一晩寝て、少し落ち着いた。
そうだ。親友は大病を患っていたが、薬を飲んでいれば命に別状はないものだとお兄さんは言っていた。
昨日は急にまとめを終わらせてしまったので、今日は最後までまとめ切りたいと思う。そして、もし追加で知っている情報や、他の意見等があれば遠慮なく教えていただきたい。
まずは、そう。お兄さんの智也さんについて簡潔に紹介させていただく。
智也さんは、私たちよりも三つ歳上の、県内でも有数の大手銀行に勤める金融マンだ。既に結婚されており、先週の日曜日は家族サービスで水族館に行っていたらしい。とても思いやりのある優しい穏やかな方で、私も子どもの頃はよく遊んでもらっていたものだ。
そんな智也さんも、弟である親友が突然行方をくらませたことが不可解で、あれこれと手を尽くして調べていたらしいが、当初はむしろ逆だったそうだ。
「弟は、心臓に大きな病を患っていたんです」
智也さんの口からこの言葉が発せられた時、私は頭が真っ白になった。
まさか、昴>縺、縺は、その病気が原因で行方不明に?
最後の心残りである海外のファンタジー小説を読破して、余韻に浸ったあとこっそりとアパートを出た?
そしてまさか、その後は自ら……?
悪い予想ばかりが脳裏に浮かんだ。私は間違いなくフリーズしていた。
けれど、智也さんがすぐに私を現実に引き戻して、詳しい説明をしてくれた。
親友の病気は薬をしっかり飲めば日常生活は送れるものだったこと。
自分も最初は同じこと考えたが、それだと昴>縺、縺らしくないこと。
昴>縺、縺は病気のことを医者から告げられた時も、命ある限りしっかり生き抜くと笑って言っていたこと。
智也さんの言葉を聞いて、確かにあいつはそんなやつだったと思い出した。
もちろん確実ではないが、やはり彼が病気を苦にして自殺を図るとは考えにくかった。
彼なら笑って、「じゃあ今まで通り全力で生きていくだけだな」なんて言うに違いないだろうから。
ただそうなると、やはりまた原点の疑問に戻る。
私の親友は、どうして姿を消してしまったのか、ということだ。
これについては、智也さんも相当調べていた。
私が気にしていた「隠れ鬼」なんかの噂はもちろん、「ヨミクイ」についても調べていたようだった。
その上で、私は絵空事だと思うがと前置きしつつ、「ヨミクイ」に連れ去られた可能性を問うてみた。半分冗談混じりで、あくまでも参考程度にと言葉の予防線も張りながら訊いてみた。
けれど智也さんは、至極真面目な面持ちで、親友のスマホを見せてきた。
そこには、こう書かれていた。
縺?▽縺
俺は今翫?√?悟小説に取り憑き、読ュ閠?r喰ー縺?喧物」から蛾??£て縺?k
小説を読んで縺?◆ら縲変な場謇?に飛縺ーされたん縺?
ど縺?dら縲俺は3456日騾?£なければ縺?¢な縺?iしい
騾?£蛻?lるわけがな縺
そ縺ョ前に俺の命が尽きてしま縺
もし俺のことを探して、この譁?ォ?を読んでしまって縺?kのなら縲今すぐ騾?£繧
それは、一部が文字化けを起こした文章だった。
そして、文字化けと思われる箇所を●●に変換すると、下記のようになる。
●●
俺は今●●小説に取り憑き、読●●喰●●物」から●●て●●
小説を読んで●●ら●●変な場●●に飛●●されたん●●
ど●●ら●●俺は3456日●●なければ●●な●●しい
●●るわけがな●●
そ●●前に俺の命が尽きてしま●●
もし俺のことを探して、この●●を読んでしまって●●のなら●●今すぐ●●
私は、この時以上に自分の目を疑ったことはなかった。
文字化けはツールを使って復元しようとしてみたが、いつかの日記にあったらしい文字化けと同じく復元は叶わなかった。
一晩中考え、無理やり睡眠と仕事で頭をリセットした今でも、信じられない気持ちでいっぱいだ。
目にしたくない言葉ばかりが、そこには並んでいた。
まず、「小説に取り憑き」と「読●●喰●●物」の部分なんかは顕著だ。
これはほぼ間違いなく、小説を媒介に人を喰う怪異、ヨミクイのことを指している。大方、「小説に取り憑き、読み手を喰う化け物」といったところだろう。
そして三行目も、「小説を読んでいたら、変な場所に飛ばされた」といった文言が推測できる。
つまり、私の親友は「小説を読んでいたら変な場所に飛ばされ」、「小説に取り憑き、読み手を喰う化け物」から何かをしていることになる。
この何か、は考えるまでもない。逃げている、のだ。
しかも、四行目にある日数は、「3456日」となっている。
この数値を目にした時、私は智也さんと一緒に親友が最後に読んでいたと思しきファンタジー小説と漫画の総ページ数を数えてみた。ぴったり、3456ページだった。
3456日。つまりは、約9年だ。
それだけの長い年月を、ヨミクイから逃げる必要がある。
直感的に、無理だと思った。
しかも、親友は心臓に病を抱えている。その病が、ヨミクイの世界でも彼を苦しめるのかはわからないが、もしそうだとするならばさらに彼の生存は絶望的だ。
この文字列が書かれていたのは、親友のスマホのメモ帳アプリだった。
保存された年月は文字化けしており、それがいつなのかはわからなかった。
智也さん曰く、初めてこのスマホを見つけた時はこの文字はなかったらしい。警察にも数日預けていたが、特に何も言われずに返却されたそうだ。それからはずっと親友のパソコンや小説などの持ち物と一緒にダンボールに入れて保管していたとのことで、誰かが悪戯で入力したといったこともなさそうだった。
その後、改めて智也さんと一緒に親友のスマホやパソコンについても調べてみた。
スマホには他に気になるようなものはなかったが、パソコンの履歴には案の定、私たちが通っていた大学のドメインが入っていたサイトのほか、ヨミクイが寄生していたと噂の小説投稿サイトのURLが残っていた。(幸いにも、閉鎖しているサイトなので開くことはできなかった。)
正直、もうこれ以上は調べたくない。
出てくる情報がすべて、ヨミクイの噂に繋がっている。
もしかしたら、今この瞬間にも、私はヨミクイに見入られているかもしれない。
いや、今は日記を書いているのだからありえないか。
それに、私は昨日今日と小説を読んでいないし。というか、もう怖くて読む気も起きない。
私は、どうすればいいんだろうか。
親友のスマホやパソコンについては、智也さんからいったん預かっている。小説だけはなんとなく怖く、また量も非常に多かったので親友の実家に置いたままになっている。
この日記を書いている今も、片手間に彼のスマホやパソコンを開いて調べているが、相変わらずこれ以上の手掛かりは出てこない。
もし親友がヨミクイの世界にいるのならば、私は彼を待つことしかできないのか。
彼が3456日という途方もない時間を逃げ切るか、あるいは彼が書き物をして誰かを身代わりにするか。
でもあいつの性格上、身代わりというやり方はとらないはずだ。なにがなんでも逃げ切ってやると息巻いて、持ち前の地頭をフル回転させて、きっと何かしらの手段で逃げ切ってくれるはずだ。
病気のことは祈るしかないが、きっと彼なら、昴>縺、縺なら、大丈夫なはずだ。
私には、やはり信じて待つことしかできない。
引き続き、このスマホを調べたり、より多くのヨミクイについての情報を集めたりしていきたいと思っている。
ヨミクイへの対処法や、ヨミクイの世界に連れて行かれた人はどうすればいいか。そんな情報を掴むことができれば御の字だ。
どうか皆さまにも、ご協力をお願いしたい。
それにしても、親友のスマホにあるこの文章はいつ書かれたんだろうか。
今見ても、文字化けしてい
そうだ。親友は大病を患っていたが、薬を飲んでいれば命に別状はないものだとお兄さんは言っていた。
昨日は急にまとめを終わらせてしまったので、今日は最後までまとめ切りたいと思う。そして、もし追加で知っている情報や、他の意見等があれば遠慮なく教えていただきたい。
まずは、そう。お兄さんの智也さんについて簡潔に紹介させていただく。
智也さんは、私たちよりも三つ歳上の、県内でも有数の大手銀行に勤める金融マンだ。既に結婚されており、先週の日曜日は家族サービスで水族館に行っていたらしい。とても思いやりのある優しい穏やかな方で、私も子どもの頃はよく遊んでもらっていたものだ。
そんな智也さんも、弟である親友が突然行方をくらませたことが不可解で、あれこれと手を尽くして調べていたらしいが、当初はむしろ逆だったそうだ。
「弟は、心臓に大きな病を患っていたんです」
智也さんの口からこの言葉が発せられた時、私は頭が真っ白になった。
まさか、昴>縺、縺は、その病気が原因で行方不明に?
最後の心残りである海外のファンタジー小説を読破して、余韻に浸ったあとこっそりとアパートを出た?
そしてまさか、その後は自ら……?
悪い予想ばかりが脳裏に浮かんだ。私は間違いなくフリーズしていた。
けれど、智也さんがすぐに私を現実に引き戻して、詳しい説明をしてくれた。
親友の病気は薬をしっかり飲めば日常生活は送れるものだったこと。
自分も最初は同じこと考えたが、それだと昴>縺、縺らしくないこと。
昴>縺、縺は病気のことを医者から告げられた時も、命ある限りしっかり生き抜くと笑って言っていたこと。
智也さんの言葉を聞いて、確かにあいつはそんなやつだったと思い出した。
もちろん確実ではないが、やはり彼が病気を苦にして自殺を図るとは考えにくかった。
彼なら笑って、「じゃあ今まで通り全力で生きていくだけだな」なんて言うに違いないだろうから。
ただそうなると、やはりまた原点の疑問に戻る。
私の親友は、どうして姿を消してしまったのか、ということだ。
これについては、智也さんも相当調べていた。
私が気にしていた「隠れ鬼」なんかの噂はもちろん、「ヨミクイ」についても調べていたようだった。
その上で、私は絵空事だと思うがと前置きしつつ、「ヨミクイ」に連れ去られた可能性を問うてみた。半分冗談混じりで、あくまでも参考程度にと言葉の予防線も張りながら訊いてみた。
けれど智也さんは、至極真面目な面持ちで、親友のスマホを見せてきた。
そこには、こう書かれていた。
縺?▽縺
俺は今翫?√?悟小説に取り憑き、読ュ閠?r喰ー縺?喧物」から蛾??£て縺?k
小説を読んで縺?◆ら縲変な場謇?に飛縺ーされたん縺?
ど縺?dら縲俺は3456日騾?£なければ縺?¢な縺?iしい
騾?£蛻?lるわけがな縺
そ縺ョ前に俺の命が尽きてしま縺
もし俺のことを探して、この譁?ォ?を読んでしまって縺?kのなら縲今すぐ騾?£繧
それは、一部が文字化けを起こした文章だった。
そして、文字化けと思われる箇所を●●に変換すると、下記のようになる。
●●
俺は今●●小説に取り憑き、読●●喰●●物」から●●て●●
小説を読んで●●ら●●変な場●●に飛●●されたん●●
ど●●ら●●俺は3456日●●なければ●●な●●しい
●●るわけがな●●
そ●●前に俺の命が尽きてしま●●
もし俺のことを探して、この●●を読んでしまって●●のなら●●今すぐ●●
私は、この時以上に自分の目を疑ったことはなかった。
文字化けはツールを使って復元しようとしてみたが、いつかの日記にあったらしい文字化けと同じく復元は叶わなかった。
一晩中考え、無理やり睡眠と仕事で頭をリセットした今でも、信じられない気持ちでいっぱいだ。
目にしたくない言葉ばかりが、そこには並んでいた。
まず、「小説に取り憑き」と「読●●喰●●物」の部分なんかは顕著だ。
これはほぼ間違いなく、小説を媒介に人を喰う怪異、ヨミクイのことを指している。大方、「小説に取り憑き、読み手を喰う化け物」といったところだろう。
そして三行目も、「小説を読んでいたら、変な場所に飛ばされた」といった文言が推測できる。
つまり、私の親友は「小説を読んでいたら変な場所に飛ばされ」、「小説に取り憑き、読み手を喰う化け物」から何かをしていることになる。
この何か、は考えるまでもない。逃げている、のだ。
しかも、四行目にある日数は、「3456日」となっている。
この数値を目にした時、私は智也さんと一緒に親友が最後に読んでいたと思しきファンタジー小説と漫画の総ページ数を数えてみた。ぴったり、3456ページだった。
3456日。つまりは、約9年だ。
それだけの長い年月を、ヨミクイから逃げる必要がある。
直感的に、無理だと思った。
しかも、親友は心臓に病を抱えている。その病が、ヨミクイの世界でも彼を苦しめるのかはわからないが、もしそうだとするならばさらに彼の生存は絶望的だ。
この文字列が書かれていたのは、親友のスマホのメモ帳アプリだった。
保存された年月は文字化けしており、それがいつなのかはわからなかった。
智也さん曰く、初めてこのスマホを見つけた時はこの文字はなかったらしい。警察にも数日預けていたが、特に何も言われずに返却されたそうだ。それからはずっと親友のパソコンや小説などの持ち物と一緒にダンボールに入れて保管していたとのことで、誰かが悪戯で入力したといったこともなさそうだった。
その後、改めて智也さんと一緒に親友のスマホやパソコンについても調べてみた。
スマホには他に気になるようなものはなかったが、パソコンの履歴には案の定、私たちが通っていた大学のドメインが入っていたサイトのほか、ヨミクイが寄生していたと噂の小説投稿サイトのURLが残っていた。(幸いにも、閉鎖しているサイトなので開くことはできなかった。)
正直、もうこれ以上は調べたくない。
出てくる情報がすべて、ヨミクイの噂に繋がっている。
もしかしたら、今この瞬間にも、私はヨミクイに見入られているかもしれない。
いや、今は日記を書いているのだからありえないか。
それに、私は昨日今日と小説を読んでいないし。というか、もう怖くて読む気も起きない。
私は、どうすればいいんだろうか。
親友のスマホやパソコンについては、智也さんからいったん預かっている。小説だけはなんとなく怖く、また量も非常に多かったので親友の実家に置いたままになっている。
この日記を書いている今も、片手間に彼のスマホやパソコンを開いて調べているが、相変わらずこれ以上の手掛かりは出てこない。
もし親友がヨミクイの世界にいるのならば、私は彼を待つことしかできないのか。
彼が3456日という途方もない時間を逃げ切るか、あるいは彼が書き物をして誰かを身代わりにするか。
でもあいつの性格上、身代わりというやり方はとらないはずだ。なにがなんでも逃げ切ってやると息巻いて、持ち前の地頭をフル回転させて、きっと何かしらの手段で逃げ切ってくれるはずだ。
病気のことは祈るしかないが、きっと彼なら、昴>縺、縺なら、大丈夫なはずだ。
私には、やはり信じて待つことしかできない。
引き続き、このスマホを調べたり、より多くのヨミクイについての情報を集めたりしていきたいと思っている。
ヨミクイへの対処法や、ヨミクイの世界に連れて行かれた人はどうすればいいか。そんな情報を掴むことができれば御の字だ。
どうか皆さまにも、ご協力をお願いしたい。
それにしても、親友のスマホにあるこの文章はいつ書かれたんだろうか。
今見ても、文字化けしてい