ある日、伊吹は重々しい表情で薬研家へやって来た。
「伊吹様、どうかなさいましたか?」
美琴は心配そうな表情で、作った林檎とクリームのパイを出す。
「今までよりもずっと強力な妖魔が出現したと情報が入ったんだ。今からの討伐は、数日かかる可能性がある」
「まあ……」
美琴は肩をピクリと震わせた。
すると、美琴を安心させるかのように伊吹はフッと笑う。
「でも、いつも通り私が妖魔を倒すさ」
伊吹はパイを一口食べる。
「やっぱり美琴さんの作るお菓子は美味しいし、力が湧く。君のお陰で私は強くなれるんだ」
「それは……身に余る光栄ですわ」
美琴は林檎のように頬を赤く染めた。
「伊吹様、ご武運をお祈りしております」
「ありがとう、美琴さん」
伊吹は頼もしげに微笑んだ。
◇
伊吹が言った通り、妖魔討伐は数日に渡っていた。
美琴は妖魔討伐隊の状況を毎日新聞で確認している。
(伊吹様、無事でありますように……)
今の美琴には、祈ることしか出来ず歯痒かった。
そんなある日のこと。
昼食の時間になり、美琴は母や兄達と一緒に父を待っていた。
すると、美琴の父、昭夫は重々しい表情で部屋に入って来た。
昭夫は手紙のようなものを持っている。
「昭夫様、何かあったのです?」
母、静子は明夫の様子をいち早く察知して、心配そうな表情になる。
「妖魔討伐隊の大半が妖魔の攻撃により死亡したそうだ……」
重々しい声の昭夫。
美琴はひゅっと息を飲んだ。
「伊吹様は……伊吹様は……大丈夫なのでしょうか……?」
美琴の声が震える。
もし伊吹が亡くなっていたらと思うと、心臓が冷える。
「落ち着きなさい、美琴。死亡者名簿に伊吹様の名前はなかった」
昭夫は美琴に持っていた手紙のようなものを渡す。
それは妖魔討伐の状況と、死亡者名簿だった。
確かにそこには赤院宮伊吹の名前はなかった。
美琴はほんの少しだけ肩を撫で下ろす。
(伊吹様はまだ戦っていらっしゃるのね……)
そして美琴はいても立ってもいられなくなる。
(私も、伊吹様の力になりたい……!)
美琴は勢い良く立ち上がり、部屋を出て行く。
静子が「美琴、待ちなさい!」と言ったが、美琴は立ち止まらず厨房へ向かった。
新しいものが好きでも、今まではこの心地良い環境から抜け出そうとしなかった美琴。
しかし伊吹に出会い、趣味の洋菓子作りで活躍出来ることを知った。
美琴は伊吹の為に今出来ることをしないと絶対に後悔すると思い、厨房で補助異能を込めたお菓子を作り始めるのであった。
使う材料は、卵、砂糖、バター、蜂蜜、小麦粉、発泡粉。
マドレーヌの材料だ。
(どうか伊吹様のお力になれますように)
美琴はそう願いを込めて、手際良く材料を混ぜていた。
マドレーヌが窯で焼き上がると、美琴はすぐに取り出した。
出来上がったマドレーヌを箱に入れ、着替えて屋敷を飛び出す美琴。
その際、伊吹からもらった桃花色のリボンで髪を結う。
(伊吹様……)
伊吹を想い、美琴はリボンに触れた。
美琴は必死に走り、伊吹がいる妖魔討伐隊の元へ向かった。
場所は事前に伊吹から聞いていたので、どこへ行けばいいかは分かる。
(伊吹様、どうかご無事で……!)
◇
一方、伊吹は妖魔の攻撃を何とかかわし、戦っていた。
人よりも遥かに大きな蜘蛛の妖魔である。
妖魔は糸を吐き、討伐隊を攻撃する。
伊吹は異能により炎を繰り出して妖魔の糸を切った。
(……美琴さんの補助異能が切れるまで恐らくもう時間がない。早く倒さねばならない……!)
伊吹の中に焦りが生まれていた。
その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「伊吹様!」
その声を聞いた伊吹は驚愕したような表情になる。
「美琴さん……!?」
伊吹は妖魔の攻撃を避け、一旦その場を仲間に任せた。
「美琴さん、どうしてここに!?」
「伊吹様のお力になりたくて……!」
息を切らしている美琴。
伊吹に箱を渡す。
「これは?」
「マドレーヌです。私の補助異能を込めた」
まだ美琴は息を切らしていた。
「美琴さん……!」
伊吹は頼もしい表情になる。
「ありがとう。美琴さんからもらった補助異能がもうすぐ切れそうだったんだ」
伊吹は勢い良く美琴が作ったマドレーヌを完食した。
「やはり君の作るお菓子は美味しいし、力が湧く。美琴さん、向こうの拠点はまだ安全だから、そこに避難していなさい。すぐに妖魔討伐を終わらせる」
伊吹はフッと笑い、妖魔討伐最前線へ向かった。
その後は伊吹が異能で妖魔を蹴散らした。劣勢だったのが嘘のようである。あっという間に討伐が終わるのであった。
「伊吹様、どうかなさいましたか?」
美琴は心配そうな表情で、作った林檎とクリームのパイを出す。
「今までよりもずっと強力な妖魔が出現したと情報が入ったんだ。今からの討伐は、数日かかる可能性がある」
「まあ……」
美琴は肩をピクリと震わせた。
すると、美琴を安心させるかのように伊吹はフッと笑う。
「でも、いつも通り私が妖魔を倒すさ」
伊吹はパイを一口食べる。
「やっぱり美琴さんの作るお菓子は美味しいし、力が湧く。君のお陰で私は強くなれるんだ」
「それは……身に余る光栄ですわ」
美琴は林檎のように頬を赤く染めた。
「伊吹様、ご武運をお祈りしております」
「ありがとう、美琴さん」
伊吹は頼もしげに微笑んだ。
◇
伊吹が言った通り、妖魔討伐は数日に渡っていた。
美琴は妖魔討伐隊の状況を毎日新聞で確認している。
(伊吹様、無事でありますように……)
今の美琴には、祈ることしか出来ず歯痒かった。
そんなある日のこと。
昼食の時間になり、美琴は母や兄達と一緒に父を待っていた。
すると、美琴の父、昭夫は重々しい表情で部屋に入って来た。
昭夫は手紙のようなものを持っている。
「昭夫様、何かあったのです?」
母、静子は明夫の様子をいち早く察知して、心配そうな表情になる。
「妖魔討伐隊の大半が妖魔の攻撃により死亡したそうだ……」
重々しい声の昭夫。
美琴はひゅっと息を飲んだ。
「伊吹様は……伊吹様は……大丈夫なのでしょうか……?」
美琴の声が震える。
もし伊吹が亡くなっていたらと思うと、心臓が冷える。
「落ち着きなさい、美琴。死亡者名簿に伊吹様の名前はなかった」
昭夫は美琴に持っていた手紙のようなものを渡す。
それは妖魔討伐の状況と、死亡者名簿だった。
確かにそこには赤院宮伊吹の名前はなかった。
美琴はほんの少しだけ肩を撫で下ろす。
(伊吹様はまだ戦っていらっしゃるのね……)
そして美琴はいても立ってもいられなくなる。
(私も、伊吹様の力になりたい……!)
美琴は勢い良く立ち上がり、部屋を出て行く。
静子が「美琴、待ちなさい!」と言ったが、美琴は立ち止まらず厨房へ向かった。
新しいものが好きでも、今まではこの心地良い環境から抜け出そうとしなかった美琴。
しかし伊吹に出会い、趣味の洋菓子作りで活躍出来ることを知った。
美琴は伊吹の為に今出来ることをしないと絶対に後悔すると思い、厨房で補助異能を込めたお菓子を作り始めるのであった。
使う材料は、卵、砂糖、バター、蜂蜜、小麦粉、発泡粉。
マドレーヌの材料だ。
(どうか伊吹様のお力になれますように)
美琴はそう願いを込めて、手際良く材料を混ぜていた。
マドレーヌが窯で焼き上がると、美琴はすぐに取り出した。
出来上がったマドレーヌを箱に入れ、着替えて屋敷を飛び出す美琴。
その際、伊吹からもらった桃花色のリボンで髪を結う。
(伊吹様……)
伊吹を想い、美琴はリボンに触れた。
美琴は必死に走り、伊吹がいる妖魔討伐隊の元へ向かった。
場所は事前に伊吹から聞いていたので、どこへ行けばいいかは分かる。
(伊吹様、どうかご無事で……!)
◇
一方、伊吹は妖魔の攻撃を何とかかわし、戦っていた。
人よりも遥かに大きな蜘蛛の妖魔である。
妖魔は糸を吐き、討伐隊を攻撃する。
伊吹は異能により炎を繰り出して妖魔の糸を切った。
(……美琴さんの補助異能が切れるまで恐らくもう時間がない。早く倒さねばならない……!)
伊吹の中に焦りが生まれていた。
その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「伊吹様!」
その声を聞いた伊吹は驚愕したような表情になる。
「美琴さん……!?」
伊吹は妖魔の攻撃を避け、一旦その場を仲間に任せた。
「美琴さん、どうしてここに!?」
「伊吹様のお力になりたくて……!」
息を切らしている美琴。
伊吹に箱を渡す。
「これは?」
「マドレーヌです。私の補助異能を込めた」
まだ美琴は息を切らしていた。
「美琴さん……!」
伊吹は頼もしい表情になる。
「ありがとう。美琴さんからもらった補助異能がもうすぐ切れそうだったんだ」
伊吹は勢い良く美琴が作ったマドレーヌを完食した。
「やはり君の作るお菓子は美味しいし、力が湧く。美琴さん、向こうの拠点はまだ安全だから、そこに避難していなさい。すぐに妖魔討伐を終わらせる」
伊吹はフッと笑い、妖魔討伐最前線へ向かった。
その後は伊吹が異能で妖魔を蹴散らした。劣勢だったのが嘘のようである。あっという間に討伐が終わるのであった。