それはあまりに少女の孤独を浮き彫りにする出来事だった。


少女は村から少し離れた山の麓に暮らしていた。

両親は少女が生まれてすぐに亡くなったらしく、顔馴染みという男に育てられた。

酒飲みでろくに働きもしない男であったが、育ててもらった恩を返そうと少女はせっせと働いていた。


「おじさん、ただいま戻りました。今日はいっぱい山菜がとれ……」


採れたての山菜を使っておひたしでも作ろうと考えていたが、戻ってすぐに籠が手から落ちた。

いつもぐうたらしている養父が珍しく身だしなみを整え、来客の男二人と話している。

「おじさん、この人たちは……」

突如、少女は男たちに拘束され、困惑のまなざしを養父に向ける。

返ってきたのは養父の冷笑と、侮蔑の言葉だった。


「お前とは今日でお別れだ」

「何を言っているんですか? この人たちは誰ですか?」

「今後はおめぇの面倒を見てくれるってよ。ったく、大した金にもならねえから大損だ」

「だっ……だから何を言っているんですか? 意味がわからないです……!」


見つめ続けた養父の背が遠ざかる。

ずっと振り返ってくれない背中を追って、名前を呼んでもらえると期待していた。


(なんで? 私にはここしかないのに。なんで……)

何もかもが壊れていくなかで、最後に養父が見せたのは下劣な笑い。

懐から金銭の入った麻袋を取り出して、少女に見せつけるかのように床に置いた。


「……嘘。おじさんは私を売ったりなんかしない。違う、違いますよね! ねぇ……!」


欲し続けた答えを得ることもなく、腹を強く殴られて頭の中がチカッと光った。

強い衝撃に視界が横線を引いて、膝が折れて前に倒れていく。


(そっか。私ははじめからこのために……)

養父に捨てられたと痛感し、少女は心が冷めていくのを感じながら目を閉じた。