私の親友を見つけるまで

 17日のことを小分けにしてまとめていたら、いつの間にか木曜日になっていた。
 次の日曜日は、親友の大学時代の友達で、同じダンスサークルに所属していた加藤さんと、親友のお兄さんである智也さんと会う予定だ。
 今週も少しSNSでやり取りしているのだが、どうやら加藤さんは私の親友が行方不明になる3日前に会っていたらしい。しかも、親友のアパートで宅飲みをしていたとのことだ。そんな直近で会っていたのなら、親友がいなくなる直前の行動や様子なんかを聞くことができる。警察にもいろいろ事情を聞かれたらしく、初めての経験ということもあって未だに覚えているようだ。
 そして智也さんは、弟である親友が行方不明になる直近に会っていたといったことはないものの、警察が彼の部屋を調べた時に同席し、その後やむなくアパートを引き払うことになった際には片付けをしていたらしい。その時の様子を聞きたいのはもちろんのこと、私が気になっている親友のパソコンなんかも智也さんが管理しているらしいので、それらを見せてもらうことになっている。

 次回の調査で、行方不明に関する何らかの糸口が見つかれば御の字だ。
 それらをどうにかしてまとめ、一部虚構を交えたモキュメンタリーホラー小説として書き上げればコンテストに出すことができる。書き上げて公開することで不特定多数に読んでもらえる可能性が高まるし、もしコンテストで受賞し書籍化できればさらに多くの人に読んでもらえるはずだ。
 そしてもし私の親友がどこかで生きているならば、あの小説好きな彼のことだからきっと目にするはずだ。しかも彼の好きなジャンルはミステリーやホラーやサスペンスといった、ヒリヒリハラハラドキドキするタイプのジャンルなので、きっと注目してくれる。私はそこを目指して、どうしても書き上げないといけない。

 ただ、もし調査で糸口がまったく見えなかった場合は、当初の予定通り収集できた噂の情報を題材に小説を書き上げる一方で、別の策も考えている。
 それは、この日記そのものを題材に、モキュメンタリーホラー小説コンテストに応募することだ。
 日記を見直してみて思ったのだが、この日記は一種のドキュメンタリー式で書かれた読み物だ。ここに虚構を入れ込み、視点を変えたり加えたりすればモキュメンタリー小説になるはずだ。そして探っている内容もまさにホラーそのものだし、私の当初の目的についても達成できるし、実現できるほどの筆力があるかどうかは別としてやってみる価値はある。私は転んでもただでは起きない。


 それにしても、モキュメンタリーホラー小説コンテストに参加すると決めてから早くも10日が経った。最初のころは、モキュメンタリーホラー小説への興味を明言した過去の自分の投稿を省みての参加表明だったが、親友の行方不明の一件を起点にあれこれと情報収集をしていく中で随分と気持ちも変わっていったものだ。

 当初、親友の行方不明事件の情報収集は、モキュメンタリーホラー小説の題材探しの付随的な位置づけとして考えていた。つまり、題材探しが主軸にあった。
 ところが、今はむしろ親友の行方不明事件の真相解明が主目的になっている。この主目的を少しでも達成に近づけるための、モキュメンタリーホラー小説の題材の在り方を探している。
 いつの間にか、副題に考えていたことが主題に取って代わってしまっていたのだ。普段書いている小説ならテーマぶれもいいところだが、これは日記だ。現状の私の内心を、素直な気持ちを、ありのままに綴っている。おおよそ人とはこんなもので、行動していくうちに本当にしたいことが見つかるんだろう。この心境の変化を見返すのも日記の醍醐味のひとつだ。


 とまあ、そんなこんなの思索・思惑もさることながら、まずはしっかりと調査した結果についてまとめきりたい。
 今日は最後、親友の実家に訪問し、彼のお母さんから聞いたことをもとに私の考えをまとめていく。


 そもそも、親友の行方不明事件にはいくつか気になる点があった。
 まず、親友が何の手掛かりも残さずにいきなり消えてしまったことだ。
 普通、行方不明になる時(そもそも行方不明になること自体が普通ではないが)には、何か普段と異なっている前兆があることが多いらしい。
 例えば、何かに悩んでいる様子だったとか、あるいは身近な人に相談事を持ち掛けていたといったことだ。
 しかし、こと親友の一件に限っていえば、そういったことは全くなかった。

「あの子、いなくなった日の前の週も普通だったわ」

 彼のお母さんは、ゆっくりと私に最後に会った時のことを教えてくれた。
 親友はいなくなった前の週の日曜日に、実家に帰ってきていたらしい。バイト先の後輩に貸すとかで、昔使っていたボードゲームを取りにきたようだった。それから実家でそのまま昼ご飯を食べていったが、その時の親友は普段通り大学生活のことやバイト先のこと、そして私のことを話して楽しそうに笑っていたらしい。悩みがあるとか、何かに怯えているだとか、そうした「異常」はまったくなかったみたいだった。

 それはつまり、親友が何か個人的な悩みを持っていて今の生活から逃げたり、あるいは何らかの計画的な事件に巻き込まれたりした可能性は低いことを物語っている。おそらくは、「突発的な何か」によって行方をくらませてしまったのだ。

 それでは、「突発的な何か」とは何か。
 人為的な事件であれば、親友の行動範囲や彼の住んでいたアパートの付近で何かしらの手掛かりが得られるはずだ。そこで私は、なくなっていた彼の車に目を付けた。彼が、車でどこかに出かけた際に事件か事故に巻き込まれた可能性だ。
 しかしこの可能性はすぐに潰えた。
 なんでも、私が親友のアパートを訪れた3日前にバイト先の後輩に貸しており、親友がいなくなった数日後にその後輩が慌てて返しにきたらしい。(ちなみに、先ほどのボードゲームを貸したのもこの後輩だった。)
 念のため、車は警察が一通り調べたが不審な点はなく、すぐに実家の元へ帰ってきたようだった。その話を聞いて案内された車庫には、まさに親友の車があった。

 次に手掛かりがあるとすれば、もぬけの殻となっていた親友のアパートの部屋だ。
 彼の行方不明は、私が彼の両親に電話をしたことで判明した。つまり、行方不明のきっかけとなる出来事が起こった後に、あの部屋に最初に立ち入った部外者は私のはずだ。だから、手掛かりがあるとすれば必ず見ているはずだった。

 あの時、私が彼の部屋に入った時、玄関のドアの鍵は開いていた。コーヒーは冷めた状態だったが半分以上残っていたし、パソコンの電源もついていた。まるで、部屋でくつろぎながら課題をしていた時に何かが起こって、慌てて部屋から飛び出したみたいだった。

 しかも、親友のお母さんに聞いたところによると、彼のスマホはソファの上に置きっぱなしになっていたらしい。中身は見ておらず、そのスマホは智也さんが保管しているとのことだった。(日曜日にそのスマホも見せてくれるように智也さんには頼んだ。)
 さらには、財布やキーケースといった貴重品類もそのままになっていたとのことで、ここでいよいよ「まるで、部屋でくつろぎながら課題をしていた時に何かが起こって、慌てて部屋から飛び出したみたい」という私の想像は現実味を帯びつつあった。

 しかし。だとするならば、あの部屋で何が起こったのだろうか。
 その手掛かりがありそうなのはスマホだ。誰かから電話があったとか、メッセージが送られてきたとか、そういった連絡によるものが一番可能性としては高い。また同じ理由として、彼のつきっぱなしになっていたパソコンにも手掛かりがあるかもしれない。(どちらも次の日曜日に確認する予定。)

 だが、その肝心のスマホに加え、財布も持たずに部屋を飛び出す出来事とはなんだろうか。
 それほどの性急さを要する出来事なんて、それこそ災害とか命の危機に関わることしか思い浮かばない。

 彼のお母さんとも、日曜日にその辺りまで話をし、あれやこれやと推測を論じた。しかし、結局私たちはこれといって納得できるような結論には至れなかった。そして最後に、彼の自室を見せてもらうことになった。

 彼の自室は、まさしくあの時のアパートの部屋と同じ、彼の性格が表れている場所だ。あの時私が見た彼のアパートの部屋に何か手掛かりがあったならば、実家の彼の自室と比較することで思い出すかもしれない。そんな、すがるような気持ちで私は彼の自室に入った。
 
 実家にある彼の自室は、アパートの部屋と同じく散らかっていた。彼がいなくなって6年経った今でも、ほとんどそのままにしてあるらしかった。
 ローテーブルの上には何かの書類が乱雑に積まれており、ベッドやソファーには衣服が散乱していた。壁際には、綺麗に小説や漫画が並べられた本棚が3つも置いてあった。

 そこで、私はようやく思い至った。
 12日の日記にも書いたが、私の心には手がかりとも呼べない引っかかりがあった。
 あの時、私はアパートの彼の部屋に、なんらかの違和感を覚えていた。
 けれど、それが何かは言語化できずにいた。なんとなく彼らしくない、そんな程度だった。

 私が覚えた違和感。それは、小説や漫画が棚にもテーブルにも置かれておらず、床に平積みにされていたことだ。

 親友は本を大切にしていた。小説も漫画も、必ず読まない時は本棚に綺麗にしまっていた。
 一方で、親友にはひとつの癖があった。小説や漫画を読み耽った後、それらをすぐ傍に平積みにして眺め、余韻に浸る癖だ。

 あの時、確かに小説や漫画が平積みにされていた。
 つまり、親友の身に何かが起こったのは、その余韻に浸っている最中だったということだ。しかも、すぐ傍にあったそれらの本が高々と積まれていたままということは、急いで飛び出した可能性も低くなる。スマホや財布すらも置いて出ていくほど焦っていたのであれば、すぐ近くにある高積みにされた本はほぼ間違いなく床に散乱していたはずだからだ。

 そして。それほどまでに普段通りの部屋であるにもかかわらず彼がいなくなったということと、私がこれまで調べてきた「あの噂」を照らし合わせるとひとつの可能性が浮上する。

 正直、ありえないと思う。

 今すぐにでもそんな考えは振り払いたい。

 日曜日はおろか、その噂についてまとめている時でさえ、私は必死に考えないようにしてきた。

 私が今なお平静でいられるのは、それが「ありえない」とまだ本気で思えているからだ。

 いずれにせよ、私はこの考えを日曜日に加藤さんと智也さんに話してみようと思う。
 二人とも、「ありえない」ときっと言ってくれると信じて。

 そうだ。大丈夫だ。

 ヨミクイなんて、いるはずがない。
 しまった。
 昨日は初めて日記を書かない日を過ごしてしまった。
 いや、ここで弁明をひとつさせてもらうならば、もうホラーのことを考えたくなくて全く関係ない小説を読み漁っていたからだ。(おいおい)
 そして前に書いたあるあるが発動してしまった。

 そうだ。気づいたら深夜2時だった。
 いわゆる、丑三つ時だ。そんな時間に、小説と現実の世界との境界が曖昧になるモキュメンタリーホラー小説の構想なんて練ってみろ。きっと今ごろ私はこうして日記なんて書いていることはできない。主に寝不足的な意味でだ。断じてヨミクイなんて知らない。

 というわけで、昨日はモキュメンタリーホラー小説については一切何もしていない。
 しかし、そのままでは私はきっとすぐさま堕落してしまう。ということで休息は一日だけにし、今日もまたモキュメンタリーホラー小説についていろいろと考えていた。

 まず「隠れ鬼」については、ひとつ短編を書いてみることにした。そのために、17日に取材で行ったはいいものの、撮り忘れていた写真を今日の仕事終わりに寄り道して撮ってきたところだ。







 写真の場所なんかは、まさに「隠れ鬼」のシーンなんかで使えそうな絵面だ。実際、雄太くんたちはこうした場所を上手く利用して隠れ鬼をしていたらしいし、石垣の陰なんかはまさに「隠れ鬼」の登場しそうなシーンとして書けそうだ。







 それと、この場所も忘れてはならない。
 いわゆる、AくんやKくんが隠れていたらしい、旧忠霊塔の納骨堂だ。
 改めて見てみると、確かにわざわざ隠れ鬼ごっこをして探そうとはしない場所だ。なんか、神聖な感じがして登って入ったりしたら罰が当たりそうだし。(もちろん、さすがに私も中に入ってはいない。)
 他にもいくつか写真を撮って、モキュメンタリーホラー小説の短編を書くのに充分な量が集まった。あとはこれからプロットを起こして、どんな展開にするかを考えれば書くための準備が整う。
 一応、この短編の中にも親友の行方不明事件の話をちらほらと入れ混ぜて、どこかで親友が目にしたならわかるようにしておきたいと考えている。

 また、親友の行方不明事件については、いよいよ明日に二回目の取材を行う。
 前々から書いている通り、明日は親友と同じダンスサークルに入っていた加藤さんと、親友のお兄さんである智也さんに話を聞くことになっている。
 加藤さんには主に直前で親友と会った時の様子を、智也さんには警察と一緒に部屋の様子を見た時や片づけをしている時に何かなかったかを聞き、そして智也さんから親友のスマホやパソコンについても見せてもらうこととしている。もしここで私の想像しているようなことがあれば、私はさらに本腰を入れて調査を進めていかなければならなくなる。

 例えば、そう。
 直前に親友にはおかしなところはなく、日曜は家で小説を読むことになっていただとか。
 あるいは、スマホやパソコンから、今では閉鎖された例の小説投稿サイトの履歴が出てくるだとか。

 いや、よそう。
 ここでいくら考えても答えは出ないし、もしそうなった時は改めて対策を考えればいいだけの話だ。

 それと、「ヨミクイ」の噂について片手間にいろいろと調べてみた結果、「身代わり」についての追加情報を得たのでここに載せておく。また、以前載せたヨミクイの内容についても再掲しておく。


(再掲)
【怪異「ヨミクイ」とは】
・ヨミクイは、主に小説を読んでいる者を獲物としている怪異である。
・ヨミクイは、小説の読者の中でも特に現実を忘れるほど小説に熱中し、物語の世界に浸っている読者を好む。
・ヨミクイの見た目は、眼を除いて読者自身と同じ姿形をしている。
・ヨミクイの眼はくり抜かれているため、陥没していて無くなっている。
・すなわち、自身の眼をくり抜いた姿が、あなたが出会うヨミクイの姿である。

【怪異「ヨミクイ」に興味を持たれるとどうなるのか】
・ヨミクイに興味を持たれた読者は、小説を読んでいる時に周りの音が聞こえなくなる時がある。
・ヨミクイに興味を持たれた読者は、小説を読んでいる時に不可解な文字が見えることがある。
・ヨミクイに興味を持たれた読者は、小説を読み終わった後にヨミクイの世界に連れ去られる。(正確には、いつの間にかヨミクイの世界に移動させられている。)

【怪異「ヨミクイ」の世界とは】
・ヨミクイの世界は、一見すると読者が住んでいる世界と何ら変わりない普通の世界であるが、読者以外の生物がいない世界である。
・ヨミクイの世界に連れ去られると、読者はヨミクイから逃げなければ喰われてしまう。
・読者が最後に読んでいた小説のページ数が、ヨミクイから逃げなければいけない日数である。
・ヨミクイは眼がくり抜かれているため、読者を探す時は心音を頼りにしている。(ヨミクイに興味を持たれた時に周りの音が聞こえなくなることがあるのは、ヨミクイが読者の心音を聞いて品定めをしているためと言われている。)
・つまり、ドキドキしているほどヨミクイに気づかれ、引き寄せてしまう。
・ヨミクイから逃げ切るか、身代わりを二人差し出すと解放される。


(以下、追加情報)
【怪異「ヨミクイ」に差し出す身代わりについて】
・ヨミクイに身代わりを差し出す方法は、ヨミクイの世界で書き物をすることである。
・ヨミクイの世界で書き物をすると、現実の世界において何らかの形でそれが現れる。(例えば、「WEB小説投稿サイトに小説としてその書き物が投稿される」、「町内の掲示板に落書きという形で現れる」、「本の間に本来あるはずのないページが差し込まれている」など)
・ヨミクイに連れ去られた読者は、その書き物を現実の世界にいる誰かに読ませ、夢中にさせなければならない。
・自身の書き物に夢中になった者が現実世界にいると、その者は身代わりとしてヨミクイの世界に飛ばされる。
・身代わりとなった者が二人に達すると、最初に連れ去られた者は現実世界に帰ることができる。
・身代わりとなった者は、最初に連れ去られた者の残りの日数を逃げ切るか、再び身代わりを二人差し出せば現実世界に戻ることができる。


 それと、もうひとつ。
 あまり、というかかなり気は進まないのだが、ヨミクイを映したらしい写真がネット上にあったので掲載しておく。
 この写真については、各自【自己責任】で見てもらいたい。何があっても私は責任をとれないからだ。

↓↓ヨミクイを映したらしい写真
































 ……正直、真っ暗で何もわからん。(笑)
 左下に何か丸のようなものがあるが、これはなんだろうか。
 一応、同じところに画像の加工を駆使して解析し、何かが映っているものもあったので載せておく。
 ※※何度も言いますが、本当に【自己責任】で見てください。※※

↓↓ヨミクイを映したらしい写真を加工したもの























 








 え、ほんとに何かが映っている。
 なにか、手のシルエットのようなもの……?
 あとは、何か白い筋のような……。

 いや、もうやめておこう。
 これ以上はなにか見えてはいけないものが見えてくる気がしてならない。(ホラー嫌いの私がまじまじと見ることができているのは、ヨミクイは小説を媒介としてしか読み手を喰えない怪異だからだ。これ以上は純粋に怖くてキツい。)

 ちなみに、この画像は本当かどうか知らないが、ヨミクイの世界に連れ去られ逃げ勝ってきた人が撮ったものらしい。3ページ程度の短編小説を読んでヨミクイに魅入られた人らしく、ヨミクイに喰われそうになる直前でちょうど逃げる日数が経過したとのことだ。
 そのブログには、先ほど記載したヨミクイの特徴やヨミクイの世界についても書かれており、内容はほとんど一致していた。(書かれていない情報としては、「ヨミクイの世界では食料や水分は必要としない」、「ヨミクイの世界でも朝昼夜といった時間経過は働く」などいろいろあったが、あまり重要なものではなさそうだったので、前述のまとめでは割愛した。)

 とりあえず、今日のところはこれくらいにして早めに休もうと思う。
 また明日、いろいろと取材をしてから、得られた情報や結果などについてまとめていこうと考えているので、どうか引き続き情報があれば提供していただきたい。

 そして繰り返しになるが、昴>縺、縺。
 この日記を見ていたなら、メッセージに一言だけでも連絡がほしい。
 もし何か事情があるのなら、他の方法を使ってでもいい。

 無事であることだけでも、どうか。
 今日は予定通り、加藤さんと智也さんに話をお聞きした。
 内容については、正直一番懸念していたものとなってしまった。
 先に私なりの結論を書いてもいいのだが、もう一度先入観を排して考えたい気持ちもあるので、私がその時々に感じたことを書いたメモをもとに、内容をまとめていこうと思う。
 少々事情があって、いつも以上にうまくまとめられないかもしれないが、どうかご了承いただきたい。(理由については後述する。)

 まず、今日おこなった調査の行程は以下の通りだ。

⚪︎第2回題材探し兼情報収集調査 行程
 11:00 〜 11:30 …… 加藤さんに取材
 11:30 〜 12:00 …… 移動
 12:00 〜 13:30 …… 昼食、所用、移動
 13:30 〜 17:00 …… 智也さんに取材

 最初に取材をおこなった加藤さんとは、同じ大学ではあったものの、私はダンスサークルには入っていなかったので直接の交流はなかった。たまに親友と一緒にいるところを構内で見かけたくらいで、話したことはほとんどない。一応、SNSでは同じ大学のコミュニティで繋がっていたので、今回はそこから連絡をさせてもらった。
 幸いにも、加藤さんは私のことを覚えてくれていた。また親友の行方不明事件についてもかなり気にかけてくれていたらしく、今回の取材調査を引き受けてくれることになったわけだ。

 加藤さんは、親友がいなくなる3日前、すなわち2018年11月30日の金曜日の夜に、親友の家にサークルメンバーで集まって飲み会をしていたらしい。なんでも、直近で撮ったダンスの動画を見つつ、サークルの話や就職の話、果ては恋バナなんかに花を咲かせていたとか。
 その時も、親友の様子は至っていつも通りだったみたいだ。いつも通りの量のお酒を飲み、いつも通りその場を盛り上げ、いつも通り恋に悩んでいる仲間をからかい、いつも通り真剣なアドバイスまでしていたらしい。そうして終電が近くなったところでお開きとなり、翌朝まで泊まることになった加藤さんを除いて帰ったそうだ。
 加藤さんは他のサークルメンバーが帰ったあとも親友と話をしていた。それは本当に取り留めのないことばかりで、親友に悩み事があるような感じは全くしなかったらしい。
 そして話題が親友の部屋に錚々と並ぶ小説や漫画の話になった時、親友は嬉々として言ったそうだ。

「俺さ、土日はこのシリーズものの小説を一気読みするつもりなんだよ。もう楽しみで楽しみで!」

 それは、海外から輸入され最近翻訳版が出たファンタジー小説だったらしい。一冊が300ページ超えの8冊に渡る超大作で、それを土日丸々使って読破すると息巻いていたそうだ。しかもそのファンタジー小説には漫画版もあり、それらも含めて全てをこもって読むつもりらしかった。食料を買い込み、翌週の課題もほぼ終わらせたほどで、相当息巻いていたと言っていた。

 すなわち、だ。
 私の親友は、行方不明の原因となる「何か」があった土日は、家に引きこもっていたことになる。
 そして、それだけ感情を全開にして楽しみにしていたならば、行方不明に直結するような重篤な悩みはなかったと言える。少なくとも、親友が自分の意志で姿を消したという可能性は限りなく低い。順序立てて考えれば、そんなふうに推理できる。(捜査をした警察官も同じようなことを言っていたらしい。)

 となるとやはり、親友は突発的に起きた「何か」に巻き込まれ、行方不明になってしまったということだ。

 しかも、その「何か」を推理するための情報が、明らかに「ヨミクイ」の噂へと繋がっている。

 土日すべてを使って読破することを目標にするくらい楽しみにしていたという、「熱狂的な感情」も。
 読み終えた小説を傍に高々と積み上げ、余韻に浸っている間に起きたらしい、行方不明のきっかけも。

 ただ、まだわからない。ここまでの情報だけでは、本当に親友がヨミクイの世界に連れ去られたかどうかはわからない。

 そんなふうに、この時までの私は、思い込もうとしていた。

 まだいろいろと加藤さんには訊きたいことはあったものの、そこで加藤さんのスマホに会社から電話がかかってきてしまった。なんでも彼(今さらですが、加藤さんは男性です。)は、県内でも有数の精密機械メーカーの営業をしているらしく、年末に向けての準備で忙しくしているところの合間を縫って来てくれたようだった。感謝しかない。

 加藤さんは、私と同じく未だに親友の行方不明について気にかけていた。
 私が今回のモキュメンタリーホラー小説コンテストでいろいろと試行錯誤しようとしていることを話すと、心から応援していると言ってくれた。
 そして別れ際に「ヨミクイ」の噂について尋ねると、彼もいくつかの噂を聞いたことがあると教えてくれた。
 その中でも特に気になったのは、

「ヨミクイの世界にいる者の名前は、文字化けする」

 というものだった。
 どこかで聞いたことがあった、文字化けという単語。

 そうだ。先週、私はこの日記を読んでくださっている方から言われたのだ。

 所々、文字化けしていると。

 でも、おかしい。
 私が見返す限りでは、どこも文字化けしていないのだ。
 もしかすると、文字化けはヨミクイの世界にいる人との関係が疎い者にしか見えないのだろうか。

 妄想にも近い推測は尽きなかったが、これ以上は時間が許してくれなかった。
 今回の試みで進捗があれば必ず連絡すると約束して、私たちはわかれた。


 その後、私は智也さんと落ち合い、先週ぶりに親友の実家へと向かった。


 ……ダメだ。

 この先のことがかなり大事なのに、まだ頭の中が整理しきれていない。

 少し早いが、今日の日記はここまでとしたい。

 また明日、いや、少し時間がかかるかもしれないが、どうにか整理してから続きについてもまとめていきたいと思う。

 私としても、予想外のことだったんだ。
 それほどまでに明るく感情を表していた親友が、昴>縺、縺が、まさか。

 大病を患っていたなんて。
 一晩寝て、少し落ち着いた。
 そうだ。親友は大病を患っていたが、薬を飲んでいれば命に別状はないものだとお兄さんは言っていた。それゆえに、彼のお母さんもこれまで話には出さなかったのだろう。

 昨日は急にまとめを終わらせてしまったので、今日は最後までまとめ切りたいと思う。そして、もし追加で知っている情報や、他の意見等があれば遠慮なく教えていただきたい。

 まずは、そう。お兄さんの智也さんについて簡潔に紹介させていただく。
 智也さんは、私たちよりも三つ歳上の、県内でも有数の大手銀行に勤める金融マンだ。既に結婚されており、先週の日曜日は家族サービスで水族館に行っていたらしい。とても思いやりのある優しい穏やかな方で、私も子どものころはよく遊んでもらっていたものだ。

 そんな智也さんも、弟である親友が突然行方をくらませたことが不可解で、あれこれと手を尽くして調べていたらしいが、当初はむしろ逆だったそうだ。

「弟は、心臓に大きな病を患っていたんです」

 智也さんの口からこの言葉が発せられた時、私は頭が真っ白になった。

 まさか、昴>縺、縺は、その病気が原因で行方不明に?
 最後の心残りである海外のファンタジー小説を読破して、余韻に浸ったあとこっそりとアパートを出た?
 そしてまさか、その後は自ら……?

 悪い予想ばかりが脳裏に浮かんだ。私は間違いなくフリーズしていた。
 けれど、智也さんがすぐに私を現実に引き戻して、詳しい説明をしてくれた。

 親友の病気は薬をしっかり飲めば日常生活は送れるものだったこと。
 自分も最初は同じこと考えたが、それだと昴>縺、縺らしくないこと。
 昴>縺、縺は病気のことを医者から告げられた時も、命ある限りしっかり生き抜くと笑って言っていたこと。

 智也さんの言葉を聞いて、確かにあいつはそんなやつだったと思い出した。
 もちろん確実ではないが、やはり彼が病気を苦にして自殺を図るとは考えにくかった。
 彼なら笑って、「じゃあ今まで通り全力で生きていくだけだな」なんて言うに違いないだろうから。

 ただそうなると、やはりまた原点の疑問に戻る。
 私の親友は、どうして姿を消してしまったのか、ということだ。

 これについては、智也さんも相当調べていた。
 私が気にしていた「隠れ鬼」なんかの噂はもちろん、「ヨミクイ」についても調べていたようだった。
 その上で、私は絵空事だと思うがと前置きしつつ、「ヨミクイ」に連れ去られた可能性を問うてみた。半分冗談混じりで、あくまでも参考程度にと言葉の予防線も張りながら訊いてみた。

 けれど智也さんは、至極真面目な面持ちで、親友のスマホを見せてきた。
 そこには、こう書かれていた。



縺?▽縺

俺は今翫?√?悟小説に取り憑き、読ュ閠?r喰ー縺?喧物」から蛾??£て縺?k

小説を読んで縺?◆ら縲変な場謇?に飛縺ーされたん縺?

ど縺?dら縲俺は3456日騾?£なければ縺?¢な縺?iしい

騾?£蛻?lるわけがな縺

そ縺ョ前に俺の命が尽きてしま縺

もし俺のことを探して、この譁?ォ?を読んでしまって縺?kのなら縲今すぐ騾?£繧



 それは、一部が文字化けを起こした文章だった。
 そして、文字化けと思われる箇所を●●に変換すると、下記のようになる。



●●

俺は今●●小説に取り憑き、読●●喰●●物」から●●て●●

小説を読んで●●ら●●変な場●●に飛●●されたん●●

ど●●ら●●俺は3456日●●なければ●●な●●しい

●●るわけがな●●

そ●●前に俺の命が尽きてしま●●

もし俺のことを探して、この●●を読んでしまって●●のなら●●今すぐ●●



 私は、この時以上に自分の目を疑ったことはなかった。
 文字化けはツールを使って復元しようとしてみたが、いつかの日記にあったらしい文字化けと同じく復元は叶わなかった。
 一晩中考え、無理やり睡眠と仕事で頭をリセットした今でも、信じられない気持ちでいっぱいだ。
 目にしたくない言葉ばかりが、そこには並んでいた。

 まず、「小説に取り憑き」と「読●●喰●●物」の部分なんかは顕著だ。
 これはほぼ間違いなく、小説を媒介に人を喰う怪異、ヨミクイのことを指している。おおかた、「小説に取り憑き、読み手を喰う化け物」といったところだろう。
 そして三行目も、「小説を読んでいたら、変な場所に飛ばされた」といった文言が推測できる。
 つまり、私の親友は「小説を読んでいたら変な場所に飛ばされ」、「小説に取り憑き、読み手を喰う化け物」から何かをしていることになる。
 この何か、は考えるまでもない。逃げている、のだ。

 しかも、四行目にある日数は、「3456日」となっている。
 この数値を目にした時、私は智也さんと一緒に親友が最後に読んでいたと思しきファンタジー小説と漫画の総ページ数を数えてみた。ぴったり、3456ページだった。
 3456日。つまりは、約9年だ。
 それだけの長い年月を、ヨミクイから逃げる必要がある。

 直感的に、無理だと思った。
 しかも、親友は心臓に病を抱えている。その病が、ヨミクイの世界でも彼を苦しめるのかはわからないが、もしそうだとするならばさらに彼の生存は絶望的だ。

 この文字列が書かれていたのは、親友のスマホのメモ帳アプリだった。
 保存された年月は文字化けしており、それがいつなのかはわからなかった。
 智也さん曰く、初めてこのスマホを見つけた時はこの文字はなかったらしい。警察にも数日預けていたが、特に何も言われずに返却されたそうだ。それからはずっと親友のパソコンや小説などの持ち物と一緒にダンボールに入れて保管していたとのことで、誰かが悪戯で入力したといったこともなさそうだった。
 
 その後、改めて智也さんと一緒に親友のスマホやパソコンについても調べてみた。
 スマホには他に気になるようなものはなかったが、パソコンの履歴には案の定、私たちが通っていた大学のドメインが入っていたサイトのほか、ヨミクイが寄生していたと噂の小説投稿サイトのURLが残っていた。(幸いにも、閉鎖しているサイトなので開くことはできなかった。)

 正直、もうこれ以上は調べたくない。
 出てくる情報がすべて、ヨミクイの噂に繋がっている。
 もしかしたら、今この瞬間にも、私はヨミクイに見入られているかもしれない。

 いや、今は日記を書いているのだからありえないか。
 それに、私は昨日今日と小説を読んでいないし。というか、もう怖くて読む気も起きない。

 私は、どうすればいいんだろうか。

 親友のスマホやパソコンについては、智也さんからいったん預かっている。小説だけはなんとなく怖く、また量も非常に多かったので親友の実家に置いたままになっている。
 この日記を書いている今も、片手間に彼のスマホやパソコンを開いて調べているが、相変わらずこれ以上の手掛かりは出てこない。

 もし親友がヨミクイの世界にいるのならば、私は彼を待つことしかできないのか。

 彼が3456日という途方もない時間を逃げ切るか、あるいは彼が書き物をして誰かを身代わりにするか。

 でもあいつの性格上、身代わりというやり方はとらないはずだ。なにがなんでも逃げ切ってやると息巻いて、持ち前の地頭をフル回転させて、きっと何かしらの手段で逃げ切ってくれるはずだ。
 病気のことは祈るしかないが、きっと彼なら、昴>縺、縺なら、大丈夫なはずだ。

 私には、やはり信じて待つことしかできない。
 引き続き、このスマホを調べたり、より多くのヨミクイについての情報を集めたりしていきたいと思っている。
 ヨミクイへの対処法や、ヨミクイの世界に連れて行かれた人はどうすればいいか。そんな情報を掴むことができれば御の字だ。
 どうか皆さまにも、ご協力をお願いしたい。


 それにしても、親友のスマホにあるこの文章はいつ書かれたんだろうか。

 今見ても、文字化けしてい























縺?◎縺?

音が瑚◇縺薙∴縺ェい

ま縺輔°縲√Κヨ溘けイの世也阜?















これを定ヲ九※縺?k人?
隱ーか具シ

蜉ゥ縺代※縺上□縺輔>























 先日は失礼しました。
 パソコンの調子がおかしかったのか、変な日記を書いてしまったようです。週末にでも、しっかりと時間をとって修正したいと思います。


 さてさて。ひとまず先日でまとめておきたいことはひと通りまとめ終えることができた。
 まだ正直怖い部分はあるが、そうもばかり言っていられない。

 そもそも、世の中に小説がごまんとあるのに、そうした小説にまつわる神隠しのような話はほとんど聞いたことがない。それはつまり、あの怪異に喰われる人は限りなく少ないか、あるいはまだ私の知らない条件があるに違いない。
 そんなふうに考え、私も親友を見習って前向きにできることをひとつひとつやっていきたいと思う。

 そのためにもまず、私はモキュメンタリーホラー小説コンテストに出す小説をしっかりと完成させなければならない。

 ということで、私は時間をとって一本のモキュメンタリーホラー小説を書き上げることにした。

 次にある1ページ分の短編は、ホラー嫌いな私が書き上げた最初のモキュメンタリーホラー小説である。


 タイトルは、『アナタを見つけるまで』。


 本日記を読んでくださっている皆さま、どうか私の乾坤一擲の短編小説をご一読ください。
















 かつて、一部子どもたちの間で噂になっていた「隠れ鬼」の存在をご存知だろうか。

 子どもの頃によくやった遊び?
 いいや、違う。これは隠れ鬼ごっこ(・・・)のことではない。

 我々編集部がこの噂を知ったのは、小誌へ送られてきたとある手紙と写真がきっかけだった。
 まずは、その写真について見てもらいたい。







 そう。何の変哲もない風景写真だ。
 いや、そもそも風景を映したものというよりは、誤って撮ってしまった写真と言い表した方がいいかもしれない。画角も被写体もピントも何もかもがズレている。撮影者は、いったい何を写したかったのかわからない。

 最初は、違う写真を送ってしまったのかと編集部は思った。
 しかし、この写真に同封されていた手紙の冒頭を読んですぐ、そんな考えは吹き飛んでしまった。

 ――この写真は、2018年12月2日の午後5時22分。●●●●公園で撮られた写真です。

 先にお詫びしておくが、この公園の名前を今は出すことができない。
 理由は後述する。だが小誌の読者であれば、おそらく年月日からおおよその見当がついているのではないだろうか。
 
 この場所は、かの児童連続行方不明事件が起きた場所のひとつだ。
 しかも驚くべきことに、同封されていたこの写真は事件発生時刻に撮られた写真であるらしい。

 手紙を開封した我々は驚いた。すぐさまその先の文章にも目を通した。

 どうやら、この写真はかなり慌てて撮影されたものらしかった。
 撮影したのは、●●●●公園の近くに住む当時小学校四年生の男子児童、Yくん(10歳)。
 Yくんは、学校が終わったあとに友達五人とともにこの公園へ赴き、隠れ鬼ごっこをしていた。公園は石のオブジェや大きな街灯、東屋など遮蔽物が多く、隠れ鬼ごっこをするのに適した場所だった。隠れ鬼ごっこは白熱し、一時間以上に渡って続いていたらしい。

 そんな折、Yくんたちは最後に一度仕切り直そうと、全員で集まって再び鬼決めをしようとしていた。
 公園自体は遮蔽物が多いとは言え、そこまで広くない。大声を出せばみんなに聞こえるほどの大きさだ。
 ゆえに、もう一度鬼を決めると叫んだ時は、石の柱の陰や茂みの後ろ、塀の後ろなどからぞろぞろと隠れていた子どもたちが姿を現した。時刻は午後五時に差し掛かろうとしており、辺りは夕陽によってオレンジ色に染まっていた。

 ところが、何度呼んでも友達のひとり、Aくんが姿を現さなかった。

 Yくんをはじめ、子どもたちはみんな不思議に思っただろう。ゲームそのものをやり直すのだから、一度全員で探し始めてもおかしくない。
 しかし、そこへ負けず嫌いで悪戯好きなKくんが言ったそうだ。「このまま仕切り直した新しい隠れ鬼ごっこを始めて、Aくんを混乱させよう」と。隠れ鬼ごっこが白熱していたこともあり、Kくんの提案は受け入れられた。

 そうして始まった、仕切り直しの隠れ鬼ごっこ。その最中にAくんがひょっこり見つかり、訳もわからないまま鬼に捕まってしまう、というのがオチだったはずだ。
 ところが、さらに鬼が何度か変わるほど続けても、Aくんは一向に姿を見せなかった。いよいよ不思議に思ったみんなは、隠れ鬼ごっこを中断してAくんを探そうということになった。

 しかしここで、さらなる恐怖が子どもたちを襲った。
 なんと、先ほどまでいたKくんもいなくなってしまったのだ。

 町内の大人たちや警察まで出動し、AくんとKくんの捜索が行われたが、ついぞ二人は姿を見せることはなかったという。

 編集部はすぐさま緊急会議を開いた。
 手紙の内容は非常に具体的で、我々が独自に調べていた内容とも一致する部分が多々あった。

 当時、●●●●公園での行方不明事件も含めて似たような事件があちこちで相次いでいた。しかもその対象は全て小学生であり、警察は連続誘拐事件として捜査を進めていた。私たち編集部もその話題性の観点から取材を続けていた。
 しかし、結局6年経った今でも犯人の情報や目星について全く掴めていない。捜査も取材も滞り、話題性が冷めてきた最近では取り上げることも少なくなっていた。本格的に調査は打ち切り、別のものを始める案まで浮上してきていた。

 この手紙が届いたのは、そんな矢先のことだった。
 しかも手紙の送り主は、この一連の出来事の原因を「人ならざるもの」と見ているようだった。

 ――この事件は、「本物の隠れ鬼」の仕業だと思います。

 丁寧な筆致で、手紙にはそう書かれていた。

 本物の隠れ鬼。
 手紙の送り主によれば、それは独特な言葉を発しながら隠れている人を見つけて捕まえ、自身の世界に連れ去って隠れ鬼ごっこをさせる怪異らしい。
 そして、その隠れ鬼ごっこに負けて捕まった場合、連れ去られた人は喰われてしまうのだそうだ。

 編集部では、すぐにこの「本物の隠れ鬼」の噂について検索をかけた。なかなか引っ掛からなかったが、とあるオカルト系のまとめサイトでようやく手がかりを見つけた。
 そこには、下記のようなことが書いてあった。


○「本物の隠れ鬼」の噂についてのネット情報
・夕暮れ時に墓の見える場所で隠れ鬼ごっこをしていると、参加者とは別に「本物の隠れ鬼」が紛れ込む
・隠れている時に、「本物の隠れ鬼」に見つかり捕まると攫われる
・「本物の隠れ鬼」は前髪の長い子どもの姿をしており、朱色に染まったボロボロの服を着ている
・「本物の隠れ鬼」に攫われると、連れて行かれた先でもう一度隠れ鬼ごっこをやらされ、逃げ切った場合は元の場所に戻れるが、捕まった場合は喰われてしまう


 編集部は、過去の取材データを全て見返した。すると、驚くべきことが判明した。
 確かに、これまでの行方不明事件が起きていた場所はどこも、墓所や霊園にほど近い広場や公園であったのだ。
 協議の結果、編集部はひとまず手紙を送ってくれた人に話を聞くことにした。また、取材場所はその写真が撮られた●●●●公園でおこなった。


○手紙の送り主、Iさん(Yさんのご兄弟、20歳、県内在住)への取材内容 ※一部抜粋

編集部(以下、「編」):「いただいた写真と手紙を拝見しましたが、あの写真は具体的には何を写したものなのですか?」

Iさん(以下、「I」):「わかりません。あの写真は、Yが当時隠れていた場所から撮られたものです。なんでも、何かがいたような気がして慌てて撮影したと言っていました。その時は動物か何かだと思ったそうですが、あとで見返すと何も写ってなかったそうです」

編:「なるほど。もしかするとそれが『本物の隠れ鬼』かもしれない、ということですか?」

I:「そうです。つい最近Yからその話を聞いて、怪談話が好きだった私が『本物の隠れ鬼』の可能性に思い至り、お送りさせていただきました。編集部さんの方で、解析でもなんでもしていただけると」
(後日、専門家にも写真を見てもらい、画像解析もおこなったが、やはり何も写っていなかった。)

編:「他にも撮られた写真はないのですか?」

I:「写真はないですが、同じようなことを言っていた友達が何人かいたらしいです。その友達が隠れていた場所も聞いたので案内します」





↑友達Cさんが隠れていた、木々のある場所。
 木の陰に身を潜めていた時、同じように木の陰からこちらを眺めている視線を感じたらしい。その時は別の隠れ役の友達かと思っていたが、当時この付近に隠れていた友達はいなかった。





↑友達Nさんが隠れていた、ベンチや茂みのある場所。
 ベンチの陰に寝そべるように隠れていた時、すぐ近くに何かがいる気配を感じたらしい。Yさんと同じく、動物か何かだと思っていたとのこと。





↑友達Rさんが隠れていた、石垣のある場所。
 石垣の陰から鬼役の友達の様子をうかがっていた時、不意に後ろから近づいてくる音が聞こえてきたらしい。すぐに振り返ったが、誰もいなかった。



編:「案内ありがとうございます。その違和感を覚えた友達は無事だったんですよね?」

I:「そのように聞いています。違和感があったのはその時だけで、今は何事もなく普通の生活を送っていると」


 また、怪談話に詳しいというIさんに『本物の隠れ鬼』についてもうかがった。


編:「では次に、『本物の隠れ鬼』について教えてください。まず確認ですが、『本物の隠れ鬼』というのは、『隠れ鬼ごっこをしていて隠れている時に参加者に紛れ、隠れ役の子を連れ去る怪異』という認識で合っていますか?」

I:「そうです。私も亡くなった祖父から伝え聞いたのですが、この辺りでは昔から神隠しがあるようなのです。そしてそれは、決まってかくれんぼや隠れ鬼ごっこをしている時に起こっていたと」

編:「おや、ということは、『本物の隠れ鬼』はかくれんぼの時にも現れるのですか?」

I:「そうですね。元々は『隠れている人を攫う鬼』という意味で、その怪異のことを『隠れ鬼』と呼んでいたみたいですから」

編:「なるほど。ちなみに手紙には『本物の隠れ鬼は、独特の言葉を発して追いかけてくる』とありましたが、この『独特の言葉』というのはなんでしょうか?」

I:「えっと、二つありまして。対象を見つけた時に、『みーつけた。お逃げーなさい』と言うらしいです。そしてもうひとつは、対象を追いかける時に、『ほーらはやく。お逃げーなさい』と繰り返し唱えてくるとか」

編:「いかにもな怪談って感じですね」

I:「そうですね。これは私も聞いた時、祖父か誰かが後から付け足した尾ひれなんじゃないかなって思いました。だから手紙には具体的に書かなかったんですが。それに普通の隠れ鬼ごっこって、隠れ役の人を見つけても何も言わずに追いかけていくじゃないですか。だから結構、独特だなって思いました」


 以前、編集部でも特集で取り上げたことがあるが、ごっこ遊びには地域ごとのローカルルールがあることが多い。
 隠れ鬼ごっこについても、隠れ役を見つけた時に「みーつけた」とかくれんぼのように言葉を発する地域があった。●●●●公園のある本地域については裏付けが取れなかったが、そこから派生した話である可能性は高いと考えられる。
 そして、これはひとつの仮説ではあるのだが、もしかすると児童連続行方不明事件が起こった地域は、このローカルルールが存在している地域ではないだろうか。
 もしそうだとするならば、この「本物の隠れ鬼」による神隠しの可能性は飛躍的に上昇する。

 今後、編集部は児童連続行方不明事件が起こった地域を改めて訪れ、当時の状況を今一度洗い出していく予定だ。
 もし本事件の犯人が人間ではなく、正体不明の怪異である場合、我々はどのように対処していけばいいのか。
 しかも「本物の隠れ鬼」は、隠れ鬼ごっこに限らず、「隠れている人を攫う鬼」である可能性が高いのだ。ともすれば、我々とて全くの他人事ではないことになる。
 読者の皆様も、何かから隠れる場合はくれぐれも注意していただきたい。
 小誌では、数回にわたって「本物の隠れ鬼」についての調査結果の記事を掲載していく予定であり、そちらも参考にしていただければ幸いである。


 それでは最後に、本記事において●●●●公園と具体的な場所を伏せた理由について述べて終わりにしたい。


 我々が●●●●と伏せた理由は二つある。


 一つ目は、読者の皆様の興味を引かせるため。多くの人は、何かを意図的に隠されると無意識のうちにその正体を知りたくなるものだ。我々は皆様に、本文の場所まで読んでいただきたかった。


 二つ目は、文字化けを起こしてしまうため。


 ●●●●公園とは、荳画ョ頑」ョ譫公園である。


 おそらく、文字化けを起こしているのではないだろうか。


 ご心配には及ばない。この世界では、しっかりと読むことができるだろうから。


 本当に申し訳ない。しかし、この方法でしか対処する術はないらしいのだ。


 どうか、なるべく早くこの場所に来ていただきたい。


 検索手段は使える。
 そして、なるべく落ち着いて。深呼吸を何度もして。
 大丈夫だ。あいつは、目が見えないのだから。


 そしてどうか、どうか。


 あの怪異の身代わりとして魅入られたアナタが、最後まで無事であることを祈っている。

 この日記を読んでくださっているあなたは、身代わりから逃れられた「あなた」でしょうか。

 それとも、身代わりとなってヨミクイの世界に飛ばされた後、親友が練った作戦が功を奏して戻ってきてくれた「アナタ」でしょうか。

 あるいは、どちらでもない「アナタ」でしょうか。

 いずれにしろ、私は謝らなければなりません。
 大変申し訳ございませんでした。

 既にお察しのことと思いますが、先日私が投稿した短編小説『アナタを見つけるまで』は、ヨミクイの世界で私が執筆した身代わりのための書き物です。
 私は私が助かるために、親友との約束を果たすために、そしてあの世界にヨミクイを閉じ込めるために、どうしてもこの日記の読者の中から身代わりを立てる必要がありました。
 これから、順序立てて説明します。

 事の発端は、25日の月曜日に起こりました。
 私は、日記を書きながら親友のスマホをいじっていました。

 何か手がかりがないか。
 彼はどこにいるのか。
 本当にヨミクイに攫われてしまったのか。
 この文字化けの文言は、いったい誰に対して向けられたものなのか……。

 その時でした。
 窓に当たっていた雨の音が、ピタリと止んだのです。
 私は日記を書くのを止め、辺りを見渡しました。
 そこは、いつもの自室。なんら変化はありません。

 しかし、明らかに異質でした。

 音が、環境音が、まったくありませんでした。
 暖房器具の稼働音も、窓を揺らす風の音も、先ほどまで響いていた雨の音も、遠くで鳴っていた車の走行音も、なにもかも。
 そうした音が、一切聞こえませんでした。

 もっとも、私が発する音だけは別でした。
 声や、足音や、物に触れる音や、私の心臓の音。
 そうしたものは鮮明に、私の耳に届いていました。
 まるで、それこそが重要なのだと言わんばかりに。

 どこまでも不気味で、異様な空間に、私はどうしようもない恐怖駆られました。
 私はとるものもとりあえず、すぐさま外へ飛び出していました。

 けれど外も、異様としか呼べない光景が広がっていました。


 

 
 先日投稿したこちらの写真は、その時に助けを求めようと撮影したものです。
 夕暮れ時のようにオレンジ色に染まった雲に、黄昏時の後のように紫色に彩られた空。
 一方で遥か彼方は真夜中のように真っ暗で何も見えず、私のいる場所は薄暗く、後方に至ってはやや明るい道が続いていました。

 いや、明るいという表現は適切ではないかもしれません。


 


 見てお分かりのことと思います。
 そこもまた、異常な光景でした。

 ここは、本来なら銀杏の木々が並んでいる道です。
 ところが元々の黄色は微塵もなく真っ赤に染まり、色は潰れ、写真だけでなく実際の光景もピンボケしていました。

 まるで、作られた世界。
 モキュメンタリーのごとく、私は現実と非現実との境界がわからなくなっていきました。

 焦りと怖さがせり上がってくる感覚に、私は一目散に走り出していました。

 なるべく明るい方へ、明るい方へと走りました。

 聞こえるのは、私の息遣いと足音、そして高鳴る心臓の音ばかりです。
 他の音は、一切聞こえませんでした。

 私の心は、完全に恐怖に支配されていました。

 しかもそこで、私は何かにぶつかってしまいました。

 それは、この世界で初めて見た、人でした。

 ヨミクイ。

 人は本当に怖い時、声なんて出せないのだと知りました。

 けれど、違いました。

 頭を抱えて震える私に、その人は優しい声をかけてくれました。


「まさか、本当に来ちまうなんてな」


 今でもその人の声は、彼の声は、鮮明に耳の奥に残っています。

 私がぶつかったのは、私がずっと探していた親友でした。

 親友は、生きていました。

 今度は驚きのあまり声が出ない私に、親友は静かに笑みを浮かべました。
 それだけで、私の心はみるみる落ち着いていくのがわかりました。

 その後、私は親友からその世界のことを聞きました。
 その世界は、案の定「ヨミクイの世界」のようでした。
 親友はあらゆる術を駆使して、6年近くヨミクイから逃げていました。脱帽というほかありません。

 そしてどうやら、私は親友が昔に残したメモの文章を夢中になって読んでしまい、身代わりとしてこの世界に連れて来られたようでした。
 親友は確認のため、私にスマホを見せてきました。そう、あの私が直前まで見ていたはずのスマホです。




 
 私はまた驚きました。
 私が読んだ時は文字化けを起こしていた文章が、読めるようになっていました。
 しかし、一番上にある宛名だけは、相変わらず文字化けを起こしていました。

 そこで、私は現実世界で集めた情報を全て親友に話しました。
 頭の切れる親友は、これまで彼がこの世界でいろいろと試して集めた知識と合わせて、いくつかの結論に辿り着いたようでした。

 まず前提として、私が読んだのは間違いなくヨミクイの世界で親友が書き起こした文章でした。
 しかし、どうやら現実世界にいる人に向けて助けや逃走を求めるような文章を書いた場合は文字化けを起こすようです。(私が月曜日にヨミクイの世界で書いた助けを求める投稿も文字化けを起こしていましたが、まさにこれに由来するものです。)
 また、ヨミクイの世界にいる者の名前も文字化けを起こすみたいでした。(親友が書いたメモの宛名には私の名前が書いてあったようですが、写真でもわかる通り文字化けを起こしていました。)

 一方で、ヨミクイの世界で書いたそれ以外の文章は、そのまま現実世界にも反映されるようでした。その証拠に、私が現実世界で見つけたいくつかのヨミクイの世界に関する情報は、親友がヨミクイの世界でネット掲示板に書き込んだ内容でした。これに付随して、ヨミクイの世界でもネットを使った調べ物はできることも判明しました。
 ヨミクイの世界は、どこまでも現実の世界を踏襲していました。

 こうした推測から、親友はひとつの作戦を提案してきました。

 その作戦は、あまりにも親友らしく、そして寂しさと悲しさに満ちたものでした。


「俺の命は、もう長くない。これを利用して、俺はヨミクイをこの世界に閉じ込めたいと思う」


 彼はそう言いました。
 彼の言う作戦とは、これ以上ヨミクイの犠牲者を出さないために、ヨミクイを自身の世界に閉じ込めてしまうというものです。

 親友が着目したのは、ヨミクイの世界から生還した人がヨミクイの写真を撮っているという情報と、ヨミクイは目が見えず心音で標的を探すという情報でした。
 前者は、ヨミクイは現実世界で連れ去った人を喰らう以外に、ヨミクイから逃げ延びた者を現実世界に送り返す時にも当人の目の前に姿を現すのではないか、ということ。
 後者は、ヨミクイは標的の位置を特定する際に、標的の心音を頼りにしている、ということ。
 これらを組み合わせて考えた時、先ほどの作戦が浮上すると彼は言いました。

 それは、もしヨミクイの世界でヨミクイに喰われる以外の理由により標的の命が尽きた時、ヨミクイは標的の場所が分からず延々と探し回るのではないか、ということです。

 私は驚愕しました。
 必死に止めました。
 けれど彼は、自分の心臓は病気に蝕まれ、もう限界なのだと言いました。
 そしてどうせヨミクイに喰われて終わるのなら、最後に一矢報いたいのだとも言いました。

 親友は、ヨミクイのせいで小説に夢中になれない人がいることを嘆きました。
 親友は、世の中には素晴らしい小説がたくさんあるのだから、もっと多くの人が憂いなく夢中になってほしいのだと主張しました。
 親友は、ヨミクイが生まれた経緯を知ってヨミクイを哀れんでもいました。
 親友は、同じような悲劇が二度と起こってほしくないのだと強く望みました。

 それから親友は、私に生きて現実世界に戻り、これからも小説を書いていってほしいのだと言ってくれました。

 私は泣きました。
 泣いて泣いて、泣きました。
 私は苦悩と葛藤の末、親友の作戦を承諾しました。

 親友と一緒に、ヨミクイに見つからないよう注意しつつ、あの公園へと行きました。
 道中は、たくさんの思い出話や世間話をしました。

 公園に着くと、私たちは何枚か写真を撮りました。
 それから私は、一本の短編小説を書きました。

 前述した通り、その短編小説は私の身代わりを立てるためのものです。

 身代わりの対象は、私の日記の読者。

 親友から、なるべく生存率を高めるために、ヨミクイについて一番知っている人たちを身代わりにするよう言われたからです。

 そして短編小説のページ数は、最小の1ページ。
 身代わりとして逃げるべき日数を、とにかく少なくするためです。
 ちなみに小説以外の書き物で身代わりを立てた場合、元々の人が逃げるべき日数をそのまま引き継ぐことになるようで、1ページの短編小説が最適だという結論に至りました。(かくいうこの時の私の頭の中にも、親友の逃げるべき残日数と同様の1271日逃げなければいけないという強迫観念のようなものが渦巻いていました。)

 私は親友の隣で、短編小説を書き上げました。
 親友は私の小説を読んで、満足げに頷いてくれました。面白いと言ってくれました。
 それから、不覚にも身代わりに立てることになる私の日記の読者を必ず生きて返すと約束してくれました。6年近く生き延びた彼の言葉は、それでも迷いのあった私の心を安心させてくれました。

 そうして私は、短編小説『アナタを見つけるまで』を投稿しました。

 今私が現実世界に戻れているということは、すなわちどなたか2人が身代わりとしてヨミクイの世界に飛ばされたことを意味します。本当にごめんなさい。

 しかし私は、親友との約束を守るためにも、どうしても現実世界に戻る必要がありました。

 親友との約束。
 それは、この物語を世に広めることです。

 以前の日記にも書きましたが、かつてのヨミクイは娯楽小説が大好きだった商家の主人の感情に包まれて過ごしていました。主人が亡くなってからは、主人が大好きだった小説を拠り所として存在していました。元々は、人に害をなす怪異ではありませんでした。

 しかし、主人の家族の嫉妬による放火によりそれらの娯楽小説が全て燃えてしまい、怒りに猛たヨミクイは人に害をなす怪異となってしまいました。
 そしてヨミクイが、今も小説に夢中になる感情を追い求めるのは、かつて自分を包み込んでいた感情が失われたことによる寂しさがあるからではないでしょうか。

 既に存在しているヨミクイは、私の親友の手によって自身の世界に永遠に閉じ込められました。

 しかし、新たなヨミクイが生まれないとも限らないのです。

 この物語を広めることで、どうか新たなヨミクイが生まれないことを祈るばかりです。

 それから、もうひとつ。
 親友との最期の約束を果たさなければなりません。

 そのために、私はこの日記を応募することに決めたのです。


 スターツ出版主催の、モキュメンタリーホラー小説コンテストに――。


 果たして、この日記に書かれたものが、現実なのか物語なのか。


 全ては、あなたのご想像にお任せします。



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