それから二ヶ月が経過した。
――初春。
まだ雪が残り、鶯は鳴いていない。
水色の空に白い月が残っているその日、焔と緋雨は祝言を挙げることとなった。
白無垢姿で座る緋雨は、時折黒紋付の焔を横から見やる。
緋雨のがわには、親族の姿はないが、焔の両親が本当の娘のように可愛がってくれているから寂しさはない。酒盃の中身は水だが、それに口をつけ、粛々と宴が催された。
「夢だったんだ、こうして緋雨と並ぶのが」
「私も、同じなの」
「本当か?」
「ええ。手紙を交換する度に、そうなったらいいなと思っていて――でも、焔様がこんなに格好良くなっちゃっていたのはびっくりしたけれどね」
「俺こそ緋雨があまりにも美しくて緊張したんだぞ?」
そんなやりとりを小声でしながら、二人は見つめ合って微笑し合う。
ここに結ばれた一組の夫婦は、とても幸せそうだった。
その後も二人は幸せで、春になれば手を繋いで、池にかけられた橋を渡って桜を眺め、夏には無花果に手を伸ばしたり紫陽花を愛でたり、秋にはまた橋を渡って紅葉や銀杏の絨毯を歩き、冬には薄氷と雪を愛でた。
もう、氷がはっても、緋雨の心は冷えない。
それは約束通りに焔が手袋やマフラーを贈ってくれたからではなく、隣にいてくれるからだ。焔の体温が、今では緋雨の宝物だ。三年後、二十一歳の年に、二人は子供を作って、二十二歳の年に子宝に恵まれるのだが、それはまだ先のお話だ。二人はずっと、幸せだった。