志成様は共に生きると約束した私を大切にしてくれた。今まで鷹宮の屋敷に閉じ込められてきた私を、今度は暁烏に閉じ込めるようにして。結局鳥籠の金糸雀に変わりはないのかも知れないが、環境は随分と違う。
 血の気の無い顔で歩く私を後ろ指差してきた鷹宮の人たちとは違い、暁烏の人たちは私に人間としての敬意を持って接してくれる。皆親切で、志成様が仕事で留守にしている間でも困ることはない。

 志成様は仕事から戻ると必ず私に歌をせがむ。怪我をしているわけではないようだが、断る理由もない。だから毎日志成様のために歌うのが習慣となった。
 時に青藍の夜空を見上げながら。時に満開の桜の下で。またある時は私の膝の上に陣取った、彼の艶のある黒髪を手で梳きながら。歌って欲しいとせがむくせに、時折口付けて妨害してくる志成様と一緒に暮らす時間は……私にとって初めて健康的で心穏やかに過ごす時間だった。

「目を釣り上げて怨霊を追いかけ、殺伐とした生活をしていた志成様が、ここまで変わるなんて」

 使用人達がそう噂しているのを聞いた私は、私と同様に志成様もこの生活を楽しんでくれているのだと分かり、嬉しかった。
 

 祝言から三ヶ月程は蜜月として職務が軽減されていた志成様だが、それが終わると軍人としても当主としても通常運転。元々帝に気に入られ重用されていた志成様は一気に忙しくなった。
 そのせいか、とある日の朝。玄関先でお見送りする私を抱きしめたまま動かなくなった。

「……行きたくない」
「え! もしかして志成様、体調不良ですか?」
「違う。帝があまりにも和音の事を根掘り葉掘り聞いてくるから、面白くない。どうして愛しの妻のことを教えてやらないといけないんだ。あと正行も和音を返せと、煩く付き纏ってくるし」
「正行の無礼に関しては申し訳ございません。後で手紙を送って、よく注意しておきますから」

 急に忙しくなったから、お疲れなのかもしれない。そこに正行が更に迷惑をかけているのなら、辞めさせなければ。

「いや、手紙は送らないでくれ。あいつは下手に刺激しないほうがいい。品のない野鳥は無視だ。なんなら帝もその枠に突っ込んでもいい」
「鷹はまだしも、鳳凰の帝まで野鳥……」

 そんな事を話していれば、志成様が「決めた」と呟いて、私を抱き上げた。そして近くにいた使用人に「今日は休む。帝に伝えてくれ」と頼み、私を連れ真っ直ぐに部屋へと帰る。

「え、お休みするのですか?」
「ああ。俺の前で和音が姉の顔をしたのが気に障った。鷹宮のことは忘れて、俺に夢中になって欲しいのに。だから今日は──逢引だ」
「……は?」