きっとどこにでもあるような砂浜。
 冬のある日、あの頃を思い出す。
 彼女の暴挙に必死になって止めた。涙が彼女の頬に滴った。
 だけど、酒を飲みながら見るその海の波打ちはうるさいはずの波が静かで、うるさいほどの彼女の声の幻聴も静かになるほどで。
 酒が弱いくせにいつまでも飲んだっくれていつまでも酒にしがみつく。
 成功してから人生は順調だった。
 元からビジネス思考だった僕にとって何も間違いはなかった。
 望む変化がなくても打開策を練って、次に進む。
 だから、気づかなかったのだろう。
 僕は、愛を知らない。
 この先もずっと知らない。
 息子を残して、命を捨てること。
 それがどんなに子供に悪影響だったのか知ることもなく、僕は死んでいく。
 いつまでも残り続ける死への執着。
 やっと死ねるのだ。
 家に帰り、高校受験を控えた彼の寝顔を見て、頬が緩む。
 泣いてしまいそうなほど、愛おしい。
 愛は、なんだろうか。
 愛とは、何故に人を成長させるのか。
 僕は愛を知らない。
 彼女に教えてもらったはずだった。
 だけど、一生消えぬその憎は僕を死へと誘う。
 これ以上、生きたいと望まぬ僕を優しく殺してくれる。
 ありがとう。さようなら。
 彼女には伝えるだけ、伝えられたはずだ。
 小説を通して、作った小説が売れるようにとインフルエンサーになったあの頃から。
 もしかしたら、彼女を知らない方が良かったのかもしれない。
 しかし、彼女を知っていたから、愛を知れた。
 彼女のおかげだ。
 ありがとう。
 そして、さよなら。
 インフルエンサーとしても、小説家としても、愛されていてと思う。
 愛は感じなかった。
 彼女を愛せただろうか。
 わからないけれど、僕の思いは伝えられたはずだ。
 もう十分だろう。
 首にロープを縛り付ける。
 部屋のドアに引っ提げて体重を預ける。
 この世からあの世へとさよならを。
 愛とはなんだか、最後まではわからなかったけれど、きっと誰かが教えてくれるはずだ。
 息子よ、それを知って生きていくんだ。
 死にゆく馬鹿な親を見捨て、立派に育つことを信じて。