
この「熱狂的読者を攫う怪異」は、もともと小説の読者を狙っていたわけではなかった。
事の発端は、今から三百年ほど昔まで遡る。
三百年前のここ日本では、長く続いていた戦乱の世が落ち着き、人々は平和の世を謳歌していた。人々の生活は豊かになって元禄文化が花開き、商才に長けていた町人の家では商いで儲け、大きな商家として発展していった家もあるという。
そうした世において、とある商家の主人は骨董品や娯楽品に魅了され、大きな蔵を建てては収集した品々を大切にしまい込み、暇があれば食い入るように眺め愛でていた。中でも、絵巻物や木版印刷による娯楽小説(当時、本は高価な物であった)に向ける気持ちは異常といってもよく、妻や実の息子、娘と過ごすよりも多くの時間を割いていたらしい。
当然、主人の家族は納得しなかった。怒りや不満を長年抱えていた彼ら彼女らは、主人が亡くなったあと、骨董品や娯楽品を蔵ごと燃やし尽くした。
しかし、この一件が悲劇の始まりであった。
元来、行き過ぎた強い感情のもとには、怪異が宿るという。主人がその生涯にわたって愛した出版物の山々についても例外ではなく、主人の絵巻物や娯楽小説に対する熱狂的な感情に惹かれ包み込まれていた怪異が、蔵には住み着いていた。
主人の強い思い入れがある品々ごと蔵を焼かれた怪異は怒り狂い、蔵を燃やした主人の妻や子どもたちを惨殺した。そしてその後、なくなってしまった熱狂的な感情が宿る物を求めて、あちこちを彷徨うようになった。
時には、絵画に宿った。
時には、生花に宿った。
時には、屏風に宿った。
時には、神社に宿った。
時には、恋をされている人間に宿った。
しかし、怪異には物足りなかったのか、感情を向けてきた者すべてを食らった。その熱狂的な感情を、内に取り込もうとした。
時には、絵画を眺めている人を頭から食らった。
時には、生花を愛でている人を手から食らった。
時には、屏風の前に座っている人を背後から食らった。
時には、神社に参拝しにきた人を地面に引きずり込んで食らった。
時には、恋人との接吻の最中に身体全体を飲み込んだ。
そうして現代まで、怪異はあらゆる場所や人や物に憑りつき、永らえてきた。
怪異が憑りつく対象には、必ず「物語」を必要とした。
そして6年前の当時、その怪異が標的としていたのは、「小説に熱狂的な感情を向ける読者」だったらしい。
その時の私も、常々不思議に思っていた。
素敵な作品が数多く投稿されているにもかかわらず、なぜか読者が増えていない小説投稿サイトがあった。
そのサイトは既に閉鎖されているらしいが、当時の登録しているアクティブユーザー(ここでは、「一週間に一回程度ログインしているユーザー」を指す)の全数に対して、読み専の方たちの数は一割程度だったとか。さらには、アクティブユーザーではない登録者の九割以上が読み専だった方たちらしいのだ。(正式な内訳や数値が公表されたわけではないはずなので、これもあくまでも噂だ。)
つまるところ、この噂が本当であれば、素晴らしい作品が数多く投稿されていたその小説投稿サイトに怪異が住み着き、物語に魅了された読者を片っ端から連れ去ったという推測が成り立つ。
正直、昨日の「隠れ鬼」の一件と同じくこれもありえない話だ。
行方不明になった私の親友がよく閲覧していた小説投稿サイトが、その閉鎖された噂の投稿サイトでなければ、私もすっかり忘れていた類の与太話だ。
そういえば、あの日。
私が親友の住んでいたアパートの部屋に入った時に見たパソコンの別タブに表示されていたのも、その小説投稿サイトだった気がする。
まあ、ただの偶然だろうとは思う。
一応、明日の調査の合間にネットで調べてみようとは思っているが、聞き込みなんかには直接関係のない話だ。それに、今ある小説投稿サイトでそのような不可解な現象が起きているものはないはずなので、過去の情報以外には目ぼしいものは見つからないと思う。
よし。
これで当初の予定通り、私が気にしていた三つの噂話についてまとめることができた。
もしこれらの噂話について、何か情報を持っているという読者がおられるようなら、ぜひとも情報提供をお願いしたい。
いよいよ明日は調査当日。
親友の昴>縺、縺のためにも、しっかりと頑張っていこう。