かつて、一部子どもたちの間で噂になっていた「隠れ鬼」の存在をご存知だろうか。

 子どもの頃によくやった遊び?
 いいや、違う。これは隠れ鬼ごっこ(・・・)のことではない。

 我々編集部がこの噂を知ったのは、小誌へ送られてきたとある手紙と写真がきっかけだった。
 まずは、その写真について見てもらいたい。







 そう。何の変哲もない風景写真だ。
 いや、そもそも風景を映したものというよりは、誤って撮ってしまった写真と言い表した方がいいかもしれない。画角も被写体もピントも何もかもがズレている。撮影者は、いったい何を写したかったのかわからない。

 最初は、違う写真を送ってしまったのかと編集部は思った。
 しかし、この写真に同封されていた手紙の冒頭を読んですぐ、そんな考えは吹き飛んでしまった。

 ――この写真は、2018年12月2日の午後5時22分。●●●●公園で撮られた写真です。

 先にお詫びしておくが、この公園の名前を今は出すことができない。
 理由は後述する。だが小誌の読者であれば、おそらく年月日からおおよその見当がついているのではないだろうか。
 
 この場所は、かの児童連続行方不明事件が起きた場所のひとつだ。
 しかも驚くべきことに、同封されていたこの写真は事件発生時刻に撮られた写真であるらしい。

 手紙を開封した我々は驚いた。すぐさまその先の文章にも目を通した。

 どうやら、この写真はやはり誤って撮影されたものらしかった。
 撮影したのは、●●●●公園の近くに住む当時小学校四年生の男子児童、Yくん(10歳)。
 Yくんは、学校が終わったあとに友達五人とともにこの公園へ赴き、隠れ鬼ごっこをしていた。公園は石のオブジェや大きな街灯、東屋など遮蔽物が多く、隠れ鬼ごっこをするのに適した場所だった。隠れ鬼ごっこは白熱し、一時間以上に渡って続いていたらしい。

 そんな折、Yくんたちは最後に一度仕切り直そうと、全員で集まって再び鬼決めをしようとしていた。
 公園自体は遮蔽物が多いとは言え、そこまで広くない。大声を出せばみんなに聞こえるほどの大きさだ。
 ゆえに、もう一度鬼を決めると叫んだ時は、石の柱の陰や茂みの後ろ、塀の後ろなどからぞろぞろと隠れていた子どもたちが姿を現した。時刻は午後5時に差し掛かろうとしており、辺りは夕陽によってオレンジ色に染まっていた。

 ところが、何度呼んでも友達のひとり、Aくんが姿を現さなかった。

 Yくんをはじめ、子どもたちはみんな不思議に思っただろう。ゲームそのものをやり直すのだから、一度全員で探し始めてもおかしくない。
 しかし、そこへ負けず嫌いで悪戯好きなKくんが言ったそうだ。「このまま仕切り直した新しい隠れ鬼ごっこを始めて、Aくんを混乱させよう」と。隠れ鬼ごっこが白熱していたこともあり、Kくんの提案は受け入れられた。

 そうして始まった、仕切り直しの隠れ鬼ごっこ。その最中にAくんがひょっこり見つかり、訳もわからないまま鬼に捕まってしまう、というのがオチだったはずだ。
 ところが、さらに鬼が何度か変わるほど続けても、Aくんは一向に姿を見せなかった。いよいよ不思議に思ったみんなは、隠れ鬼ごっこを中断してAくんを探そうということになった。

 しかしここで、さらなる恐怖が子どもたちを襲った。
 なんと、先ほどまでいたKくんもいなくなってしまったのだ。

 町内の大人たちや警察まで出動し、AくんとKくんの捜索が行われたが、ついぞ二人は姿を見せることはなかったという。

 編集部はすぐさま緊急会議を開いた。
 手紙の内容は非常に具体的で、我々が独自に調べていた内容とも一致する部分が多々あった。

 当時、●●●●公園での行方不明事件も含めて似たような事件があちこちで相次いでいた。しかもその対象は全て小学生であり、警察は連続誘拐事件として捜査を進めていた。私たち編集部もその話題性の観点から取材を続けていた。
 しかし、結局6年経った今でも犯人の情報や目星について全く掴めていない。捜査も取材も滞り、話題性が冷めてきた最近では取り上げることも少なくなっていた。本格的に調査は打ち切り、別のものを始める案まで浮上してきていた。

 この手紙が届いたのは、そんな矢先のことだった。
 しかも手紙の送り主は、この一連の出来事の原因を「人ならざるもの」と見ているようだった。

 ――この事件は、「本物の隠れ鬼」の仕業だと思います。

 丁寧な筆致で、手紙にはそう書かれていた。

 本物の隠れ鬼。
 手紙の送り主によれば、それは独特な言葉を発しながら隠れている人を見つけて捕まえ、自身の世界に連れ去って隠れ鬼ごっこをさせる怪異らしい。
 そして、その隠れ鬼ごっこに負けて捕まった場合、連れ去られた人は喰われてしまうのだそうだ。

 編集部では、すぐにこの「本物の隠れ鬼」の噂について検索をかけた。なかなか引っ掛からなかったが、とあるオカルト系のまとめサイトでようやく手がかりを見つけた。
 そこには、下記のようなことが書いてあった。


○「本物の隠れ鬼」の噂についてのネット情報
・夕暮れ時に墓の見える場所で隠れ鬼ごっこをしていると、参加者とは別に「本物の隠れ鬼」が紛れ込む
・隠れている時に、「本物の隠れ鬼」に見つかり捕まると攫われる
・「本物の隠れ鬼」は前髪の長い子どもの姿をしており、朱色に染まったボロボロの服を着ている
・「本物の隠れ鬼」に攫われると、連れて行かれた先でもう一度隠れ鬼をやらされ、逃げ切った場合は元の場所に戻れるが、捕まった場合は喰われてしまう


 編集部は、過去の取材データを全て見返した。すると、驚くべきことが判明した。
 確かに、これまでの行方不明事件が起きていた場所はどこも、墓所や霊園にほど近い広場や公園であったのだ。
 協議の結果、編集部はひとまず手紙を送ってくれた人に話を聞くことにした。また、取材場所はその写真が撮られた●●●●公園でおこなった。


○手紙の送り主、Iさん(Yさんのご兄弟、20歳、県内在住)への取材内容 ※一部抜粋

編集部(以下、「編」):「いただいた写真と手紙を拝見しましたが、あの写真は具体的には何を写したものなのですか?」

Iさん(以下、「I」):「わかりません。あの写真は、Yが当時隠れていた場所から撮られたものです。なんでも、何かがいたような気がして慌てて撮影したと言っていました。その時は動物か何かだと思ったそうですが、あとで見返すと何も写ってなかったそうです」

編:「なるほど。もしかするとそれが『本物の隠れ鬼』かもしれない、ということですか?」

I:「そうです。つい最近Yからその話を聞いて、怪談話が好きだった私が『本物の隠れ鬼』の可能性に思い至り、お送りさせていただきました。編集部さんの方で、解析でもなんでもしていただけると」
(後日、専門家にも写真を見てもらい、画像解析もおこなったが、やはり何も写っていなかった。)

編:「他にも撮られた写真はないのですか?」

I:「写真はないですが、同じようなことを言っていた友達が何人かいたらしいです。その友達が隠れていた場所も聞いたので案内します」





↑友達Cさんが隠れていた、木々のある場所。
 木の陰に身を潜めていた時、同じように木の陰からこちらを眺めている視線を感じたらしい。その時は別の隠れ役の友達かと思っていたが、当時この付近に隠れていた友達はいなかった。





↑友達Nさんが隠れていた、ベンチや茂みのある場所。
 ベンチの下に寝そべるように隠れていた時、すぐ近くに何かがいる気配を感じたらしい。Yさんと同じく、動物か何かだと思っていたとのこと。





↑友達Rさんが隠れていた、石垣のある場所。
 石垣の陰から鬼役の友達の様子をうかがっていた時、不意に後ろから近づいてくる音が聞こえてきたらしい。すぐに振り返ったが、誰もいなかった。



編:「案内ありがとうございます。その違和感を覚えた友達は無事だったんですよね?」

I:「そのように聞いています。違和感があったのはその時だけで、今は何事もなく普通の生活を送っていると」


 また、怪談話に詳しいというIさんに『本物の隠れ鬼』についてもうかがった。


編:「では次に、『本物の隠れ鬼』について教えてください。まず確認ですが、『本物の隠れ鬼』というのは、『隠れ鬼ごっこをしていて隠れている時に参加者に紛れ、隠れ役の子を連れ去る怪異』という認識で合っていますか?」

I:「そうです。私も亡くなった祖父から伝え聞いたのですが、この辺りでは昔から神隠しがあるようなのです。そしてそれは、決まってかくれんぼや隠れ鬼ごっこをしている時に起こっていたと」

編:「おや、ということは、『本物の隠れ鬼』はかくれんぼの時にも現れるのですか?」

I:「そうですね。元々は『隠れている人を攫う鬼』という意味で、その怪異のことを『隠れ鬼』と呼んでいたみたいですから」

編:「なるほど。ちなみに手紙には『本物の隠れ鬼は、独特の言葉を発して追いかけてくる』とありましたが、この『独特の言葉』というのはなんでしょうか?」

I:「えっと、二つありまして。対象を見つけた時に、『みーつけた。お逃げーなさい』と言うらしいです。そしてもうひとつは、対象を追いかける時に、『ほーらはやく。お逃げーなさい』と繰り返し唱えてくるとか」

編:「いかにもな怪談って感じですね」

I:「そうですね。これは私も聞いた時、祖父か誰かが後から付け足した尾ひれなんじゃないかなって思いました。だから手紙には具体的に書かなかったんですが。それに普通の隠れ鬼ごっこって、隠れ役の人を見つけても何も言わずに追いかけていくじゃないですか。だから結構、独特だなって思いました」


 以前、編集部でも特集で取り上げたことがあるが、ごっこ遊びには地域ごとのローカルルールがあることが多い。
 隠れ鬼ごっこについても、隠れ役を見つけた時に「みーつけた」とかくれんぼのように言葉を発する地域があった。●●●●公園のある本地域については裏付けが取れなかったが、そこから派生した話である可能性は高いと考えられる。
 そして、これはひとつの仮説ではあるのだが、もしかすると児童連続行方不明事件が起こった地域は、このローカルルールが存在している地域ではないだろうか。
 もしそうだとするならば、この「本物の隠れ鬼」による神隠しの可能性は飛躍的に上昇する。

 今後、編集部は児童連続行方不明事件が起こった地域を改めて訪れ、当時の状況を今一度洗い出していく予定だ。
 もし本事件の犯人が人間ではなく、正体不明の怪異である場合、我々はどのように対処していけばいいのか。
 しかも「本物の隠れ鬼」は、隠れ鬼ごっこに限らず、「隠れている人を攫う鬼」である可能性が高いのだ。ともすれば、我々とて全くの他人事ではないことになる。
 読者の皆様も、何かから隠れる場合はくれぐれも注意していただきたい。
 小誌では、数回にわたって「本物の隠れ鬼」についての調査結果の記事を掲載していく予定であり、そちらも参考にしていただければ幸いである。


 それでは最後に、本記事において●●●●公園と具体的な場所を伏せた理由について述べて終わりにしたい。


 我々が●●●●と伏せた理由は二つある。


 一つ目は、読者の皆様の興味を引かせるため。多くの人は、何かを意図的に隠されると無意識のうちにその正体を知りたくなるものだ。我々は皆様に、本文の場所まで読んでいただきたかった。


 二つ目は、文字化けを起こしてしまうため。


 ●●●●公園とは、荳画ョ頑」ョ譫公園である。


 おそらく、文字化けを起こしているのではないだろうか。


 ご心配には及ばない。この世界では、しっかりと読むことができるだろうから。


 本当に申し訳ない。しかし、この方法でしか対処する術はないらしいのだ。


 どうか、なるべく早くこの場所に来ていただきたい。


 検索手段は使える。
 そして、なるべく落ち着いて。深呼吸を何度もして。
 大丈夫だ。あいつは、目が見えないのだから。


 そしてどうか、どうか。


 あの怪異の身代わりとして魅入られたアナタが、最後まで無事であることを祈っている。