三上のおかげで仕事がバンバン決まっていく。
演技は徐々に評価されていった。
演技として弱いところはその都度三上が指導に付き合ってくれた。
二十代前半で新人賞を受賞。
二十代後半になり日本アカデミーにノミネートされた。
全てが順風満帆だったわけではない。
しかし、結果だけを見れば順調な役者人生。
舞台稽古から始まった僕の役者人生は、彩を見せるまでに時間をかけていたけれど、それを見るものは少ない。
結果だけを見て、有名だと謳われてこの人に演技を任せれば十分いい出来になると持て囃される。
その過程でどれだけの苦悩や葛藤があるかなんて気にもしない。
だから、僕からも見てほしい、気づいてほしいなんて言わない。
それを言ってしまうから、人は狂うし、間違いを犯す。
普通であることが正しいとされるこの世の中では、それらを承認欲求だと卑下にする。
普通がなんなのかと問われれば誰もが賛同者の元声を大にする。
だが、個々に聞けば口を閉ざす。
誰も主体的に考えたことなんかないと言うのに、それが普通だ、当たり前だと言論を弾圧する。
表現の自由とはなんだろうか。
そう思うことはある。
ただ、そう思ったところでどうしようもないのが虚しくもあり淋しいのかもしれない。
少しくらいわかってよ、と思う気持ちは父さんにもあったのかもしれない。
ありふれた恋愛小説、青春小説を描いた父さんの死にはそんな暗い思いは隠されている。
悩んでも、答えを知っても、離れていく人ばかり。
それに触れると憤りを感じるものばかり。
だから、人は人を見てないし、自分のことばかり見て、勝手に死んでいく。
すぐそばにあるはずのものに気づかないで。
確かめてほしい。
考え直してほしい。
本当に君を見てくれないのか。誰もそこにはいないのか。
パッと浮かんだ人の面影に被りを振る前に吐露して見てほしい。
理解してくれるかもしれないから。
祈ることしかできないけれど。
否定されてからでも考えることはできる。
そういった機関もあるのだから、活用するといい。
それでも自分に合わない人はいる。
そこから学べばいい。
間違った方向にいかないでほしいけれど。
どこかできっと誰かが引き戻してくれる。
暗い夜は、確かに暗いままだけど、月が明るいのはそんな人たちに小さな光を見せるため。
ならば、その光が消えた時、希望はないのだろうか。
否、少し休もうよって意味だと思う。
月の周期が二十九日、そのうちに何度も月が隠れるのは疲れを癒すためかもしれない。
映画に行ったり、カラオケに行ったり。
ありふれたものに触れていけばいい。今のはほんのたとえだ。
それが、気の張った疲れを癒すかもしれないのだから。
気晴らしは適当に手探りに自分の求めたものをみつければいい。
ありふれた日常を求めていた父さんだからかけた小説。
僕はありふれた日常を求めていないから、最後まで気づけなかったけれど。
いつかどっかで隠していた気持ちが溢れた時は休もうか。
ほとんど休みもなく仕事をこなす日々だけれど、たまには僕も休んでみる。
君たちもそうしてみてはいかがだろうか。
取材を終えて、家に帰る。
今日は久しぶりに早く帰れる。
労基のせいもあるのか、最近はだいぶホワイトになった芸能界。
一日、十何時間もぶっ通しで撮り溜めするなんてこともあったはずなのに。
時代の流れとともに変わっていった。
誰と遊ぼうか女の連絡先を選んでいると通知がなる。
愛香からだ。
彼女はもう芸能界を辞めている。
僕と結婚して、心底嬉しそうに見えたけれど裏腹に芸能界には辟易していたそうだ。
こんなに楽しい業界他にないだろうと思う。
だけど、彼女は苦しかった。
惜しまれていたけれど、仕方がない。休む方法の一つでもある。
彼女に時間を奪われ続けるのは苦なので、距離を置いていたけれど、今回は大事な話があるそう。
せっかく休みに入ると言うのに、これじゃ休みではない。
彼女の前でそんな顔しないけれど、どこで休めばいいのだろう。
休みの日は一緒に外に出たいと人目を気にするべき業界人に気を遣ってくれない。
愛香が、芸能界にいたときは、学生という保険でどこにでもいけたかもしれないがいい大人に保険なんてない。
プライバシーなんてものはなくて、その写真だけでも事務所で話をすることになるというのに。
今スキャンダルが出たら面倒だという理由で慎重に遊んでいるのだから、本当に気を遣ってほしいものだ。
初めの頃は処女で可愛げがあったのに、今はもう性行為はしたくないと拒まれている。
優柔不断にやっぱりこれ食べたいと高い店にいって、キャンセル料は全額が一般的。減る金が増えて、楽しみは減っていく。
結婚してからも変わらず彼女は、自由にここに行きたい、あそこに行きたい、あれを食べたいなどなど。
子供が欲しい、女の子がいい、そんなことを言うくせに、いざ行為に及ぶとなると拒む。
背を向けて寝れば、泣く。突然喚く。怒りに任せて発狂する。
何が原因なのか。
全くわからない。
関わる気力もない。
そもそも結婚は親が無理やりさせたもの。
どんな考えをすれば、子供の人生の一生を奪えるのか。
だから、僕は親の一生を奪った。
家につく。
部屋には誰もいない。
リビングにいるのかと扉を開ける。
刹那、ドスンッと音がなると同時に愛香の頭がすぐそこにはあった。
抱きしめておいたほうがいいのだろうか。
胸板に頬を当てるでもない彼女が何をしたいのかわからない。
愛を求めているようには見えない。
「……愛香?」
「名前、呼ばないで」
「……どうしたんだ、急に」
「振り回さなきゃ良かったんだ……。これまでずっと振り回せばもっと私のこと見てくれるって思ってた」
衝撃的な一言をボソッと告げる。
「浮気や不倫なんてしないと思ってた」
「……っ!?」
「全部気づいてた!少しは変わってくれるかなって思ってたのに!最低!」
下腹部から滴る何かに気づく。血だ。
彼女が手に持つ刃物を僕の体から振り抜く。
「ぐああああああ!!」
血がドバドバと床に散らばる。
「愛香!!お前!」
「浮気性が!」
「違う!」
「一方通行だった私の気持ち、あなたにはわからないでしょ!!」
「何いってんだ」
「芸能界にいる人みんなそんな人ばっかり!あなただけは違うって思ってたのに!真里さんだってそう言ってくれてたのに……。裏切り者!」
彼女の癇癪は限度を超えていた。
これでは人殺しだ。
早く救急車に連れていってもらって、処置をしてもらう。
生きていれば、次の仕事にも行ける。
今日のことに目を瞑って彼女にもこれまでの浮気や不倫に目を瞑ってもらう。
それでいい。
スマホをとり、電源を長押ししてSOSをスワイプする。
「私の話も聞かないで何してるの!?」
僕のスマホを蹴り飛ばし、僕の体を押し倒す。
「やめろ!話し合えばわかる!何か勘違いしている!」
「証拠は全部で揃ってるの!最悪、裁判でもいい。私があなたとの子供を作りたがらない理由まだわかんないの!?」
「わかるわけないだろ!欲しい欲しいってそればっかりじゃないか。愛香は僕に何かしてくれたのか!?」
「不倫するような人に何をしろっていうの!?セックスしたら不倫相手と一緒じゃない!あなたの愛があるからできることなのに!!」
「それは」
「愛がないのにできる人の愛なんて信じられない!!」
元も子もないことを言われて、ふと思う。
「それじゃあ……、子供を作る気はなかったってこと?」
「……」
「今まで何度か子供用の家具とかみにいってたけど、気持ちだけ想像してた?いや、演技?僕を殺して、愛を感じられる?まともな人はそんなこと思わないでしょ」
「私は、昔っからずっと愛してた。私が好きかもっていった時、あなたは僕もって返してくれた。ずっと続くと思ってた」
「……」
「でも、違和感はあったんだよ。コンビニでばったり出会って露骨に嫌な顔をして、他の子との関係に気づかれたくなかったんでしょ?最初に嫌な顔すれば、私がなんで?って可愛く言ってくれるから」
「あれも全部演技だった?」
「違うよ。あなただから可愛くなれたのかもね」
刃物の先端を見やる彼女は、怒りに任せて何度も僕の腹をブッ刺した。
「あなたは気づけなかった!些細な変化に一切気づかないで、求められているから適切に返そうとして。それが無欲で愛もなくて不満だった。離れていってしまいそうで不安だった!」
力が出なくて、言いたい言葉が口にできない。
「……私一人の愛じゃ、足りなかった?」
たった一つの過ち。
そう捉えられているのだろう。
でも、彼女は僕の過去を聞かないし、口にすれば話を変えてきた。
一方通行で聞きたくないものには目を伏せて、自分の意見だけを伝えている。
そんなわがままな子供じみた大人が目の前にいる。
愛香だったから愛を感じなかった。
そもそも僕は親が勝手に決めた結婚に口出しできなかったのだから。
愛香よりもいい人がいた。
その人といい感じになってて、バッサリ切り捨てた親のせい。
愛香は、幼馴染くらいがちょうどいい関係だった。少しそういう関係があるくらいで。
それ以上はないと思っていた。
父さんもそんな恨みがあったのだろうか。
親を憎む気持ちはこんな感じだろうか。
もう僕の親はいない。
父さんの復讐と似た感じになってしまった。
失われたものは返ってこない。
返してくれ。
僕が望んでいた結婚を。
僕が望んでいた愛情を。
全部、返してくれ。
「来世はさ、普通に結婚しようね」
死ぬ間際、キスをされる。
こいつのキスで人生が終わるなんて。
あぁ、どこで間違ったんだろう。
考える暇もないままに救急車が来る頃には終わりを迎えていた。
〜〜〜
環境のせいにする人がいる。
息子と夫だ。
どちらもよく似ていた。
夫は自身のかく小説で実の父親を殺した。
復讐だ。
では、息子は?
これまた驚く方法だった。
私をトラップにはめて、週刊誌に売った。
そして、精神的に追い詰められた私に一手を打ち込んだのは息子だ。
結婚くらい自分で決めたかったと最後に聞いた。
結婚願望がないと思っていたのだから、仕方がない。
でも彼はそれを本気で許していなかった。
なぜだろうか。
考えに考えを重ねた。
中学生の頃だろう。
いろんな女に手を出していたらしい。それも国語の教師に遊ばれてからだという。
それを察したのは、彼が行為に及んだすぐのこと。
女の勘というのが今も働いている。驚いた。
知ったのは本当に最近だ。
なぜ遊ぶようになったのかはわからない。
本音を言おうなんてしていただろうか。
覚えてない。
スラリと交わしたかもしれない。
誰かに言えばよかったのに。
どうせ芸能界に入ってからも遊んでいるのだろうと思って結婚させた。
遊ばせないために。
女の子が傷つかないために。
夫は、子供の未来を気にしていた。健やかに長く生きて欲しいと。
自分がいい学生時代を送れなかったからだろう。
芸能界も自分の意思ではない限り行かせないと言い合いになったくらい。
結果的に彼は芸能界に行った。遅かれ早かれ入ったのだ。
結婚も気にしていた。だけど、愛香がいいのではないだろうかと当時は言っていた。
だから良いと思ったのに。
しかし、この後どうなろうと関係ない。
良い感じに修復されるだろうし、私がいればなおさらそうなる。
環境のせいにして自分を許すのはよくない。
真面目に生きている人に失礼だ。
彼らは血を継いでいる。
誰かのせいにして未来を見ていない。
だから、報われない人生を送る羽目になる。
私を殺したからと言って未来は良くならない。
直接刃物を使ったわけではないけれど、間接的に殺したとしても犯罪者だ。
犯罪者には良い未来などない。
その地獄を味わえばいい。
私はそう呪った。
演技は徐々に評価されていった。
演技として弱いところはその都度三上が指導に付き合ってくれた。
二十代前半で新人賞を受賞。
二十代後半になり日本アカデミーにノミネートされた。
全てが順風満帆だったわけではない。
しかし、結果だけを見れば順調な役者人生。
舞台稽古から始まった僕の役者人生は、彩を見せるまでに時間をかけていたけれど、それを見るものは少ない。
結果だけを見て、有名だと謳われてこの人に演技を任せれば十分いい出来になると持て囃される。
その過程でどれだけの苦悩や葛藤があるかなんて気にもしない。
だから、僕からも見てほしい、気づいてほしいなんて言わない。
それを言ってしまうから、人は狂うし、間違いを犯す。
普通であることが正しいとされるこの世の中では、それらを承認欲求だと卑下にする。
普通がなんなのかと問われれば誰もが賛同者の元声を大にする。
だが、個々に聞けば口を閉ざす。
誰も主体的に考えたことなんかないと言うのに、それが普通だ、当たり前だと言論を弾圧する。
表現の自由とはなんだろうか。
そう思うことはある。
ただ、そう思ったところでどうしようもないのが虚しくもあり淋しいのかもしれない。
少しくらいわかってよ、と思う気持ちは父さんにもあったのかもしれない。
ありふれた恋愛小説、青春小説を描いた父さんの死にはそんな暗い思いは隠されている。
悩んでも、答えを知っても、離れていく人ばかり。
それに触れると憤りを感じるものばかり。
だから、人は人を見てないし、自分のことばかり見て、勝手に死んでいく。
すぐそばにあるはずのものに気づかないで。
確かめてほしい。
考え直してほしい。
本当に君を見てくれないのか。誰もそこにはいないのか。
パッと浮かんだ人の面影に被りを振る前に吐露して見てほしい。
理解してくれるかもしれないから。
祈ることしかできないけれど。
否定されてからでも考えることはできる。
そういった機関もあるのだから、活用するといい。
それでも自分に合わない人はいる。
そこから学べばいい。
間違った方向にいかないでほしいけれど。
どこかできっと誰かが引き戻してくれる。
暗い夜は、確かに暗いままだけど、月が明るいのはそんな人たちに小さな光を見せるため。
ならば、その光が消えた時、希望はないのだろうか。
否、少し休もうよって意味だと思う。
月の周期が二十九日、そのうちに何度も月が隠れるのは疲れを癒すためかもしれない。
映画に行ったり、カラオケに行ったり。
ありふれたものに触れていけばいい。今のはほんのたとえだ。
それが、気の張った疲れを癒すかもしれないのだから。
気晴らしは適当に手探りに自分の求めたものをみつければいい。
ありふれた日常を求めていた父さんだからかけた小説。
僕はありふれた日常を求めていないから、最後まで気づけなかったけれど。
いつかどっかで隠していた気持ちが溢れた時は休もうか。
ほとんど休みもなく仕事をこなす日々だけれど、たまには僕も休んでみる。
君たちもそうしてみてはいかがだろうか。
取材を終えて、家に帰る。
今日は久しぶりに早く帰れる。
労基のせいもあるのか、最近はだいぶホワイトになった芸能界。
一日、十何時間もぶっ通しで撮り溜めするなんてこともあったはずなのに。
時代の流れとともに変わっていった。
誰と遊ぼうか女の連絡先を選んでいると通知がなる。
愛香からだ。
彼女はもう芸能界を辞めている。
僕と結婚して、心底嬉しそうに見えたけれど裏腹に芸能界には辟易していたそうだ。
こんなに楽しい業界他にないだろうと思う。
だけど、彼女は苦しかった。
惜しまれていたけれど、仕方がない。休む方法の一つでもある。
彼女に時間を奪われ続けるのは苦なので、距離を置いていたけれど、今回は大事な話があるそう。
せっかく休みに入ると言うのに、これじゃ休みではない。
彼女の前でそんな顔しないけれど、どこで休めばいいのだろう。
休みの日は一緒に外に出たいと人目を気にするべき業界人に気を遣ってくれない。
愛香が、芸能界にいたときは、学生という保険でどこにでもいけたかもしれないがいい大人に保険なんてない。
プライバシーなんてものはなくて、その写真だけでも事務所で話をすることになるというのに。
今スキャンダルが出たら面倒だという理由で慎重に遊んでいるのだから、本当に気を遣ってほしいものだ。
初めの頃は処女で可愛げがあったのに、今はもう性行為はしたくないと拒まれている。
優柔不断にやっぱりこれ食べたいと高い店にいって、キャンセル料は全額が一般的。減る金が増えて、楽しみは減っていく。
結婚してからも変わらず彼女は、自由にここに行きたい、あそこに行きたい、あれを食べたいなどなど。
子供が欲しい、女の子がいい、そんなことを言うくせに、いざ行為に及ぶとなると拒む。
背を向けて寝れば、泣く。突然喚く。怒りに任せて発狂する。
何が原因なのか。
全くわからない。
関わる気力もない。
そもそも結婚は親が無理やりさせたもの。
どんな考えをすれば、子供の人生の一生を奪えるのか。
だから、僕は親の一生を奪った。
家につく。
部屋には誰もいない。
リビングにいるのかと扉を開ける。
刹那、ドスンッと音がなると同時に愛香の頭がすぐそこにはあった。
抱きしめておいたほうがいいのだろうか。
胸板に頬を当てるでもない彼女が何をしたいのかわからない。
愛を求めているようには見えない。
「……愛香?」
「名前、呼ばないで」
「……どうしたんだ、急に」
「振り回さなきゃ良かったんだ……。これまでずっと振り回せばもっと私のこと見てくれるって思ってた」
衝撃的な一言をボソッと告げる。
「浮気や不倫なんてしないと思ってた」
「……っ!?」
「全部気づいてた!少しは変わってくれるかなって思ってたのに!最低!」
下腹部から滴る何かに気づく。血だ。
彼女が手に持つ刃物を僕の体から振り抜く。
「ぐああああああ!!」
血がドバドバと床に散らばる。
「愛香!!お前!」
「浮気性が!」
「違う!」
「一方通行だった私の気持ち、あなたにはわからないでしょ!!」
「何いってんだ」
「芸能界にいる人みんなそんな人ばっかり!あなただけは違うって思ってたのに!真里さんだってそう言ってくれてたのに……。裏切り者!」
彼女の癇癪は限度を超えていた。
これでは人殺しだ。
早く救急車に連れていってもらって、処置をしてもらう。
生きていれば、次の仕事にも行ける。
今日のことに目を瞑って彼女にもこれまでの浮気や不倫に目を瞑ってもらう。
それでいい。
スマホをとり、電源を長押ししてSOSをスワイプする。
「私の話も聞かないで何してるの!?」
僕のスマホを蹴り飛ばし、僕の体を押し倒す。
「やめろ!話し合えばわかる!何か勘違いしている!」
「証拠は全部で揃ってるの!最悪、裁判でもいい。私があなたとの子供を作りたがらない理由まだわかんないの!?」
「わかるわけないだろ!欲しい欲しいってそればっかりじゃないか。愛香は僕に何かしてくれたのか!?」
「不倫するような人に何をしろっていうの!?セックスしたら不倫相手と一緒じゃない!あなたの愛があるからできることなのに!!」
「それは」
「愛がないのにできる人の愛なんて信じられない!!」
元も子もないことを言われて、ふと思う。
「それじゃあ……、子供を作る気はなかったってこと?」
「……」
「今まで何度か子供用の家具とかみにいってたけど、気持ちだけ想像してた?いや、演技?僕を殺して、愛を感じられる?まともな人はそんなこと思わないでしょ」
「私は、昔っからずっと愛してた。私が好きかもっていった時、あなたは僕もって返してくれた。ずっと続くと思ってた」
「……」
「でも、違和感はあったんだよ。コンビニでばったり出会って露骨に嫌な顔をして、他の子との関係に気づかれたくなかったんでしょ?最初に嫌な顔すれば、私がなんで?って可愛く言ってくれるから」
「あれも全部演技だった?」
「違うよ。あなただから可愛くなれたのかもね」
刃物の先端を見やる彼女は、怒りに任せて何度も僕の腹をブッ刺した。
「あなたは気づけなかった!些細な変化に一切気づかないで、求められているから適切に返そうとして。それが無欲で愛もなくて不満だった。離れていってしまいそうで不安だった!」
力が出なくて、言いたい言葉が口にできない。
「……私一人の愛じゃ、足りなかった?」
たった一つの過ち。
そう捉えられているのだろう。
でも、彼女は僕の過去を聞かないし、口にすれば話を変えてきた。
一方通行で聞きたくないものには目を伏せて、自分の意見だけを伝えている。
そんなわがままな子供じみた大人が目の前にいる。
愛香だったから愛を感じなかった。
そもそも僕は親が勝手に決めた結婚に口出しできなかったのだから。
愛香よりもいい人がいた。
その人といい感じになってて、バッサリ切り捨てた親のせい。
愛香は、幼馴染くらいがちょうどいい関係だった。少しそういう関係があるくらいで。
それ以上はないと思っていた。
父さんもそんな恨みがあったのだろうか。
親を憎む気持ちはこんな感じだろうか。
もう僕の親はいない。
父さんの復讐と似た感じになってしまった。
失われたものは返ってこない。
返してくれ。
僕が望んでいた結婚を。
僕が望んでいた愛情を。
全部、返してくれ。
「来世はさ、普通に結婚しようね」
死ぬ間際、キスをされる。
こいつのキスで人生が終わるなんて。
あぁ、どこで間違ったんだろう。
考える暇もないままに救急車が来る頃には終わりを迎えていた。
〜〜〜
環境のせいにする人がいる。
息子と夫だ。
どちらもよく似ていた。
夫は自身のかく小説で実の父親を殺した。
復讐だ。
では、息子は?
これまた驚く方法だった。
私をトラップにはめて、週刊誌に売った。
そして、精神的に追い詰められた私に一手を打ち込んだのは息子だ。
結婚くらい自分で決めたかったと最後に聞いた。
結婚願望がないと思っていたのだから、仕方がない。
でも彼はそれを本気で許していなかった。
なぜだろうか。
考えに考えを重ねた。
中学生の頃だろう。
いろんな女に手を出していたらしい。それも国語の教師に遊ばれてからだという。
それを察したのは、彼が行為に及んだすぐのこと。
女の勘というのが今も働いている。驚いた。
知ったのは本当に最近だ。
なぜ遊ぶようになったのかはわからない。
本音を言おうなんてしていただろうか。
覚えてない。
スラリと交わしたかもしれない。
誰かに言えばよかったのに。
どうせ芸能界に入ってからも遊んでいるのだろうと思って結婚させた。
遊ばせないために。
女の子が傷つかないために。
夫は、子供の未来を気にしていた。健やかに長く生きて欲しいと。
自分がいい学生時代を送れなかったからだろう。
芸能界も自分の意思ではない限り行かせないと言い合いになったくらい。
結果的に彼は芸能界に行った。遅かれ早かれ入ったのだ。
結婚も気にしていた。だけど、愛香がいいのではないだろうかと当時は言っていた。
だから良いと思ったのに。
しかし、この後どうなろうと関係ない。
良い感じに修復されるだろうし、私がいればなおさらそうなる。
環境のせいにして自分を許すのはよくない。
真面目に生きている人に失礼だ。
彼らは血を継いでいる。
誰かのせいにして未来を見ていない。
だから、報われない人生を送る羽目になる。
私を殺したからと言って未来は良くならない。
直接刃物を使ったわけではないけれど、間接的に殺したとしても犯罪者だ。
犯罪者には良い未来などない。
その地獄を味わえばいい。
私はそう呪った。



