翌朝、月冴に手を引かれて棺の場所に出た。

そこには椿の姿もあり、腕組みをして二人の繋がれた手をじろりと眺める。

「あっ……えっと、椿さん……」

見られることに恥ずかしさを感じたが、正々堂々向き合いたい。

臆しそうな気持ちをぐっと引っ込め、椿の目を真っ直ぐに見つめた。


「……そういうこと」

椿は額に手をあて、深くため息を吐くと肩に流した髪を前に寄せる。


「それで、わざわざこんな朝から呼び出して何を企んでいるのかしら?」

「私が曖昧にしていたのが悪かった。結論を出そうと思ってな」

椿の問いに月冴がいつもより物腰柔らかに答える。

奇妙な態度に椿は眉をひそめ、怪訝そうに「意味がわからない」とすんなり受け取ろうとはしなかった。

それに月冴は鼻で笑うと「すぐにわかる」と言って、棺に手をかざした。


ボッと狐火が現れ、棺を囲んでメラメラと大きく炎の壁を作る。

炎の中に既視感のある白い穴が現れ、懐かしい自然の香りが鼻をくすぐった。


「月冴さま……。まさか」

「人間の世界へ行く」


その言葉に唾をのみこみ、喉を鳴らす。

いざ直視するとなれば恐怖が湧きあがる。

だが向き合う日は必ず来るもので、月冴とも約束した。


「……怖いですが、大丈夫です」


月冴との未来が欲しいから。

自分の感情と向き合い、心を理解して自信をもって隣に立ちたいから。

泣くのは後からいくらでも出来る。

その時に月冴はやさしく受け止めてくれると、ちゃんと知っているから大丈夫。


少女は月冴の手を引き、椿に微笑みかけて白い穴に飛び込んだ。

ポカンとした椿だったが、クスリと目を細めて笑い返す。

光の波を抜け、視界が開けると見覚えのある景色が映り込んでいた。



道を行き交う人々が足を止め、突如現れた少女たちを凝視する。

村から生贄として出された少女と椿の姿にざわついて、間に立つ月冴を見て言葉を失った。

華やかな椿に、麗しさの象徴のような月冴では少女は霞んでしまう。

少女だけなら見る者はいないだろうが、二人への注目のおこぼれでチクチクと視線がささっていた。


「椿!?」


騒ぎを聞きつけて前方から侍の恰好をした男性が駆けてくる。

「あんた……」

人をかきわけて飛び出してきた男に椿は息を呑んで表情をこわばらせた。

対照的に男は安堵の笑みを浮かべ、感極まった様子で椿を抱きしめた。


「すまないっ……本当にすまない!」

懺悔を口にしながらも歓喜の色を隠し切れず、一見すると感動的な光景だが……。

「触らないでくれる?」

と、椿の返答は氷点下に迫る冷たさで、男の肩を突き飛ばすと呪わしい目をして見下していた。